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第6話

  「ほら、もう泣かない」 嗚咽を出して泣きじゃくる僕に監督は優しくそう言う。「泣くと疲れるよ」と彼らしい気遣いがまた僕の涙腺を緩める。ソレが、悪循環だと解っている筈なのに、彼はソレを止めようとはしなかった。雨の様にポツポツと降って来るバード・キスは擽ったい。零れるような彼の笑みはお日様の様にキラキラとしてて、僕は眩しくって目蓋を綴じた。 ソレは偶然なんだろうが、先生がバード・キスを落とした場所に監督の唇が当たった。ハッとする様に目蓋を開け、彼の綺麗な顔が視界に入って来ると、僕は迷わず彼の首に腕を廻して抱き付いていた。 「もうなかないから、もっとちゅーとして」 そうねだるのは、彼以外に触れられたくないと言う顕れ。先生に触れれた場所は汚されて綺麗じゃないと思ってしまっているから、そう募るのは尚更だ。この儘、監督に想いを伝えて彼のモノになってしまえば、もう先生は僕に触れて来ようとはしないだろうとか、僕の事を諦めてくれるだろうとか、ホント、卑怯な事ばかり考えてしまうのも。 「ふっふ、今日のサクラちゃんはとても愛らしいね♪」 大胆で積極的。何時も以上に初々しくってがぶりと食べちゃいそうととても嬉しそうにそう言って、監督は二階の突き当たりにある個室のドアを開いた。ソレが、本心であって欲しい。そう願う僕も愚かだ。相手の心を試したり、確かめたりするのも。 彼は慣れた足取りで中に入り、僕を抱き抱えた儘後ろ手でドアの鍵をガチャリと閉めた。ココからは別の世界だと言わんばかりに、彼の横顔が少しばかり怖い。僕を閉じ込めていたい?と思わず聞きそうになるくらい、彼の横顔は真顔で見惚れした。 ブラインドが下げられた薄暗い空間は、香味で芳しい甘い匂いが漂っていた。普段だったら噎せ返るくらい濃厚で、不快感しか残らないのに今日はそうでもなかった。 監督は漸く泣き止んだ僕を簡易ベットの上に降ろすと、 「さあ、さっきの続きを始めようか?」 と言う具合に僕のボトムスを脱がし始める。雰囲気も何もあったモノじゃないが、お互いにソレを望んでいるのだから仕方がない。 カチャカチャとバックルが外され、下着ごと下に下げられる。羞じらいがないのは、僕の中では彼にそうされたいと願っていたから。 シャツだけの霰のない格好。みすぼらしい。貧弱で、何もかもが未成熟で腹が立つ。小さな手と小さな身体は、幼児体型だ。日焼けしてない生っ白い肌に、膨らみも凹みもない平らな体躯と共に溜め息が漏れる。もう少し女性固有の丸みがあればと自ら、シャツの中に手を入れて小さな突起を胸事撫で上げた。 彼の視界に醸されている素足も真っ白で、まるで人形みたいだ。シャツの裾にこっそりと隠れているペニスさえなければ、完全にドールだと言い切れるくらいに。彼はこんな僕をどう言う風に見ているんだろう?と思いながら、彼の感情を読み取ろうと僕は彼の顔を覗き込む。怖いモノ知らずだと思うが、彼の一言一行が僕のステータスを上げるのだから仕方がない。 視線を下ろせばある筈の彼の顔がソコにはなかった。えっ?と目を凝らせば、怖いぐらい整った彼の顔が僕の太股に近付いていて、僕のペニスをシャツ越しにでろりと舐め上げる。 ハッと息を呑む間もなく、僕はブルッと身体を震わせた。ソレは、男性特有の快楽。背筋を人差し指でなどられたこそば痒さに似ていた。 「……っ!!」 そう声ともならないくぐもった音が、僕の喉から溢れ落ちる。こういう触れられ方はエロチックで、ゾクゾクする。そして、甘い悲鳴に似たモノが一気に僕を支配した。 一度しか触れられていないのに、びくびくと身体が痙攣する。次の刺激を心待ちにしているワケじゃない。女の子なら、解るだろう?雰囲気で登り詰めそうになるあの感覚を。 男だって、そう言う余韻に弱い。多分、女の子以上に敏感で、女の子以上にもろい。白目を剥いてイキ捲る姿は頂けないが。 「どう?気持ちイイ?」 彼はそう言って、今度は舌先でちょろちょろと鈴口を舐める。勿論、シャツ越しだから布が鈴口を擦って快楽は二倍である。 「……ん、……や、」 そう僕の口から溢れる。そして、ソレは快楽を逃がすのに必死だと言う粗末なモノだから、イヤらしくない。どんなに耳を澄ませても艶やかな撫で声ではなく、声変わりしていないタダの子供の声だ。 もっとセクシーであだっぽい声色だったら良かったのに。そう思うと、彼に聞かせるのは何だか忍びなく、僕は下唇をぎゅっと噛んだ。 彼は僕が恥ずかしくってそうしてしまったんだと思ったのか、 「……声、我慢すると唇が切れちゃうよ?」 そう言って下唇に親指を充てて来る。僕が何も答えず、フルフルと首を振ると、彼は僕の口の中に親指を押し入れた。舌を押さえるソレは彼の舌と同じで、熱くてとても甘かった。ソレが口内をグリグリと掻き混ぜられれば、自然と舌が彼の親指に絡み付き、閉ざされた口が大きく開かれる。溢れる唾液が彼の親指を伝って、彼の甲を濡らした。  

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