12 / 36
第12話
「由妃!」
聞き覚えのある、大好きな声が聞こえた。
これは僕の夢なんだろうか………?
目の前に現れた由磨は、僕を見てすぐに男に殴りかかった。
ボコッボコッ
僕との行為に夢中だった男は、由磨の出現を全く予想していなかったようで、不意打ちを食らい数発殴られた。
「……痛ってぇな、くそが。せっかくいいところだったのによぉ」
「お前がやってる事は犯罪だ。警察を呼ぶぞ。」
由磨は僕を抱きしめながらそっと上着をかけてくれた。それでも血が滲むくらい拳を強く握りしめて、まだ男に殴りかかろうとしていた。
由磨は空手を習っていたので、その威力は素人とは比べ物にならないだろう……
「くそっ、わかったよ。……またな、由妃。」
その時、由磨に抱きしめられていたので男の表情までは見えなかったが、きっとニヤつきながら僕の名前を呼んだに違いない。
「またな」って、また来るって事………?
僕は恐怖から止まらない涙で由磨の服を濡らしながら、何も話せないでいた。身体は震えが止まらないし、足に力も入らない。
由磨が来てくれなかったら、あの後もっと酷い目に遭っていたかもと想像するとゾッとした。
由磨は僕を抱きしめながら、頭を優しく撫でてくれた。それだけで少しは安心できた。
「………ごめんな、早く助けに来れなくて。」
僕を抱きしめる腕に力が入り、由磨の悔しさが伝わってきた。話せない代わりに、首を振り必死で由磨の言葉を否定した。
由磨は何も悪くない。……悪いのはあの男だ。
「………由妃、僕の家に帰ろう、な?」
コクリと頷き、でもまだ動けない僕を抱き抱えながら由磨は歩き出した。
こんな場所早く立ち去りたかった。
1分1秒でもこんなところに居たくない。
……もう思い出したくない。
由磨の首に腕を絡み付け、必死にくっついた。
もうひと時も離れたくない。この手を離したらまたあの恐怖が襲ってきそうで怖かった。
タクシーへ乗り、僕たちは由磨の家へ向かった。
ともだちにシェアしよう!