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第21話*#由磨side
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遂に、由妃と一線を超えてしまった……
あの状況ではこうするしかなかったんだ。
今は自分にそう言い聞かせる事しかできない。
本当は凄く嬉しかったんだ。
どんな形であれ、ようやく想いが届いた。
由妃の気持ちが僕と同じだと知れた。
それだけで、今は十分だ………
まさか由妃も僕を好きでいてくれたなんて…
この恋は実らず終わると思っていた。
そうなるはずだった。
大学を卒業して実家を出る時、そう決心した。
由妃の事は影で見守り続けると…
あの日、両親から聞かされた話。
由妃と僕は血が繋がっていないという事……
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由妃の両親は、由妃が幼い頃に離婚。
きっかけは父親の由妃への性的暴力だった……
由妃の父親は昔から小さい子どもが好きだった。母親も、それは性的な意味ではなく、単なる愛情だと思っていた。
由妃が生まれてから状況は一変した。
母親に似て、由妃は生まれた時から人並外れた美貌の持ち主だった。
両親もたいそう可愛がったそうだ。
しかし、由妃が成長するにつれ、父親の視線が厭らしくなっていった。
母親は気のせいだと見ないフリをしていたが…
ある日、あの事件が起こる………
母親はいつも通り昼にパートに行っていた。
その日は珍しく父親が有給を取っており、家にいるのは由妃と父親の2人だった。
母親は、仕事が早く終わったので、
急いで家に帰ると、
そこには…
泣き喚く息子を組み敷く父親の姿があった……
行為に夢中だった父親は母親の帰宅にすら気付かず、ただただ息子を嬲っていた。
母親は呆気にとられて一瞬身動きを取れずにいたが、すぐさま息子を父親から引き離した。
「っ………なにしてるの!私達の大切な息子よ?どうしてこんな……どうしてっ……」
「チッ……バレたか。愛だよ、愛。俺は由妃を愛してるんだ。だから抱いてやったんだ」
「……」
「せっかくいいところだったのによ〜。邪魔すんなよ。」
「………あんたなんて最低!由妃の前から消えて!由妃に2度と触れないで!」
そう言い残し、母親は由妃を連れてそのまま家を出たそうだ。
親戚もおらず、最初は行く宛もなく彷徨っていた。誰にも迷惑をかけたくないが、由妃を育てるには、もう1人ではどうにもできそうにない……
決心した母親は、親友だった僕の両親のところへ訪ねてきた。
そして…
由妃を残してどこかへ行ってしまったそうだ。
そこからは、ご存じの通り。
僕と由妃の暮らしが始まった…………
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由妃を大切にしたい、幸せにしたい。
その想いだけは誰にも負ける気はしない。
でも、世間的には僕と由妃は兄弟だ。
たとえ血が繋がっていなくとも、家族だ。
ましてや、男同士だ。
絶対に祝福される恋ではない………
それでも……
それでも…
……僕は由妃と共に生きたい。
由妃を、護りたい。
この日、僕は心にそう誓った。
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