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第18話 新生活
新しいオフィスで、手元のファイルをチェックしながら、ヒロキがPCで数字をいくつかカチカチと打ち込んでいると…
「ヒロキ、こっちの資料を集めといてくれるか?」
新たなファイルを上司に渡され…
渡した相手をヒロキは座ったまま見上げた。
「はい… 今日中にですか?」
渡されたファイルの中を確認しながら、ちょこちょことペンでメモを取り、上司にたずねた。
「うん… G.I社関連のヤツだから… そうだな、ざっくり明日まででいいけど…」
上司は自分のアゴを撫でながら、ヒロキの質問に答えた。
「出来れば、明日の午前中の会議に間に合わせたいのですね?」
社名を聞きおおよその見当をつけ、もう一度、聞き直した。
「うん、出来そうかい?」
上司はヒロキに期待の目を向け、柴犬のように瞳をキラキラさせた。
(ヒロキの目にはそう見えた)
「ええ、準備はしてあるので、急げば今日中に出来ますよ」
「ありがたい!! 頼むよ!」
大きな掌をヒロキの肩に置き、上司はニパッ… と笑った。
シッポがあったら、プリプリ振っていたに違いないと思わせる雰囲気を持つ上司である。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――っ!!!!! このセクハラ野郎―――ッ!!!!
オレのヒロキに近づくな―――っ!!!」
叫びながら、ドカッドカッ… と荒々しい足音を立てて暑苦しい男がヒロキに駆け寄り、上司との間に割り込み、壁のように立ち塞がった。
「センリ… お前、自分の仕事はどうした?」
広い背中に向かって、ヒロキは呆れながらたずねた。
「今は昼の休憩時間だよ、今日は遅かったんだ! それよりもヒロキ、兄貴になんかエッチなコトされなかったか?! 油断ならねえなぁ!! チクショ―――ッ!!!」
「いや… センリ、僕は普通に上司と仕事の話をしていたダケなのだが?」
プロポーズを受け入れた後、センリが用意していた婚姻届けに、病室でサインさせられ…
退院と同時に2人の新居に引っ越し(ヒロキの荷物は運び込まれた後だった)
色々文句はあったが、結局ヒロキが折れる形で今は新婚生活を送っている。
予定通り元の職場を辞め、結婚してもまだ働きたいと迷っていた時に、神田家の次男カイリが起業したてで人手不足だからとヒロキを雇ってくれたのだ。
ヒロキ的には、元の職場に復帰したかったが、センリが色々やらかしたせいで、恥かしくて戻れなかった。
今のところヒロキは、義兄(年は同じ年だが)になるカイリ氏と、上手く付き合えていると思っていたが…
予想外だったのは、センリの嫉妬深さだ。
「お前、そんなガキっぽいコトばかり言っていると、ヒロキに捨てられるぞ? そうだヒロキ、その時は私と結婚しようなぁ!」
カイリ氏はセンリの嫉妬深さと子供っぽい執着心を、揶揄って挑発するのが好きらしい。
プライドが高すぎるアルファの兄弟はこんなモノなのだろうか? とヒロキが首を捻っていると…
「人の妻を口説いてないで、自分の嫁を探せよ!!」
次兄カイリも子供の頃からの婚約者と結婚して、1年持たずに離婚していた。
センリは、ギュッ… とヒロキを椅子ごと抱き締めて、次兄カイリを睨み付ける。
「ヒロキ、いるか―――っ? 3時のおやつを持って来たよ~ 何だ、センリ… お前、仕事はどうした?!」
神田家の義父が、有名スウィーツ店の紙袋を下げて、ニコニコと微笑みながら現れたが…
センリの顔をヒロキの隣に見つけ、急に不機嫌になった。
「親父こそ、仕事はどうしたんだよ?! ヒロキの邪魔するなよ?!」
ムスゥ… とセンリが父にとんがった言い方をする。
「おお~い、ヒロキいるかい? この前言っていた芝居のチケットが手に入ったから… 何だセンリお前もいたのか、仕事はどうした?」
神田家長男が、のんびりと現れたが…
センリの顔を見つけて冷ややかな顔をした。
神田家のアルファたちに気に入られ、仲良くしてくれるのは嬉しいが…
毎日、この調子で職場で可愛がられると…
「・・・・・・」
ヒロキは仕事にならなくて非常に困っていた。
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