「ヒロキ、神田さんと結婚しなさい！」 　それまで黙っていたヒロキの父が口を開いた。 「ソレが良いわヒロキ、アナタが一生独身だったらどうしようかと、お父さんとずっと心配していたのよ？」 　母まで口を挟む。 「父さん、母さん…」 　数年ぶりに生で聞いた両親の言葉がコレである。 　ヒロキとしては複雑だった。 「絶縁なんて、私たちだってしたくはなかったけれど…　本家の人たちを怒らせてしまったから、どうしようもなくてね」 　母親は、大学時代に恋人と番になり、ヒロキの我がままで一方的に婚約解消したコトを持ち出した。 　近江家は確かに名家だが、ヒロキの実家はその分家の近江家である。 　ヒロキの元婚約者は、本家筋の３男だった。 　こうやって両親が、ヒロキにセンリとの結婚をすすめる理由はとても単純で… 　本家の近江家よりも、センリの実家神田家の方が、家格も資産額もずっと格上だからである。 　つまり保身のためだ。 ＜僕の都合で、同じ相手との結婚の話を2度も流したのだから、心配して当然と言えば当然だけど…＞ 　両親とほんの少し話しただけで、ヒロキの胸は息苦しくなり… 　見えない鎖で身体を縛められ、自由を奪われたような気がした。 昔よりもシワが増えた両親の顔を黙って見つめ、ヒロキは顔をふせて笑った。 ＜このまま僕がセンリと結婚すれば、自分たちよりも格上の神田家には逆らえないから、仕方がなかった　…と近江の本家に言い訳が出来ると、思っているのだろうなぁ＞ 　昔からヒロキの両親は、そういう人たちだった。 　 　何もかもヒロキは嫌になる。　 「近江さん、ソレと親父と兄貴たちも、席を外してくれませんか？　オレたち2人ダケで話し合いたいから」 　黙りこんだヒロキの顔色を見て… 　ベッド脇で跪いていたセンリが立ち上がり、部屋に居た人たちを追い払った。 「・・・・・・」 　センリ以外いなくなって、ヒロキはホッ…　とため息をつく。 「ゴメン…　目が覚めたばかりなのに、みんなで押し掛けて」 　父親が座っていた椅子に腰を下ろし、センリは心底、すまなそうに謝った。 「センリ、その原因を作ったのはお前だぞ？　忘れたか？　もっと反省しろ！」 　チクリッ…　とヒロキは、センリに嫌味を言った。 「ゴメン！　だけどオレ、本当にヒロキを幸せにする自信、結構あるんだよ」 　2人っきりになるとセンリは、生意気なコトを言い始めた。 「センリ…　お前、全然反省なんかしてないだろう？」 　さすがにコレにはヒロキもあきれてしまう 「反省してるさ！　オレ自身、自分が未熟だと知ってるし…　いつもはそういうのをヒロキが補ってくれるだろう？」 　甘え上手なセンリらしい、口説き方である。 「お前、ズルイ言い方するなよ！」 ＜まったく、この男は…　何でこうも僕の扱い方が上手いのかなぁ？＞　 　ジロリと睨んだが、ヒロキはこういうセンリに弱いのである。 「オレとしては面倒ゴトを、全部終わらせてからヒロキをモノにしようと思ってたから、報告するのを最後にしたのさ」 　頭が重くて顔をふせ気味のヒロキの前に… 　センリは屈んで下からヒロキの顔を見た。 「バカ！」 　グイッ…　とヒロキは、センリの顔を押しのけた。 「やっぱオレ、ヒロキが欲しい！　結婚はヒロキとが良い、年上オメガ妻、エロくて最高！」 　押しのけられたセンリは、図々しくヒロキの膝を枕にして、チャラいコトを言って、カラカラと笑い細い腰に腕を回す。 「バカ！　アホ！　傲慢野郎！」 　いつもの調子のセンリに戻り、思わずヒロキは笑ってしまい、耳を引っ張り罵った。 「オレ、ヒロキみたいな綺麗で可愛い嫁をもらったら、毎日真っ直ぐ家に帰るし、浮気もしない！　大事にするし…　ソレと真面目に生きるから、ヒロキ結婚して！　本気で愛してる！！」 「・・・・・・」 　センリは自分を上手く扱えるのはヒロキダケだと言うが… 　逆にヒロキ自身も、時々ひねくれて、酷く扱いづらくなる。 　そんな時センリは、ヒロキの面倒見の良さに甘えて機嫌を取り、上手に扱うのだ。 「オレが結婚して上手くやってイケるのは、ヒロキ以外いないし！」 　甘えるのが下手なヒロキは、基本的に甘やかす側が合っているのだ。 「お前の悪いクセだよセンリ、コレから何かする時は、ひと言で良いから僕にも教えてくれ…　何も知らないのはスゴク寂しくて辛いから…　ソレに怖かった…」 　何も知らずにヒロキは選(よ)りに選(よ)って、会社のトイレで番(つがい)にされ気絶するほどの衝撃を受けたのだから、辛くないワケがない。 　本当に辛そうなヒロキの顔を、センリは膝から見上げて… 　ガバッ…　と慌てて身体を起こし、センリは靴を脱ぎ捨てベッドに乗ってヒロキを抱き上げ自分の膝に乗せて抱きしめた。 「ヒロキはいつもオレの身勝手を許してくれるから、傷ついているとは思わなかった、本当にヒロキの言う通りだ、悪かった！」 「分かっているよ…　センリは普段と同じく、自分の計画を実行に移した、ソコに僕の心の弱さは計算されていなかったダケだよな」　 「うううっ…いつも迷惑かけてゴメンなさい、ヒロキさん！」 　チクチクと言葉のトゲで刺されまくり、センリはうめき声を上げた。 　 　この日ヒロキはセンリに長々と説教をした後… 　プロポーズを受け入れた。