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第2話

しゅわしゅわとした喉越し……なんぞはどうでもいい。 俺はビールの風味と旨味が好きだ。 麦の甘みを感じられるビールならなおいい。苦味は正直よくわからん。 雲仙がたまに利用するらしいこの店のビールは旨かった。 だが、カウンターと小さなテーブルが3つというこじんまりとしたダイニングバーの、おしゃれな内装と間接照明に頼りすぎな暗さがどうにも居心地が悪い。 それでもしっかり3杯飲んだがいまいち酔えなかった。 けどサウナに行くにはこのくらいの酔い加減がちょうどいいんだよな……。 ◇ 「雲仙くん、あそこのサウナ行きたい。俺のお気に入りなんだ」 「大浦さん……ここ脱衣所ですよ」 いまいち酔えなかったと思っていたのに、ダイニングバーを出てから疲れとアルコールが絡んで、小さく記憶が飛びが起きてしまっているようだ。 「大浦さん、まだ下着穿いたままです」 「あらら……?ってか、雲仙くんパンツ掴んで止めるのやめろよ。伸びる」 ただでさえ緩みかけてるボクサーパンツのゴムを背後からつかまれ、俺は間抜けな半ケツ状態になった。 「……雲仙くんって……そんな呼び方されるの初めてなんですけど」 「なんだ不満か?じゃなんて呼べばいい?」 「え……ミズホ?あ、いやそういう事じゃなく……」 そういえば雲仙の名前は瑞穂だったな。さっぱりした顔に合う爽やかな名前だ。 「よし、ミズホくん浴場にGOだ」 「ミ、ミズホくんって……。大浦さん本当にさっきから急にノリが変わりすぎです」 パンツをロッカーに投げ入れると、なんだかごちゃごちゃ言ってる雲仙の肩を押して浴室に向かった。 ここは古いタイプのサウナで、綺麗なロッカールームや専用浴衣なんてものはない。脱衣所と浴室は直結だ。サウナの入り口は浴室内にある。 パパッと体を洗って、なだらかなタイルに覆われた湯船に浸かる。 ヘリに寄りかかって、ふぅ……と見上げる天井の高さがいい。結構大きめの天窓が斜めに三枚ついていて、闇にネオンがぼんやりと光り、夜空の広がり感じさせてくれる。 そう広くない施設だがサウナ以外に通常の浴槽と熱湯や水風呂、小さなジャグジーがあり、その中でも浴槽が占める割合が大きいのもいい。 狭いのに、広い。ここには男が好きな要素が詰まってる気がする。 しかしさっきの店と違って今度は雲仙が落ち着かない。 こんな一昔前のサウナには足を踏み入れたことがないんだろう。 客は俺たちの他に2〜3人いたが、ゆっくりと湯に浸かっているうちに次々と出て行った。 雲仙がチラチラとサウナ室と俺を交互に見て天井を仰いだ。 ……もしかしてのぼせかけてないか? 「……どうした?」 「あの、サウナ入らないんですか?」 「湯船で体ほぐしてからサウナに入るのが好きなんだよ。別に俺に合わせることないから、ミズホくんは自由に休憩したりサウナに行ったりしていいんだぞ?」 ズザバーン……!雲仙はまあまあな勢いで立ち上がり、男らしい仕草で汗ですっかり濡れた髪をかきあげる。 程よく筋肉がつき均整のとれた体は真っ赤に染まり、俺の顔の横には標準サイズだが若々しいモノがだらんと垂れ下がっていた。 立った勢いで俺に盛大に湯がかかったことや、顔の横でぶらぶらさせてしまったことなど気にする余裕もないんだろう。ふうふうと息をしながら水風呂に向かう。 「うっ…くうっ……冷た……」 膝まで入ったが、それ以上浸かる気にはなれなかったらしく、ヘリに座ってホウとため息をついている。 雲仙のこんな初々しい反応を見るのはいつぶりだろう。 「……もう、大浦さん笑わないでくださいよ」 情けない顔で振り返って言われたけど、それがまたどうしようもなく可笑しい。 俺がサウナに向かっても、まだ雲仙は水風呂のヘリで膝を抱えて座っていた。 その若々しい背中がどうにも可愛らしくて、ニヤニヤと笑いながらサウナに入ると、中にいた若い客が出て行ってしまった。 ……これは……ニヤけながら入ったせいで気持ち悪がられたんだろうか。 ちょっと気まずい思いをしながら、一人きりのサウナにバスタオルを敷いて座る。 オレンジ色の明かりに染まる室内は、壁沿いに三段の階段状の座面のある一般的な作りだ。 俺はここのサウナの湿度と温度、そして誰かがドアを開けて入ってきた時の一瞬の風の通り方が好きだった。 背中に汗が幾筋も伝い始めた頃、雲仙が入ってきた。 俺のすぐ横にタオルを敷いて座る。 確かに狭めなサウナ室だけど、二人しかいないんだからこんなに近くに座らなくてもいいだろうに。 だけど、具合が良くなったらしくニコニコ上機嫌な顔を見るとそんな文句は言いづらかった。 「大浦さんさっき脂肪がついてるって言ってましたけど、全然そんなことないじゃないですか」 確かにぷよぷよとまではいかないけれど、引き締まった雲仙の若い体に比べるとどうにもだらしがない。それに……。 「見ろよこの腹。まんまるだろ?」 「あ……確かに。でも下っ腹じゃなく胃のあたりがポコンと出てるから、コレ今飲んだビールじゃないですか?ちょっとこの丸みは……子供みたいで可愛い……っです」 思いっきり腹を覗き込み、遠慮なくポンポンと叩いて笑っている。 ちくしょう。運動不足で腹筋がなくなったから、ビール飲んだくらいでこんな子供みたいな腹になってしまうんだよ。

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