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第6話 白瀬①
気がついたら、もう頭の中はいつだって藤野のことでいっぱいだった。
部活も友達も楽しいけれど、それでもいつだって頭から彼のことは離れなかった。
学校の廊下で藤野の姿を探す。
誰かと話している姿を見つけてその相手を羨ましく思う。
そう思うなら話しかければ良いのだろうが、なんとなく「二人で会う」という秘密の関係を守りたかったのだ。
そんな自分のエゴが結局溝を深めてしまったことを、あの頃の俺は気づいていなかった。
中学二年の春。
クラス替えの発表を見て白瀬は大きなため息をついた。
「今年も別じゃん・・」
たった二クラスしかないのに、今年も同じクラスの欄には『藤野世南』の名前はなかった。
「白瀬!俺同じクラス!よかった〜!」
「俺も俺も!」
周りでは友人達が楽しそうに騒いでいる。
白瀬も気を取り直してその輪の中に混ざることにした。
クラスが違っても、買い物の時に会えるからいい。
とりあえずはそう思おう。
けれど、春休み明けから明らかに世南の態度が変わった。
もともと何をするにも遠慮がちではあったが、それがさらに強くなったのだ。
以前なら一緒に持つほどの大荷物でない時でも、白瀬は世南を家の近くまで送っていった。
世南も最初は遠慮していたが、いつの間にか何も言わなくなった。
一緒に話すのが楽しい。だから二人でいる時間を少しでも長く作るために、世南を家まで送っていく。それは二人の暗黙の了解だと思っていた。
しかし・・春休みが終わるとそれはもうしなくてよいと突然突き放された。
俺が何かしてしまったのか?
白瀬は不安になってメッセージを送ったが、納得する返事はなかった。
さらにタイミングが悪い事に、二年生になってから部活動が忙しくなった。
今の弱小テニス部のままでいいのかと、レギュラーになった同級生の一人が言ったことで部活動のない日も自主練をする事になったのだ。
白瀬にとってテニス部も大切なものの一つだ。力を入れて頑張っている。
仲間達がやる気になっているのに、その輪を乱すわけにはいかない。
世南に部活が忙しくなることを連絡すると、
「了解!お使いは大丈夫だから部活頑張って!」
と、明るい返事が返ってきた。
それを見てみぞおちの辺りがグッと押されたような気分になった。
息が苦しい。
なんで、こんな返事なのだろう。
藤野に俺は必要だ。
藤野も俺といることが楽しいはずだ。
けれど、それはこっちが勝手にそう思い上がっていただけなのかもしれない。
白瀬は世南へ連絡することを躊躇うようになった。
その日も白瀬はいつものように運動公園でテニス部の仲間と練習をしていた。
汗で服はベタベタで額もぐっしょり濡れている。
休憩しようかと飲み物を手に取り、ふと遠くに目をやった時だった。
世南が誰かと荷物を持って歩いている。
その荷物の量からおそらく買い物の帰りのようだ。
隣にいるのは友人だろう。学校で見かけたことがある。
俺以外にも手伝ってくれるやつはいるのか・・
白瀬の心にジワリと黒いものが広がっていく。
「おい、白瀬!始めるぞ!」
友人から声をかけられてハッと我に帰る。
「・・おう!」
白瀬はブンブンと頭を横に振ると練習へと戻っていった。
しかし、家に帰ってもあの光景が忘れられなかった。
意を決して白瀬は連絡をしてみることにした。
『明日部活の練習休みになったんだけど、買い物行く?』
緊張しながら返事を待つ。
それから程なくしてスマホは受信を知らせるように振動した。
急いで画面を開く。
しかし、すぐに白瀬はスマホを乱暴に投げ出した。
『今日行ったから大丈夫!ありがとう!』
「知ってるよ・・」
白瀬はベッドに寝転んで呟いた。
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