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第6話 夜明け前 近江ヒロキside
…夜明け前、近江はふと目覚めた。
自分の身体に巻き付いた神田の太い腕が、息苦しさを感じるほど重かったからだろう。
熟睡する神田の腕を静かにズラシ、近江はゆっくりと身体を起こし、ベッドから出て洗面所へと向かった。
歩く度に身体の奥の深い場所が鈍く痛み、小さなため息をつく。
ベタついた自分の陰部が気になり、もう一度浴室へ入り暖かいシャワーを浴びた。
神田を受け入れた自分の蜜壺 を片手で開き、もう片方の指を中に差し入れ丁寧に、ヌルヌルとした自分の体液をお湯で洗い流す。
セックスに夢中になっていた近江とは違い、神田はシッカリ避妊具を付けたコトを思い出し…
「やっぱり遊び慣れている男は違うな…」
苦笑しながら近江は首を振った。
ヂクヂクと疼く場所に触れてしまい、そのまま自慰を始めたい衝動にかられたが…
一度始めれば、今夜は簡単に止められそうに無いと感じ、昂ってしまった身体を冷ますためにシャワーの湯を水へと変えた。
久しぶりに感じた神田という強いアルファの、濃厚なフェロモンが…
未熟なオメガだった学生時代のように、近江ヒロキから理性を奪い、原始的な欲望と本能をムキ出しにしてしまったのだ。
<項 を神田に噛まれなかったのは、幸運だった… 神田のフェロモンシャワーを浴びたとたん、僕の理性は簡単に吹っ飛んで消えてしまい、神田が欲しくて我慢出来なくなった… 本当に神田が遊び慣れた奴で良かった>
「まさか… こんなに僕は尻軽だったなんて…」
噛まれずに済んだ項に触れ、冷たい水の中で近江は自分を嘲笑った。
『ヒロキ! 項を噛むよ、オレの"番 "になってくれるよな?』
『嬉しい… 噛んで! 僕を"番"にしてよ! アナタと"番の契 り"を結びたい!!』
学生時代、付き合ったアルファに項を噛ませ、"番の契り" を結んだが…
相手が大学を卒業すると同時に、近江が相手をすてたのだ。
お互い婚約者がいたが、"番の契り" を結んだ自分を恋人は選んで結婚してくれると信じていた。
だが、近江家と恋人の婚約者の家とでは、明らかに相手の方が家格が上で…
愛ではなく家の格で近江は負け、恋人に愛人になってくれと乞 われた。
『ゴメンよヒロキ、逆らえないんだ! 婚約は家同士の政略的な契約だから、オレにはどうにもならなくて… 結婚は"彼女"としなければ、絶縁されて相続権まで奪われるから』
『わかっているよ、そういうのは僕の家も同じだからさぁ… 僕たちが一緒に居られれば、ソレで良いよ! 僕はソレで良いから』
一時は応じようとしたが、恋人の結婚式に友人として招待され、考えを改めた。
恋人の妻になったオメガ女性が、何も知らず幸せそうに微笑む顔を見たら…
罪悪感と嫉妬という激しい二つの感情に襲われ、耐えられそうにないと悟り近江は恋人に別れを告げた。
何年も放置していた、"番"を捨てたオメガの身体を…
近江は"番の契り"の縛りから解放される為の治療を半年ほど前から始めていた。
20代後半になり、近江は1人でいるのが辛くなったからだ。
誰かの"番"になって、番以外の体液を受け入れると、強烈な拒絶反応を起こすためにセックスどころかキスさえ出来なくなる。
毎日薬を飲み続け、オメガホルモンを安定させる為の注射を週に2回打ち、心療内科では"番"を解く専門の医師の元に通いカウンセリングを受けた。
治療が無事、終わり(人によっては"番"が解けない事例もあるらしい)
元の体質に戻ると"番"だった恋人以外のアルファでも、近江のフェロモンを感知出来るようになり…
近江自身も、今まで感じ取れなかった"番"以外のアルファフェロモンを、感知出来るようになった。
ホッとしていたところで…
ウッカリ神田にオメガだと知られてしまったのだ。
<抱かれた後だから言える、神田を誘う気は無かったけど、拒む気も無かった… 1人の時間があまりにも長すぎて、自慰ダケでは物足りなくて、誰かに抱かれたかったのが正直な気持ちだ>
「アイツ上手かったなぁ… もう一度ぐらいヤリたいな」
近江はカバンの中から抑制剤とミネラルウォーターを出して飲むと…
ベッド脇に放り出してあった、オメガフェロモンを拡散させない為のローションを手に取り、乳白色の液体を丁寧に首から順番に塗り込んで行く。
ベッドで熟睡する神田をしばらく見つめた後、少し考えて神田の隣に入り、ペタリと胸に鼻をすり寄せて…
満足げなため息をつくと、意識を手放した。
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