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第7話 白瀬

まだギリギリ五月だというのに、気温は三十度に達しそうな勢いだ。 体育祭日和といえばそうかもしれないが、本音を言えば曇りぐらいがちょうどいい。 「白瀬〜!写真撮ろうぜー!」 青のハチマキを巻いたクラスメイトに声をかけられる。 「おう〜!!」 軽く返事をすると、男女六人で集まっていたグループの中に入りパシャリと一枚スマホで写真を撮った。 「俺今から委員の仕事だから!後で写真送っといて〜!」 白瀬はそう言うと、大会本部のあるテントの方へと駆けて行った。 ゴールデンウィークが明けてから、体育祭まではあっという間だった。 委員の仕事はほとんどが前日と当日に集中していてる。そのほかの仕事といえば体育の時間に簡単に走行順を確認する程度だ。 そのため世南と個人的に話す機会はなく終わってしまった。 あの日の放課後、みっともない姿を見せてしまったことを後悔している。 それでもあの時は我慢できなかった。 長年、勘違いしていた恥ずかしさと世南の気持ちが向いていない悲しさに冷静ではいられなかった。 また仕切り直したい。何事もなかったように話しかけにいきたい。 そう思っていたのだが、それを阻むものがあった。 世南と冬馬、二人で一緒にいることが多くなったのだ。 もともと小森をいれた三人でよく行動していたが、小森に彼女が出来てから少し変わったようだ。 お昼休み、小森は急いで食べ終えると、どこかに電話をしに行く。おそらく彼女と連絡を取り合っているのだろう。 放課後もいつもなら小森と冬馬は急いで教室を出て行くのだが、ゴールデンウィークが明けるとそれは小森だけになった。 冬馬はゆっくりと準備して世南と帰って行くのだ。 もしかしたら『何か』があったのかもしれない。 しかしそれを聞く機会は白瀬にはなかった。 大会本部に行くと、他の体育祭委員がすでに集まっていた。その中には世南の姿もある。 線引きやテント張りは昨日で終わっている。 今日の仕事は割り当てたられた種目で順位ごとに生徒を並べたり、具合の悪い生徒がいないかを見回ることだ。 体育教師の藤堂先生から簡単な説明があると、委員達はバラバラと解散していった。 自分の仕事までは自由行動だ。 「あっ、藤野」 世南が歩き出したのをみて白瀬は咄嗟に声をかけた。 「え?」 世南がくるりと顔を向ける。 「あっ、あー。あのさ、えっと・・見回りってなんの種目の後だっけ?」 白瀬はしどろもどろになりながら質問した。答えは知っている。 ただ、二人で話せる機会を逃したくなかっただけだ。 「一年の大玉転がしの後だよ」 世南はポケットから仕事内容の書かれた紙を取り出すと指を差しながら言った。 「白瀬、この紙失くした?俺覚えてるからあげようか?」 「えっ・・あっ、いや大丈夫!」 白瀬は慌てて両手を振る。 「・・・」 何か話さなくては。白瀬がそう思って下を見ると、世南の足元が目に入った。 「その靴、新しい?」 まだ汚れのない少し固そうな青色のスニーカーを履いている。 「え・・あぁ、うん。古いスニーカーしかなかったから買ったんだ」 世南はそう言って踵を立たせて見せた。 「へえ!いい色じゃん!こういう色、藤野選ぶんだな」 その靴は明るい空のような色をしている。 「ありがと・・て言っても、俺じゃなくて冬馬君に選んでもらったんだけどね」 「え・・・」 白瀬は思わず世南の顔をじっと見つめた。 「冬馬君と買いに行ったんだ。体育祭用にお互いの選んでさ」 世南は自分の履いている靴を見ながら言った。 「・・・」 白瀬はその言葉に思わず息を呑む。 「あっ、そろそろ開会式始まるじゃん!急がなくちゃ!白瀬、行こう」 世南はふと校舎にかかる時計見ると大きな声で言った。そして小走りで走り始める。 「あぁ・・」 白瀬は力のない返事をしてその後をついて行った。 藤野と竹ノ内が買い物に? いや、友達なのだから一緒に買い物に行くのはよくあることだ。変なことじゃない。 けど・・ お互いの靴を選び合ったのか? 二人で。 笑いながら。 お互いのものを・・ 白瀬は前を走る世南の青いスニーカーをグッと睨みつける。 あの二人の距離が縮まらなければいい。 そう思っていた。 けれど、もしかしたらもう手遅れなのだろうか・・

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