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第12話

「由妃!」 聞き覚えのある、大好きな声が聞こえた。 これは僕の夢なんだろうか………? 目の前に現れた由磨は、僕を見てすぐに男に殴りかかった。 ボコッボコッ 僕との行為に夢中だった男は、由磨の出現を全く予想していなかったようで、不意打ちを食らい数発殴られた。 「……痛ってぇな、くそが。せっかくいいところだったのによぉ」 「お前がやってる事は犯罪だ。警察を呼ぶぞ。」 由磨は僕を抱きしめながらそっと上着をかけてくれた。それでも血が滲むくらい拳を強く握りしめて、まだ男に殴りかかろうとしていた。 由磨は空手を習っていたので、その威力は素人とは比べ物にならないだろう…… 「くそっ、わかったよ。……またな、由妃。」 その時、由磨に抱きしめられていたので男の表情までは見えなかったが、きっとニヤつきながら僕の名前を呼んだに違いない。 「またな」って、また来るって事………? 僕は恐怖から止まらない涙で由磨の服を濡らしながら、何も話せないでいた。身体は震えが止まらないし、足に力も入らない。 由磨が来てくれなかったら、あの後もっと酷い目に遭っていたかもと想像するとゾッとした。 由磨は僕を抱きしめながら、頭を優しく撫でてくれた。それだけで少しは安心できた。 「………ごめんな、早く助けに来れなくて。」 僕を抱きしめる腕に力が入り、由磨の悔しさが伝わってきた。話せない代わりに、首を振り必死で由磨の言葉を否定した。 由磨は何も悪くない。……悪いのはあの男だ。 「………由妃、僕の家に帰ろう、な?」 コクリと頷き、でもまだ動けない僕を抱き抱えながら由磨は歩き出した。 こんな場所早く立ち去りたかった。 1分1秒でもこんなところに居たくない。 ……もう思い出したくない。 由磨の首に腕を絡み付け、必死にくっついた。 もうひと時も離れたくない。この手を離したらまたあの恐怖が襲ってきそうで怖かった。 タクシーへ乗り、僕たちは由磨の家へ向かった。

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