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第20話
「もしもし。」
「もしもし~。俺。」
「何。」
「前にさ~。サイン会の話したじゃん俺。」
「あー。してたね。」
「あれ、ちょうど半年後くらいにやる事になったから。」
「は?」
「ちょうどそん時くらいに、新作出す予定だったしいい頃だろ。」
「いや、俺無理つったよね?」
「んー。俺も言ったんだけどね。上は絶対業界だからさ。」
「俺みたいなやつに断る権限ないし。人助けだと思ってさ!」
「ガチやだ。」
「奢るから。」
「無理。」
「.....そういえば、お前が行きたがってた先5年は予約取れない焼肉屋の招待券が何故か俺の手元に~。」
「.....チッ。分かったよ。」
「おっけー。じゃあ、また詳細は後日。」
快晴だった、俺の心に一気に土砂降りの雨が降る。
「あー。無理すぎる。」
なんで、こんなにも嫌がるかと言うとこれにも、一応訳がある。
俺がまだ、新人だった頃に1度、サイン会を開催したことがあるのだが、その時来てくれていたファンの人に、軽くストーカーにあっていたのだ。
幸い、すぐ収まったが、自分的には苦い思い出となっている。
別に、女の子の事が嫌いな訳じゃないし、寧ろ、そういう経験は豊富な方だ。
だが、地味にトラウマになってしまったものはしょうがない。
しかし、皐月にも会社での立場があるのだろう。
今回で絶対最後にしてもらおう。
そう自分に喝を入れ、また仕事に励む。
「ピンポーン」
突然、チャイムがなる。
ふと、窓の外を見ると日もだいぶ沈んできていた。
ググッと、伸びをしながら、玄関へと向かう。
ガチャっと、ドアを開くとそこには、百合斗くんがいた。
「はい。あれ、百合斗くんだ。どうしたの。」
土砂降りの俺の心に、雲の隙間から日が差して来る。
自然と笑みが零れてしまう。
百合斗くんは、玄関先で固まっている。
どうしたんだろう、と思い顔の前で手を振る。
「?おーい。百合斗くーん?」
「!あの、これ、返しに来ました!ありがとうございます!!」
そう言い、小説を前に突き出す。
「あー。忘れてた。わざわざありがとね。」
「こちらこそです!」
あー。返しに来ただけね。。うん。だよね。
わざわざ、恋人になったからっていきなり何かが変わるわけじゃないしね。
しかし、ここで帰すのも何処か惜しいものがあり、急いで言葉を紡ぐ。
「あー、他にも読む、?」
内心、言っちゃった...感もあり、不安になりながら彼の顔を見る。
そこには、驚きにつつまれた表情の百合斗くん。
「!!はい!」
驚きの表情とは一変して、とても嬉しそうな顔をする。
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