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第3話
どさり、吉良はキングサイズのベッドに倒れ込んだ。
荒い呼吸が止まらない。下半身がきゅうきゅうと疼いて、本能は雄を求めている。
「苦しそうですね、吉良さん」
そう鼻を鳴らす久住も、瞳孔が開き切っていて獣のような顔つきをしている。そんな久住に恐怖を抱くが、しかしそれとは裏腹に、期待も感じでしまっている。久住に喰われてしまいたい。理性は許さないが、オメガとなった身体はそれを求めて止まらない。
「オメガの発情期、どうです？」
「黙れ……！」
涙で霞む瞳で、必死に久住を睨みつける。
「苦しいでしょう？」
冷たい指が、吉良の頬を撫でた。
久住が顔を近づける。そのまま唇が重ねられた。
「ん……っ、ふぅ……は、ん」
生暖かい舌が口内を侵していく。水温を立てながら吉良の舌を絡め取り、歯列をなぞる。その感覚に腰がゾクゾクと震え、気づいたら自ら舌を差し込んでいた。もっと欲しい、本能の欲求のままにひたすら口づけを繰り返した。
「はや、……く」
無意識にそんな言葉を発してしまっていた。それに気づいて顔がカアっと赤くなる。久住なんかを求めてしまう自分が恥ずかしい。そもそも、自分がモノを入れられる側になるなんて考えたこともなかった。それでもヒートでおかしくなった体は、アルファを強烈に欲している。
こんなに発情期が苦しいものだとは思わなかった。一生これが続くのだろうか。そうなるくらいなら、久住の番にされてしまいたい。一瞬そう思って、慌てて否定した。
「俺も、そろそろ限界なんで」
するする、とネクタイを解かれシャツのボタンが外されていく。その間ももどかしくて、縋り付くように久住の背中に腕を回してしがみついた。久住は吉良のうなじに顔を埋めてくんくん匂いを嗅ぐ。その感触さえ気持ちいいと思ってしまった。
「ひぅ……！」
久住の指が胸元に触れる。その瞬間、思わず声が出てしまった。自分でも驚くほどの甘い声だった。久住は満足げに笑うと、舌を胸の突起に這わせる。
「あぁっ！やめ……ろっ！」
舌先で突かれ甘噛みされれば電流が流れるような快感が走る。片方を舌で愛撫されている間にもう片方も手で弄られる。快感から逃れようと吉良は身を捩るが、どうにもならない。
カチャカチャと金属音を立てて、ベルトが外されていく。そのままスラックスを引き下げられた。
「すっごい。ぐちょぐちょですよ」
先走りでシミだらけになった下着を脱がしながら、久住が笑う。羞恥心からまた顔が赤くなっていく。秘部を晒すような格好にされて恥ずかしいのに、興奮がおさまらない。早くナカを犯して欲しい。本能はそればかりを主張する。
「あぅ……んっ！」
唾液を絡ませた久住の細い指がナカに差し込まれる。異物感で苦しいのに、肉壁を擦られると痺れるような快感に襲われた。
いつの間にか指の数も増えていた。三本の指をバラバラと動かされると腰のあたりがゾワゾワと粟立つ。
久住が自身のズボンに手をかける。そこから現れたモノを見て、吉良は思わず息を飲む。それを目にした途端ナカの奥がきゅんきゅんと疼き、早く入れてくれと急かす。
「そんなに欲しいんですか？」
無意識のうちにソレに釘付けになっていた。ハッとして目を逸らすが遅かったようだ。
ニヤリと笑みを浮かべながら、久住は自分のソレを取り出す。そして吉良の顔の前に突き出してきた。
「舐めてもいいですよ」
気づいたら久住のモノを口に含んでいた。こんな汚らしいモノを自ら舐めるなんて、今までの自分では考えられない。しかし、今の吉良はこれをしゃぶることしか頭になかった。
「吉良さん、俺なんかのしゃぶってるんですか？」
久住の嘲笑はもう耳には届かなかった。
舌を動かす度に苦い液体が流れてくる。それなもっと欲しくて、久住のモノを喉奥まで迎え入れる。苦しいはずなのに、頭の中で何かが弾けてしまいそうなほど気持ちよかった。
「ん、、ぁ……っ！いき、そ……」
久住が吉良の後頭部を掴む。そしてそのまま腰を打ち付け始めた。吉良は口内に広がる熱を受け止めることしかできない。
「ん……くっ！ふ……ぅ」
ドクンとソレが脈打つ。精液が勢いよく喉奥に流し込まれていく。喉仏を上下させて、堪能するようにそれを飲み干した。
オスの匂いが堪らない。こんなことをされているのに、悔しいはずなのに、興奮が収まらない。早くぐちゃぐちゃに抱き潰されたくて仕方がない。
「ちゃんと飲めて偉いですよ」
優しく髪を撫でられて、それだけで幸せな気分になる。身体中が満たされるような感覚だ。もっと欲しい。もっとこの男を感じたい。
「そろそろこっちに欲しいですか？」
「んっ、……早く、挿れて……っ！」
久住が覆い被さってくる。久住の性器を後ろに宛てがわれれば、吉良の胸は期待で大きく高鳴ってしまう。
「あっ……！」
ソレがナカに挿入ってくる。圧倒的な質量で押し広げられているのに、痛みは全くない。むしろ待ち焦がれていたと言わんばかりに肉壁が収縮してソレに絡みついていく。
「はやく、動いて……っ！」
吉良は久住を急かす。もう我慢などできない。早くナカを犯して欲しいと本能が主張している。
「いいんですか？元オメガの俺にそんなにねだって」
「や、ちが……！」
揶揄うように言われて、また顔が赤くなる。自分はアルファなのに、昨日までオメガだった男にこんな風に強請ってしまうなんて。恥以外の何ものでもない。それでも、欲しくて堪らなかった。
「ひゃああ……っ！！」
久住が動き始める。激しいピストン運動に、ベッドが軋んで悲鳴を上げる。結合部からは絶えず卑猥な水音が響き、聴覚までも犯されていくようだった。
「んぅ……そこ、やめ……！」
ある一点を掠めた瞬間、電流が流れるような快感に襲われる。久住はその反応を楽しむように何度もその部分を責め立ててきた。
「ここが気持ちいいんですか？」
「あぁっ！やめ……！おかしくなる……！」
頭が真っ白になって何も考えられなくなる。ただひたすら快楽を求めて、ナカを締め付ける。それに応えるようにして、久住の動きが激しくなっていく。
「ナカ、出します？」
久住がまるで悪戯付きの子供のように笑う。
今の自分はオメガだ。ナカに出されるわけにはいかない。それなのに、どうしようもなく久住がほしい。久住の精液で腹の中をいっぱいにして欲しい。そんな思考が頭の中を埋め尽くしていた。
「ほし……い！ナカ、出して……っ！」
そう強請ると久住は口角を上げた。
久住が腰を激しく打ち付ける。前立腺を容赦なく擦り上げられ、目の前が真っ白になる。もう何も考えられなかった。
「んあっっ！！い、いく……っ！」
「……っっ！！」
身体が大きく跳ね、自分の性器から白濁が溢れ出していく。吉良が絶頂を迎えると同時に、久住もナカで果てたらしい。熱いものが注ぎ込まれていく。その感覚が気持ちよくて、身震いした。
久住は繋がったまま吉良をうつ伏せにして、後ろから覆い被さるように抱き締めてくる。
「俺、まだまだ足りないです」
耳元で囁かれる声にゾクッとする。ふわり、とアルファの匂いが鼻腔をついた。再び硬度を取り戻したそれが再びナカに入り込んでくる。
「あぅっ、んっ、んっ！」
バックの体勢で再び激しく突かれながら、乳首を弄られる。両方の突起を同時に刺激され、痺れるような快感が身体を駆けていく。
「やぁ、、っ！まっ、止まって……っ！とま、……あぁっ！！」
「嫌です」
これ以上気持ち良くなったらおかしくなってしまう。しかし、久住は吉良の様子に構うことなく、むしろ更に強く腰を打ち付けてくる。
「ひっ、あっ！ああっ！」
肉同士がぶつかり合う乾いた音が部屋に響く。同時に結合部からはいやらしい粘着質な水音が聞こえてきて、聴覚まで犯されている気分になった。
「もっと奥まで、挿れてほしいでしょ？」
「ああっっ！！」
ぐっと腰を強く引かれ、勢いよく最奥の壁を強く突かれる。あまりの質量に苦しくて呼吸ができない。しかし、それ以上に快感の方が強い。身体が痙攣するように震える。
「ほら、一番奥まで入りましたよ」
久住は吉良の下腹部に手を当てながら、嬉々としてそう言った。そのまま手に力を入れると、僅かに膨らんだ腹を撫で回す。
「ここに入ってるんですよ、俺の」
そう言って軽く押すと、吉良はビクンと身体を跳ねさせた。
「うぁ……んっ！」
「元アルファのくせに変態だなぁ」
久住は面白そうに笑みを浮かべながら、今度は下腹部を押したまま腰を動かし始める。
「あうっ！や、め……っっ！！ああっっ！」
「ほーら、わかりますか？ここに入ってるの」
「んんぅ！！」
久住のものが動く度に中から押し上げられて苦しいはずなのに、何故かとても幸せな気分になる。全てが満たされていくような感覚に包まれた。もっとこの男を感じたい。もっとこの男のものになりたい。
「もっと、もっと欲しい……！」
気がつくと、無意識のうちにそんな言葉を口にしていた。
昨日まで自分がアルファだったことが嘘のようだ。もう完全に自分はオメガになりきっている。そんな気がする。アルファの尊厳などどうでもいい。とにかく久住にナカを満たされたくて堪らない。
「いいですよ。もっとあげます」
そう言ってガツガツと腰を振る久住は獣のようで、もう立派なアルファだった。彼が1日前までオメガだったなんて、誰が信じるだろうか。
「お゛お゛っっ！！や、ぁッッ！！い、くっ！」
奥を容赦なく突かれ、吉良は喉が張り裂けそうなほど叫ぶ。強烈な快感が全身を支配し、身体が再び大きく跳ね上がった。
「ドライで飛んじゃった？」
「へ、あ……？」
たしかに性器から何かが出た感覚はない。いつもの射精を伴うオーガズムとはまた違う快感だ。それよりずっと強くて、深くて長い。身体が蕩けていくような快感に包まれていく。
「吉良さんはもう立派なオメガですね」
久住に耳元でそう囁かれる。わずかな理性が「自分はアルファだ」と反発するが、それを口に出すことはできなかった。この身体はもう、正真正銘オメガになってしまっているのだから。
「ひ！！ああああっっ！！」
久住は再び動き始める。まだ絶頂の余韻が抜けない身体には刺激が強すぎる。思わず吉良は身体を暴れさせた。
「んっ！あぁっ！！」
「すごい締め付け……っ！」
激しい抽送に意識が飛びそうになる。身体の奥が疼いて仕方がない。早くナカを満たして欲しい。本能がそう叫んでいるようだった。
「出していいですか？」
何度も頷いて肯定する。ソレが欲しくて堪らない。すると、久住はラストスパートをかけるように激しく腰を打ち付けた。
「あ゛あ゛ッッ！だめ、……っ！！く、ずみッッ！！」
「……っく！」
三度目の絶頂を迎えた。同時に熱いものがナカに注がれていく。吉良の頭の中はもう真っ白だった。身体がビクビクと痙攣して止まらない。
「気持ちよかったですか？」
久住に身体を掴まれ、仰向けにひっくり返される。焦点の定まらない瞳で、久住の顔をぼんやりと眺めた。
気持ちよかった。こんなに気持ちいい体験など、今まで生きていて初めてだ。天国に昇るのではないかと思うほどの快感だった。
「ね、吉良さん」
久住の白い指が、吉良の首筋をなぞる。
「噛んでもいいですか？」
眉尻を下げて、そう問う。懇願するような表情だった。
────番にしてほしい。
そう思ってしまった。その鋭い牙で頸を噛んで、久住だけのものにされたい。本能がそう叫んでいる。アルファだった頃の自分はもうどこにもいない。
「噛んで、くれ……」
吉良は、まともに力の入らない腕を久住の首に回す。そして、生理的な涙で潤んだ瞳で、久住を見つめる。
久住がふっと、笑う。もう獣のような顔つきは消えて、いつも通りの優しい表情だった。
「……ん」
久住の鋭い犬歯が、吉良の皮膚を貫いた。
全てが満たされていく。そんな感覚に包まれて、吉良はゆっくりと目を閉じた。
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