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第12話 目が覚めたら… 近江ヒロキside

 ヂクリッ… と腕が痛みヒロキは目が覚めた。  誰かが自分の腕に触れて、何かをしていて…  指を動かすと、腕に触れていた誰かが、ヒロキの顔を見た。 「目が覚めましたか… 少し待って下さい、点滴をしているので動かないで下さいね?」  パシッ… パシッ… と何かの音を立てて、その誰かは作業を終わらせニコリと笑った。 「先生を呼んで来ますね」  頭がボンヤリしているダケではなく、身体が異常に重くて、ヒロキは何も答えずまぶたを閉じた。 「近江さん、聞こえますか?」 「・・・・・・」  穏やかに名前を呼ばれて目を開けると、白衣を着た初老の男性が目の前に座っていた。 「近江さん?」  白衣の人物に再び名前を呼ばれ… 「…はい」  声がかすれていた。  いくつか問診をされ、その人は医者なのだとヒロキはようやく気付き、自分が会社で気を失い病院に運ばれたコトを教えてもらった。  どうやら、会社で気絶し三日間昏睡状態だったらしい。 「強いストレスを感じた状態で(うなじ)を噛まれ、オメガのホルモンが過剰に反応し失神したようです… しばらくは安静が必要ですから、ゆっくり休んで下さい」    淡々と医師に説明され、ヒロキはドコか他人事のようにうなずいた。  ヒロキの身体を優先し、妊娠しない薬も投与されたらしい。  医師が部屋から出て行くと、入れ替わりにセンリが慌てて入って来て、ベッドの横の椅子に座った。 「ヒロキ… オレ、ごめん…」  ションボリと凹んだセンリが背中を丸めて、ヒロキの手に触れる。  センリの顔が、会社で見た時よりも、さらにボコボコに殴られていて…  目は腫れ、顔中酷い痣だらけで顔の形が変わっていた。 「…誰?」 <ジャガイモみたいな顔になってる… 何で?>  赤黒く腫れあがったセンリの顔を見て、思わずヒロキはそういうと… 「ええええ?!!! ヒロキ、オレが誰か分かんないの?! まさか記憶喪失?! ウソだ…  そんな、どうしよう!! どうしよう!!」  ギョッ… とセンリは立ち上がり、狼狽(うろた)え動揺し慌てて、病室を飛び出して行く。  センリは誰かたちをゾロゾロと連れて病室に帰って来た。  みんな知らない人ばかりだと顔を見ていたら…  一番後ろから、ひょっこりヒロキの両親が顔を見せる。 <うわっ?! ウチの親までこんなトコロに来てるし?!>  数年ぶりに絶縁していた両親の顔を見て、ヒロキは再び自分が醜態(しゅうたい)を曝したのだと自覚し、恥ずかしくなり…  子どもっぽく上掛けを引き上げて、顔を隠した。 「ヒロキ君… 記憶が無いとは本当かい?」  緊張を含んだ声でたずねられ、ヒロキは恐る恐る上掛けを下げて、話しかけて来た相手の顔を確認した。  ヒロキの両親と同年代で、アルファの男性なのは分かるが、ヒロキの知らない人で…  困った顔でベッド脇の椅子に座っていた。 「申し訳ありませんが… アナタとドコかでお会いしたコトがありましたか?」  ヒロキも相手にたずねた。 「いや、私と君は初対面だよ」  増々男性は困った顔をする。 「…???」  ヒロキも困った顔をした。 「ヒロキ―――ッ! オレが悪かった! 反省してるから、頼むからオレのコト思い出してくれよ!! ヒロキ、愛してる―――っ!!」  センリがアルファの男性が座る椅子の隣にドサッ… と(ひざまず)いてベッドに突っぷしてヒロキに訴える。 「センリ… お前の頭の中には幼児が住んでいるのか?」  顔をしかめてヒロキは重い身体をゆっくりと起こす。  椅子に座るアルファの男性が、気をきかせて背中に枕を当ててくれた。 「ありがとうございます」  礼を言うと、男性はホッ… と安心した様子でため息をつき微笑んだ。 「ハッ… ヒロキ―――ッ!! オレのコト思い出したのか?! 愛してる―――ッ!!」  顔を上げて瞳をキラキラさせて、センリはヒロキを見つめた。 「…センリ、まずは落ち着け! そして黙れ!! 僕が恥ずかしいから」 「ヒロキ―――ッ…」  ジャガイモのように顔をデコボコに腫らした男は、涙ダケではなく鼻水までたらしていた。 「・・・・・・」 <一体、何が起きているんだろう…?>

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