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第16話 ヒロキの迷い 近江ヒロキside
キラキラと子犬のように瞳を輝かせるセンリに、期待を込めて見つめられ…
「・・・・・・」
ヒロキは黙りこんだ。
「オレと結婚してくれるだろう、ヒロキ?」
黙りこんでしまったヒロキの手を握り締め、センリは甘えた声でたずねた。
「・・・・・・」
黙ってセンリの手の中から、ヒロキはスルリッ… と手を引き抜き、自分の膝の上に置く。
「なぁ… ヒロキ?」
いつまでも黙っているヒロキの態度に不安を覚えたらしく、センリはもう一度、手を取り握ろうとするが…
サッ… と手を引き、ヒロキはセンリを拒んだ。
「センリ、お前の行動のドコをどう見れば、僕が、お前と結婚したがると思うんだ?」
冷ややかにヒロキはたずねた。
センリはギョッ… と固まり、部屋に居た者たちは、室温が5度ぐらい急激に下がった気がした。
ヒロキの中の、センリを愛する部分では今回の騒動について、ほとんど許していた。
元婚約者との大切な見合いが、控えているのにもかかわらず…
センリと関係を持ち続けたコト自体、良くなかったとヒロキ自身も自覚していたからだ。
このまま別々の道を歩むというのなら、面白い思い出になると済ませるトコロだ。
・・だが、ヒロキがセンリと結婚するとなれば、別問題である。
「え? だって、オレはヒロキの項 を噛んで番 にしたし、やっぱりオレも責任取りたいし!」
「安心しろよセンリ、僕は前の番とも結婚しなかったし、別に責任取れとは言わないから…」
ワザとヒロキは意地悪く言い放つ。
「なっ… 何を言っているんだよ、ヒロキ! オレを前の男と一緒にするなよ!」
さすがにセンリもムッ… とする。
「僕たちは、いつから恋人になった? 出張先で喧嘩した時か?」
<お互いセフレのような関係だったコトを、心地良いと思っていた… 特に婚約者がいるセンリにとって、僕は都合の良い相手だったハズだ>
ジロリと睨みながら、ヒロキはセンリに問いただした。
「そ、…それは…」
「お前の発想力は素晴らしいよ、婚約解消も上手く交渉したと思う… だけど、何も教えられずに振り回されると、僕はセンリにとって、どうでも良い人間なのかと思えてくるよ」
ヂクヂクと痛む包帯を巻かれた自分の項を、ヒロキは撫でた。
「ヒロキ! ゴ… ゴメン!! 本当にゴメン!!」
「僕と結婚したくて項が噛みたかったなら、相談してくれれば僕だって拒まなかった… だけどセンリは何も言わず、僕をダマシ討ちするみたいに噛んだ…」
痛む項を押さえながら、変な言い逃れをさせたくなくて、ヒロキはセンリから一瞬も、目を離さなかった。
「ヒロキ… オレは本当に必死で、ヒロキは見合いする方が良いのかと思っていたから」
「センリは僕と結婚したいからではなくて、単に婚約者と結婚したくないから僕を巻き込んだのではない? 違う?!」
婚約解消をするために、ヒロキは自分が駒として、センリに利用された気がしたのだ。
センリ父がハッ… と息を呑む音が聞こえ、ヒロキはセンリから視線を移した。
「…どうなんだセンリ、ヒロキ君が言った通りなのか?」
それまで病人を前に穏やかそうにしていたセンリ父が、鬼のような形相になっていた。
センリ父には嫌というほど、心当たりがアリ、自分の息子の意見よりも、ヒロキの意見を信じたのだ。
「いや、違う、違う、違う―――っ!! オレはヒロキと付き合って、あの婚約者は絶対に愛せないから結婚出来ないって思ったんだよ! ソレぐらいオレがヒロキに夢中だから、ヒロキ以外と結婚したくないし!! とにかくオレはこんなに誰かを好きになったの初めてで、ヒロキしか好きじゃないからダメなんだよ!!」
センリは顔をブンブンッ… 横に振って激しく否定したが、あまりにも今までの行いが悪過ぎて、特にセンリ父は信じていない様子だ。
「どう思むヒロキ君?」
どうやらセンリ父は、ヒロキに自分の息子の進退を丸投げする気らしい。
「どうと言われましても…」
熱烈にセンリに好き好き言われて、ヒロキの頬が赤くなった。
「あああああ!!クソッ! なんで俺は婚約解消する前に、ヒロキにプロポーズしなかったんだ!! チクショ―――ッ!!」
本気で悔しそうに、センリは自分の頭をグシャグシャとかき混ぜた。
「ヒロキ、神田さんと結婚しなさい!」
それまで黙っていたヒロキの父が口を開いた。
「ソレが良いわヒロキ、アナタが一生独身だったらどうしようかと、お父さんとずっと心配していたのよ?」
母まで口を挟む。
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