15 / 38
第5話 世南③
それから白瀬とは週に一回、会うか会わないかの日々が続いた。
学校では相変わらず白瀬を見かけても話しかけることはない。
白瀬はいつも誰かと楽しそうに話している。もともと世南が入る隙はないと思った。
「藤野!荷物重そうじゃん!持とうか?」
その言葉にドキリと心臓が音をたてる。世南はゆっくりと後ろを振り返った。
両手には五キロの米袋と牛乳パック二本を抱えている。
後ろに立っていたのは小学校から同じクラスの作間だった。
作間は家も近所で、昔からよく遊ぶ友達だ。家にも何回も来たことがある。
「・・作間、いいの?」
「ちょうど家帰るところだったから!まぁ持つのはこっちだけど!」
作間はそう言って牛乳が二本入った袋をパッと奪った。
「ありがとう!」
最近では白瀬の部活の予定に合わせておつかいに行くのもやめてしまった。
必要なものが出来たらその都度買いに行く。
もう中学二年だ。力も知恵も付いている。
わざわざ白瀬に毎回助けを頼む必要はない。
こうやって、たまに会えば手伝ってくれる気心の知れた友人もいる。
これで十分じゃないか。
離れてみて、去年一年間白瀬に心身ともに依存していたことを世南は痛感した。
『明日部活の練習休みになったんだけど、買い物行く?』
白瀬からは時々思い出したかのようにメッセージがくる。
『今日行ったから大丈夫!ありがとう!』
なるべく冷たくならないように返事を打つ。
きっと久々の休みだ。おつかいに付き合わせるのは申し訳ない。
白瀬も友達と遊びに行きたいだろう。
そうやって、去年よりも少し距離をおきながら中学二年の一学期は過ぎて行った。
「知ってる?隣のクラス、夏休みに河原でバーベキューするんだって」
終業式の帰り道、作間がパタパタと下敷きで首筋を仰ぎながら言った。
「河原?そこの?」
今いるところはちょうど橋の上だ。世南は橋の下の河原を指差して言った。
「もう少し下るんじゃん?その方が広いし。隣のクラス仲良いよなぁ。やっぱり白瀬がいるからかなぁ」
作間の何気ない一言でドクンと心臓が跳ねる。
「俺らのクラス、白瀬みたいなタイプのやついないもんね」
世南はそんな動揺を悟られないようにニコリと笑って言った。
学校中で白瀬のことを知らない人間はもう誰もいなかった。
白瀬は一年生の時から、体育祭、文化祭と何かとイベントごとに目立っていた。
それも決して悪目立ちではない。イベントを盛り上げ、誰でも仲間に引き込むような目立ち方だ。
クラスのみんなでバーベキューも、白瀬の考えそうなことだと世南は思った。
「藤野もよければ来ない?」
夏休みに入って二日目。久しぶりに白瀬におつかいの荷物持ちを手伝ってもらった。
自分から頼んだわけではない。
薬局に買い物にいったら、ちょうど白瀬が店先にいたのだ。
白瀬は片手にオムツパックを持ちながら言った。
「クラスのバーベキューって言ってるけど、テニス部のやつらにも声かけてるからさ!藤野のクラスや、一年とか三年の先輩もいるよ!」
「え、じゃぁかなり大人数になるんじゃないの?大変じゃない?」
世南は額の汗を拭いながら聞く。夏休みに入ったので、買い物は昼過ぎに行った。一日で一番暑い時間帯だ。
「うーん、どうかな?でも俺の家バーベキューセットがあるから、それを親父に出してもらおうと思って!店が休みの日に合わせて予定してんだ!両親二人とも手伝ってくれるって言ってたし」
「そっか・・」
「うん!だから藤野も遠慮せず来いよ!」
「・・う〜ん、夏休みも家のこと色々やらなきゃだしなぁ。行けたら行くよ!」
世南は明るく笑って答える。けれど本心は行くつもりはない。
白瀬主催のバーベキューに参加したら舞さんにどう思われるか・・
「・・・」
白瀬はそんな世南の考えを察したのか、少し不満そうに眉間に皺を寄せる。
世南はその表情にドキリとして、笑顔で取り繕うように言った。
「し、白瀬の家ってバーベキューセットあるんだね!よくやるの?」
「・・まぁ。小さい頃はよくキャンプ連れてかれたし。でも兄貴が高校生になってから回数減ったかな。去年もバーベキューを一回やっただけ」
「へぇ〜!いいな!俺キャンプも行ったことないよ!テントで寝たことない!」
「・・じゃあ今度やる?別に本格的じゃなくてもさ。俺の家簡易テントもあるんだよ!簡単に開くやつ!それで一晩お泊まり会とかいいじゃん!」
白瀬はいいことを思いついたといったテンションで楽しそうに話す。
「あ・・・うん、そうだね!」
断ろうかと一瞬思った。しかし、先程の不満そうな白瀬の顔を思い出し思わず首を縦に振った。
また断って嫌な思いはさせたくない。
「じゃあ、また日にちの相談しような!」と笑顔で言う白瀬に、世南は家の前から手を振った。
久々に話したけれど、やはり白瀬と話すのは楽しい。
けれど・・・
テントの話はどうしよう。
舞さんに聞けるだろうか・・
世南は小さくため息を付いて家の中へと入って行った。
夏休みに入る少し前から、舞さんの機嫌があまりよくないことを世南は感じ取っていた。
仕事のことなのか、なにをするにも嫌がるようになった妹達のことなのか、それはわからない。
最近の妹達はお風呂に入るのもご飯を食べるのも一苦労だ。イヤイヤ期という時期だと舞さんが言っていた。
仕事から帰りご飯を食べさせてお風呂に入れ終わる頃には舞さんはどっと疲れた顔をしている。
どうにか役には立てないかと、世南は自分が妹達とお風呂に入ることを提案をしたが、やんわりと拒否された。
どういう意味で拒否されたのかは想像がつく。
けれど、自分だって半分は血が繋がっている兄妹なのに。
お風呂がダメならと、せめて舞さんが妹達に邪魔されずに自分のことをする時間が持てるよう、世南は妹達の相手をたくさんするようにした。
遊び相手も二人の喧嘩の仲裁も頑張った。
けれど、舞さんの疲れた顔が変わることはなかった。
「中学生の夏休みって楽しいよね。わたしも戻りたいなぁ」
それは何気ない舞さんの一言だ。舞さんは妹達の寝かしつけを終えて、リビングのソファにぐったりと横になっている。
リビングでテレビを見ていた世南はチラリと舞さんの方へ目を向けて言った。
「舞さん、お疲れ様です・・」
「・・・」
しかし舞さんからの返事はない。
世南はコップに残っていた麦茶を一気に飲み干し、キッチンでそれを洗うと「お休みない」と言ってすぐに部屋に戻った。
やはり舞さんからの挨拶はなかった。
こんな今の状況で、白瀬とテントで一泊したいだなんて、無理な話だ。
舞さんにどんな顔をされるだろう。
しかし白瀬からは「いつにする?」と予定調整の連絡がくる。部活がない日も一覧で教えてくれた。
早く返事をしないと白瀬の夏休みの予定はきっとすぐに埋まってしまうだろう。
そうやって悩んで一週間ほどたった日、その日は夜から小雨が降ると天気予報が言っていた。
父は会社に行ったが、舞さんは一日有給を取ってお休みしていた。妹達も保育園には行かず家にいた。
「普段この子達とゆっくり遊べてないからね」と舞さんは言い、小さなビニールプールを家の駐車場横の空いたスペースに置いた。
午前中はいたって穏やかだった。妹達は楽しそうに水着を着てはしゃいでいる。
「俺も一緒に見てるよ」と言ったら、舞さんからは「大丈夫だから、世南君もどこか遊びに行ってきたら?」と言われた。
しかし今日は特に予定はない。
世南は自分の部屋に入ると、ゴロンと転がり漫画を読むことにした。
どれくらい時間がたっただろう。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。顔の上には開かれたままの雑誌がかぶさっている。
外から聞こえていた妹達のはしゃぎ声が聞こえない。
静かに自分の部屋から出ると、そっと階段を降りていった。
リビングを覗くと愛佳と夢佳が二人、気持ちよさそうに昼寝をしている。
時計を見たらすでに正午を過ぎていた。きっと二人は昼食を食べ終わり、気持ちよく眠りについたところだろう。
舞さんはどこにいるのだろうか。
プールの片付けをしているのかもしれない。
うっかり寝てしまったのでなにも手伝いができていない。今からでも手伝えるだろうか。
世南はサンダルを履き玄関を開けて外に出ようとした。
しかしその時、舞さんの高い声が聞こえてきた。
「本当大変だったよー」
世南はとっさに玄関を開けるのを止める。
そして扉の隙間からそっと聞き耳を立てた。
「二人ともプール大はしゃぎ。おかげでこっちはベタベタだよ。今度お母さんも一緒に遊んであげてよ」
舞さんはフーとため息をつきながらも笑っている。
どうやら電話をしているようだ。相手は舞さんのお母さん、愛佳と夢佳の祖母にあたる人だろう。
世南も一度だけ会ったことがある。
愛佳と夢佳が生まれてすぐの時だ。病院から二人を連れて舞さんが戻ってきた時、一緒に家まで着いてきてくれた。
舞さんの実家はここから車で三十分ほどのところだ。時々舞さんが車で愛佳と夢佳を実家へ連れて行っている。
「え?うん。お盆の時は帰るよ。うーん・・でもさぁ、パパも一緒だと世南君も一緒じゃないと・・一応まだ中学生だよ?」
自分の名前が聞こえ、世南はドキリとした。
扉を閉めて離れようかと思ったが、足元が震えて体が動かない。
「お母さん疲れちゃうでしょ、世南君いるとさ。中学生の男の子だよ。扱い方わからないでしょ」
舞さんは家の壁にもたれかかりながら話し続ける。
「正直私だってわからないもん。最近は特に何話していいかもわからないし・・うん。そりゃ息子として接するのは無理でしょ・・」
世南は自分の足元をじっと見つめながら舞さんの声に聞き耳をたてた。
舞さんの声と同じくらい蝉の鳴き声も響いているが、その音は不思議と入ってこない。
「今日も本当は家で愛佳と夢佳とのんびりしようと思ったけど、世南君家にいてさ。・・そう、中学生なのに全然友達と遊びに行かないのよね。居られると気使っちゃうから、どこか遊びに行ってくれたらいいのに・・」
「・・・っ」
世南は思わずヒュッと小さく息を吸う。
そして音をたてないようゆっくりと扉を閉めた。
静かにリビングに戻ると、妹達はスースーと寝息をたてて眠ったままだった。
世南はそんな二人をじっと見つめる。
可愛い妹達。血の繋がった自分の家族。
それは真実なのに、なんでこんなに遠くに感じるのだろう。
ここは、本当俺の家なのだろうか・・
世南はギュッと手のひらを握りしめると、リビングから庭に出るための掃き出し窓を開けた。
庭と言っても塀と家との間に挟まれたとても狭いスペースだ。昔、ガーデニングが好きだった祖母の植木鉢やプランターが今も置かれている。
世南は掃き出し窓から外に出ると、そこに置いてあるサンダルを履いた。
そこからさらに舞さんがいる家の駐車場とは逆の方向にグルリ塀沿いに進んでいく。
そして家の陰からコッソリと舞さんの様子を伺った。舞さんは反対方向を向いたまま、まだ電話をしている。
世南は一歩づつ足を動かし静かに進んでいく。
ありがたい事に門扉は開いている。
世南はそっと門扉から出ると、舞さんに気づかれる前に急いで走り出した。
全然、舞さんに必要とされていなかった。
それどころか、居ない方がいいと思われていた。
世南の顔がカァっと赤くなる。
恥ずかしい・・いったい今まで、何のために頑張ってきたのだろう。
結局全部、自分の独りよがりだったのだ。
世南はとにかく家から離れようと、足を止めずに走った。
しかし真夏の正午過ぎだ。あっという間に暑さで体力が持っていかれ、世南は息を切らしながら立ち止まる。
ふと、白瀬の顔が頭をよぎった。今日も運動場でテニスをしているのだろうか。
会いたい・・
けれど・・
楽しそうに練習をしているのを邪魔してはダメだ。
世南はブンブンと頭を振ると再び走り出した。
橋を渡り終えると、大きな川が目の前に広がっている。
そういえば、あんまりこの川上の方は行ったことがない。
ずっと川を辿って行くと、有名な温泉地に繋がっていることは知っている。
決して遠い距離ではないのに、そこには一度も行ったことはない。
世南はゆっくりと河原の方へ下りて行った。
緑の草が膝あたりまでたくさん伸びている。
その草の間を分け入るようにして歩いて行くと、砂利のつづく場所へ出た。
それから川沿いに川上の方へと歩き始める。
サイズの合わないサンダルでは少し歩きづらい。
慌てて履いてきたこれは普段父が使っている大人用のものだ。
世南はあまり大きな砂利を踏まないようにしながら、少しずつ進んだ。
その時ーー
遠くから何か聞こえた気がした。
しかし気のせいかと思い振り向かず世南は歩き続ける。
「ーぉー・・ぃ」
ー
もう一度聞こえた。
どうやら気のせいではないらしい。
世南がゆっくりと振り向くと、橋の上から誰かが手を振っている。
「・・・白瀬・・」
遠いけれど、はっきりとわかった。
テニスラケットを肩から下げている。
やはり今日もテニスの練習のようだ。
世南はニコリと笑って大きく手を振った。
そしてすぐにまた川上の方へ向き直す。
白瀬の練習の邪魔をする気はない。元気そうな姿を見れただけでよかった。
世南は足元を見ながら大股で大きな砂利を避けながら歩いていく。
するとほどなくして、後方から足音が近づいてきたかと思うと、グイッと後ろに腕を引っ張られた。
「うわっ?!」
世南は驚いて思わずバランスを崩す。
それをすかさず二本の腕がポンと受け止めた。
「藤野!何してんだよこんな所で?!」
「・・白瀬。どうしてここに?」
世南は驚いた表情で白瀬を見つめた。
「どうしてって、さっき橋から声かけただろ!なのに藤野どんどん行っちゃうんだもん!」
「あぁ、ごめん、遠くてあんまり声聞こえてなかった。白瀬、部活の練習に行く途中かと思ったし」
「いや、まぁ、行こうとしてたところだけどさ。でも藤野が一人でこんなところ歩いてるの見たら気になるんだろ?!」
「・・・あは、ごめん・・」
世南は眉尻を下げながらも笑って謝る。
「で、何してんの、ここで。このままあっち歩いて行ったって何もないっしょ?」
白瀬は川上の方に目を向ける。
「・・川沿いに歩いて行くとさ、温泉地に着けるって聞いたから。行ってみようかと・・」
「はぁぁぁ?!」
白瀬は心底驚いたといった顔で声を上げる。
「いやいや!無理だって!確かに川は向こうまで繋がってるけど、途中人が歩けるような場所無くなるぜ?この先谷だよ谷!」
「あ・・そうなんだ・・」
世南は少し残念そうに視線を落とす。
川沿いに歩けばどこまでも行けるのだと思っていた。
自分はつくつぐこの町の外をわかっていない。
「・・なぁ。藤野、なんかあったのか?」
白瀬が腕を組んで世南の顔を覗き込んだ。
「え・・」
「だって・・こんな暑い時に一人でこんな所にいてさ。それに格好もなんかあわてて出てきたって感じ」
「・・・」
世南は白瀬から視線をずらして黙り込んだ。
確かにこんな暑い日に帽子も被らずサイズの合わないサンダルで川にいるのは不自然かもしれない。
「なぁ、藤野?」
「・・・」
世南は手のひらをギュッと握り、なるべく明るい表情で顔をあげた。
「はは。ちょっと親と喧嘩しちゃって。少し頭冷やそうかなぁって」
「・・喧嘩?」
「そうー。でももう少ししたら帰るから大丈夫!白瀬、テニスの練習でしょ!暑いから気をつけてな!」
世南はそう言うと、クルリと白瀬に背を向ける。
まだ帰る気はない。けれどそう言わないと、白瀬がきっと気にするだろう。
暑いから日陰に移動しようかと思った瞬間、「なぁ!」と白瀬が大きな声を出した。
「今からさ!キャンプしようぜ!約束してたじゃん!」
「え・・キャンプ?」
世南は戸惑いの表情で白瀬の方を見る。
「そう!簡易テントあるっていったじゃん!今日やる事ないならいいだろ?」
「でも、白瀬はテニスあるでしょ?」
世南はそう言って肩に掛かったラケットを指差す。
「別にいいって、一日ぐらい!俺家に戻ってテント取ってくるからさ〜!藤野はこの辺の涼しいところで待っててよ!」
「え・・でも・・」
「じゃ、行ってきまーす!」
白瀬は世南の返事を待つ事なく軽い足取りで砂利の上を走って行く。
世南はそんな白瀬の背中をただ茫然と見つめた。
なんでこんなことになったのだ?白瀬に迷惑をかけるつもりはなかったのに・・
今から追いかけて止めるべきだろうか・・
けれど白瀬はすでに橋の方まで上がっていっている。
世南はふーっと長いため息をつきながら日陰を探して腰を下ろした。
色々考えていたらなんだか疲れてしまった。
とりあえず、白瀬が帰ってくるのを待つことにしよう。
それから白瀬は十五分ほどで戻ってきた。
先ほど肩にかけていたテニスラケットの代わりに、何やら黒く四角い箱の形をした物を肩から下げている。
それに両手にはパンパンに膨らんだビニール袋を二つ持っていた。
「ほら!お菓子と飲み物持ってきた。藤野手ぶらだろ?」
「あっ・・ご、ごめん!俺、今お金・・」
世南は慌てて何も入っていないズボンのポケットに手をポンポンとあてる。
「今度でいいって!ほら、テント張ろうぜ」
白瀬がそう言って抱えていた荷物を下ろす。
「あっ・・」
その様子を見て世南は思わず声を上げた。
ここだとすぐに舞さんに見つかってしまうかもしれない。
白瀬といる所を見られたらどう思われるだろう・・
「どうかした?」
世南の声に白瀬が首を傾げる。
「あ・・いや・・その、ここだと、その・・すぐに見つかっちゃうかもって」
世南はしどろもどろに答えた。
「見つかるって?誰に?」
「あ・・ほら、俺、親と喧嘩したって言ったでしょ。家出してやろうかなって気持ちで出てきたからさ。その、すぐに親に見つかったら嫌だなぁって・・」
世南は首筋を掻きながらなんとか言い訳を考える。
先ほどはもうすぐ帰るつもりだと言ってしまったのに・・自分でも支離滅裂なことを言っているなと思った。
しかし白瀬はそれで納得したようだ。
うんうんと首を振ると、一度下ろした荷物をもう一度抱え直した。
「なーんだ!家出か!なら今日はとことん付き合ってやるよ!じゃぁもっと上の方行こうぜ!この先にもテント張れそうなところはあるからさ!」
白瀬はそう言うと、ドンドンと歩き始める。
「あっ、俺も荷物持つよ!」
世南は白瀬が持っているビニール袋を二つさっと取り上げた。
「おう、ありがとー!」
白瀬はニコニコと楽しそうにお礼を言う。
世南はそんな白瀬の後ろをゆっくりとついて行った。
先ほどの場所から二十分ほど歩いたところで、テントを張ることにした。
白瀬が言うには、これ以上先だと平たい場所はないそうだ。
ずっと黒い箱だと思っていたものが簡易テントだった。
白瀬はそれを袋から出すと、一箇所をグイッと引っ張る。するとあっという間に簡単にテントが開いた。
「すごい!これで完成!?」
世南が驚いていると、白瀬は得意げにへへッと笑って言った。
「あとはこのクイをテントが飛ばないように刺せば終わり!な、簡単だろ?でもこれでも二人くらいは寝れるスペースがあるんだぜ!」
白瀬はテントのチャックを開いて中に入ると、手招きをした。
「ほら!藤野も入れよ!」
「う、うん!」
靴を脱いで背の低い入口を潜るように入る。
日除けの効果もあるのか、思っていたより中は暑くない。
世南は胡座をかいて座る白瀬の隣に腰掛けた。
狭いテントの中なので、自然と肩がぶつかる。
「あ、ごめん!」
世南は謝ると白瀬から少し離れて座り直した。
「・・ん、別に。大丈夫・・」
白瀬は珍しくぶっきらぼうに答えると、すぐにビニール袋からガサゴソとお菓子を取り出した。
「ほら、なんか食べようぜ。好きなの開けていいよ」
「・・ありがとう!」
そういえばまだお昼ご飯を食べていなかった。
お菓子を見た途端、お腹がグルグルと音を立てる。
それから二人はお菓子を食べたり飲み物を飲みながらたわいの無い話をした。
主には一学期にあった出来事や部活のことだ。
白瀬がテントから出てテニスのフォームを見せてくれたりもした。
春の大会では悔しい結果だったらしい。そのため皆、自主練にも熱が入っているそうだ。
太陽の熱で身体にジットリと汗が滲んでいることに気がつくと、二人は川に入って遊び始めた。
着替えはないので膝下くらいまでだが、冷たい水が気持ち良い。
水を掛け合ったり髪を濡らして涼んだりしながら世南と白瀬ははしゃぎ合った。
ともだちにシェアしよう!