普段、服を選ぶのが面倒臭いので、小説家ということに肖り、甚平か着物で毎日過ごしている。 外に出ると、物珍しさからか人々の視線が痛いが、もう慣れたものだ。 小説の資料集めをしていたら、もう出なきゃ行けない時間になっていた。 携帯と財布を袖の袂に入れ、急いで家を出る。 「夏目先生！！ご無沙汰しております。」 「こちらこそ、ご無沙汰しております。」 皐月の上司は良い人なんだが、少し熱血すぎて苦手だ。 「水瀬の方から、聞いていると思いますが、今日はサイン会の話を煮詰めていけたらと思っております。」 「水瀬、改めて1度説明を。」 「はい。来年の4月14日に夏目先生のサイン会が○○書店で行われます。」 「同時期に出る先生の小説に応募シリアルコードが封入されており、そちらに応募、当選された方のみの参加と考えております。」 普段と違い、仕事モードで俺に接している水瀬皐月にはいつまでも慣れない。 サイン会についての詳細をスラスラと言っていき、最後に何か質問はないかと問うてくる。 「あー、警備の方はどんな感じですか？」 「はい、以前のこともありますのでより厳重にさせて頂いております。」 「プレゼントも手紙のみとなっており、小物などのプレゼントは今回禁止と考えております。」 「分かりました。」 「まだ半年ほど空いておりますので、変更点も多々あると思われますが、現在の進捗はこのようになっております。」 「先生！そういう事でお願い致します！共に素晴らしいサイン会にしましょう！」 「はい。お願い致します。」 ニコッと、営業スマイルを浮かべ、さっさとその場から離れる。 タクシーを待っていると、大学生らしき男の子たちが楽しそうに笑いながら歩いている。 あー、ここ百合斗くんの大学の近くじゃん。 元気だなぁ。そんなおじさん臭いことを考えながらぼーっと学生を見つめる。 遠くの方では、女の子がなにやら騒いでいる声も聞こえる。 元気だな、そう思いながらチラッと声のするほうを見ると、なにやらこちらを指さしている。 俺？違うか。 また、前に向き戻りぼーっと景色を眺める。 「漱石さん！！！！」 すごい大層な名前の人いるなぁ。 「漱石さんっ！！」 その声がどんどん近付いてくる。 声のする方を見ると、百合斗くんが驚いた顔で立っていた。 「ん？あ、百合斗くん。こんにちは。」 「こんにちは！何してるんですか？？」 「ちょっと近くで仕事しててその帰りだよ。 百合斗くんは、お友達とお出かけかな？」 「空きコマでたので、カフェにでも行こうかと！！」