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第9話 現実2 近江ヒロキside

 半年前、ヒロキを絶縁していた実家の父から…  突然、連絡が来た。  元婚約者と見合いをし相手と結婚すれば、絶縁を解いても良いという話だった。  《ヒロキ、お前もいい年の大人なのだから、この意味が分かるな?》 『はい、お父さん…』 《これ以上先方の寛容さに甘えるような、慎みの無い行動はしてくれるなよ?》 『ですがお父さん、"番"が解けるかは治療してみないと分からないので、今すぐ返事は出来ません』 《先方は待ってくれると言って下さっている》 『分かりました、まずは治療を受けてから、ご報告します』  6歳年上の婚約者とは、家ぐるみの付き合いがあり、ヒロキが子供の頃からの知り合いで、大学に入り初めての恋を知るまでは、彼との結婚に何の疑問も感じていなかった。  だから… 自分が裏切ってしまった相手が、再び求めてくれるのならと、見合いの話を受けることにした。  生涯ただ1人の伴侶だと信じて恋し、"番"になった相手とは、早々に別れてしまったヒロキは… 自力で伴侶を見つけようという気力を、最初の恋がダメになった時に使い果たしてしまった。   「ヒロキの気持ちは? その元婚約者と本当に結婚したいの?」  隣りに転がったセンリが、上目遣いでヒロキにたずねた。 「一生、独身は嫌だな… と思っていた時だから、ちょうど良いと思わないか?」 「思わないか? …って、質問したオレに聞くなよ!」  ムスッ… と年下の男は、不機嫌そうだった。 「ふふっ… そうだな、センリの方こそ婚約者をあんまり待たせるなよ」  ほんの少しダケ、ヒロキはセンリに期待をしていたのも事実で…  こういう関係になってから、よくよくセンリにたずねると、あまり話したがらないが、婚約者がいるらしいことはヒロキにも分かった。  ああ、またか… とヒロキはがっかりしたが、すぐに諦めた。 「オレ、全然結婚したくないし!」  拗ねたように、プイッ… と顔をそむける。  そんな子供っぽ態度のセンリも、ヒロキは愛おしかった。 「そうだな、センリはそういうタイプみたいだからな… あんまり相手に迷惑かけるなよ?」  クシャクシャにもつれたセンリの髪を、丁寧に手櫛(てぐし)でとかしてヒロキは首筋にキスを落とした。 「さてと… そろそろ家に帰るかな!」  ベッドを出ながら、ヒロキは次の予定を口に出す。 「え? 何だよ、せっかくの休みなのに!?」  ガバリと身体を起こして、センリは驚いた様子だ。 「だから、引っ越しの準備だよ、少しづつ進めないと… ギリギリまで引継ぎとか仕事があるし」 「もう、結婚するって、返事したのか?」 「うん、治療が成功したと父に報告したから… 後は向こうで段取り組んでくれるから、僕がそれに乗っかるだけさ」 「ふぅ~ん…」  浴室へ行きシャワーで情交の汚れを綺麗に洗い流し…  昨日、会社に着て行った、少ししわが入ったスーツを着込んだ。 「またね?神田クン?、休み明け会社で会おう」 「ああ… うん…」  少しはセンリが執着して、引き留めてくれるかと期待したが、そんな淡い夢は見るだけ無駄だった。 <さすが、遊び上手のセンリは、僕みたいに心を簡単に奪われたりしないか…>  ヒロキが部屋を去るまで、センリはベッドから1度も出ることは無かった。  結局、2人はセフレ以上の関係にはならなかったのだ。

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