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第9話

  ソレから、撮影はおっつけ終了し、僕は先生と帰宅する事になった。えっちゃんにもお祝いのLINEを送って、七瀬さんにも挨拶をする。監督は光城さんに襟首を引っ張られ、今後のスケジュール確認を渋々やらされていた。 「サクラちゃん、また明日ね♪」 そう手を振る監督に、先生はイイ顔をしなかったが、光城さんに「田村先生、明日も宜しくお願いします」と言われたら、「ええ、此方こそご迷惑を掛けて申し訳ありません」と、営業スマイル曰く、外面のイイ笑顔を見せていた。 「……いや、待ってよ。ココの場所は、『例え、えっちゃんがソレを許したとしてもえっちゃんの周囲はソレを許さないだろう。ソレくらい僕にだって解る事だ。』の方がイイか……ちょっと、書き直そう……」 そう呟きながら携帯用の小さなキーボードを叩いていたら、背後から物凄い勢いで後頭部をしばかれた。「いだー!!」と叫ぶ僕の声が先なのか、 「いだーは俺のセリフだ!!」 と言う悲痛の叫びが先か、微妙だったが、僕の後頭部に痛みが走ったのは間違いなく、この双方の前だ。 「何すんの!しばく事ないじゃん!」 そう言って、僕はしばかれた頭を擦りながら後ろを振り返ったら、般若の如く仁王立ちしているえっちゃん事、冴木悦人がソコにいた。 「もーう!何?」と言う般若の顔で彼の顔を睨み返す僕事、嵯峨朔良は只今、某BL夢小説の執筆中である。 「もーう!何?じゃねぇよ。コレは、何だ!アン?言って見やがれ!!」 「ハア?コレは、何だ!って言っても、コレって儘じゃん?」 僕が書いた腐女子向けの同人誌がどうしたって言うの?と僕が呆れて言えば、 「どうしたもこうしたもねぇだろう!?コレ見てしばかん方が可笑しいわ!毎回毎回、テメーはどんだけ羞恥を晒せば気が済むんだ!」 俺はテメーの知り合いだって言う事が死ぬ程恥ずかしいわ!!と、えっちゃんはマジギレでそう叫ぶ。彼がそう叫ぶのも仕方がない。彼は僕の夢小説に出て来る冴木悦人のモデル……、と言うか、張本人。勝手に登場させています。そして、彼らの相違を言えば、性格。温厚と短気と言う以外は彼自身。否、親友分類も皆無に等しいか?そう、僕らは夢小説に出て来る先生と監督と同じくらい折りが合わない。 「でも、えっちゃんが一番人気だよ?抱かれたい男ナンバーワンじゃん?学校の中では」 「だからって、こう言うのは本人の許可が要るだろうが!!」 「え?でも、こうちゃんは嬉しいって喜んでくれてるよ?」 「ハ〰ア〰?ふざけんなっ!んなの、建前だろうが!!」 そう怒号するえっちゃんは、僕の携帯用のキーボードを掴んでぶん投げようとしていた。 「わああ〰ぁ、ちょ、待って待って。何やってんの?エツくん!!」 そう絶叫しながら、彼の投げようとしているキーボードを彼の手事掴んでいるのは、こうちゃん事、光城一である。彼も、えっちゃん同様僕の夢小説の中に出て来る光城一のモデルだ。性格はその儘だが、夢小説の彼と違って現実の彼は僕にデレデレある。ああ、恋とか、そう言うのじゃなく、タダ単に、僕を友人として溺愛し過ぎていると言うか、気に入られている。 「駄目だって!ちょ、サクくんに何しようとしてんの!危ないでしょう!!」 そんな彼はステイステイと言いながら、えっちゃんの怒りをどうにか収めようと試みようとしていた。が、 「アン?はじめ、テメーがそう言う甘い事言うからコイツが付け上がんだよ」 と、えっちゃんは凄い剣幕でこうちゃんにそう言うが、手に持っている携帯用のキーボードは僕に叩き付けようとしている。ああ、コレは相当、ブチキレているなと、僕は溜め息を漏らしながら、こうちゃんにこう言う。 「こうちゃん、その手離して上げなよ。携帯用のキーボードが可哀想だよ」 と。 キシキシと悲鳴を上げている僕の携帯用のキーボードを指差して、こうも言う。 「ソレ、結構、高いんだよね。壊したら器物損壊で訴えるから」 宜しく、と。折角、類に買って貰ったのにと言う顔をすれば、えっちゃんの手が緩む。彼はそう言う言葉に弱いのだ。ああ、類は僕の家に来ている家政婦さんの息子さんだ。神嵜類と言って、僕の夢小説にも出て来るBL監督だ。もう少し彼を紹介したいが、今はそう悠長な事は言ってられない。 えっちゃんが手を緩めた瞬間、こうちゃんが尽かさず携帯用のキーボードを彼から奪って、奪ったら奪ったらでこう言って来たのだ。 「俺、お金で弁償は出来ないけど、身体で払うから」 と。オイオイ、そう言う発言は止めて貰えませんか?確かに器物損壊で訴えると言ったが、ソレはえっちゃんの手から携帯用のキーボードを奪う策で、本気で訴えるわけない。そう弁明しようとしても、こうちゃんが僕に泣き付いて来るから、彼の後ろで立っているえっちゃんの目がマジで死んでいた。 「ちょっ、二人とも訴えないから、兎に角落ち着こう」 ねと死んだ魚の目をしているえっちゃんにそう視線を送るが、意気消沈で、さっきのあの勢いの彼は何処に行ったんだ状態だ。駄目だ、コレはと嘆息していたら、 「相変わらず、お前ら仲イイな?」 廊下の窓から顔だけを覗かせる担任が、そう言って来る。彼はイケメン教師で、女子に人気がある。そんな逸材をこの僕が放って置くハズがないだろう。美味しく夢小説で頂いてます。ああ、つまりだ。このイケメン教師事、田村淳史も僕の夢小説の犠牲者であると言う事。本人は知らないだろうが。 僕は苦笑いをし、 「どうかしたんですか、田村先生?」 そう話題を反らすと彼は思い出した様に、「正門に迎えが来てたぞ」と言う。そう言えば、もうそんな時間だと壁に掛かっている針時計を見て、僕は立ち上がった。こうちゃんが僕の鞄と携帯用のキーボードを持った。 「こうちゃん、ゴメン、有難うね」 そう言って、僕はのたのたと歩き出す。壁伝いに教室を出ると、担任が「気を付けて帰るんだぞ?」と手を振って見送ってくれた。えっちゃんはこうちゃんの鞄と自分の鞄を抱えて、僕らの後を追い掛けて来る。  

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