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第3話

「さわるなよ」 「いいじゃないですか、減るもんじゃなし」 「むしろ減るんだったらさわっていいよ。けどダイエット効果なんかないだろ?」 「ええ……?じゃあ、僕マッサージしますから、お(なか)なでさせてくださいよ」 俺が汗だくなのも気にせず、両手でペタペタとさわり始めてしまった。 距離が近いから、雲仙の膝も俺の太ももにふれている。 ……潔癖まではいかないまでも、他人の汗なんて絶対嫌がるタイプだと思ってたのに。 「腹のマッサージはいらないから。どうせなら肩と腕を揉んでくれよ」 「いいですよ。じゃ、肩から揉みますね」 冗談のつもりだったのに、雲仙は一段上がって俺の後ろに回ると楽しそうに肩を揉み始めた。 「いいよ。俺汗かいてるから気持ち悪いだろ?」 「全然?風呂の後のサウナの汗ですから気になりません」 上手くも下手でもないマッサージだが、楽しそうに揉んでくれるので俺もつられて楽しくなってきた。 俺の両脇が背後から雲仙の足で挟まれているのは少し気になるが、しかし不快ではなかった。 肩から肩甲骨にかけ、大きく手を這わして揉んでくれるのが気持ちがいい。 けど、なぜか時々背中の真ん中をツルンツルンと優しくなぞるのだけはやめてほしい。 くすぐったくてゾクゾクする。しかもくすぐったさにビクンと肩を揺らすと嬉しそうに笑って余計に背中をツルツルとなぞってくる。 「もう、ミズホくんそんなソロソロなぞられたらくすぐったいって」 肩越しに顔を覗かせた雲仙に文句を言うと、ちょっと何か考えるように視線を巡らせ、ぐっと体を寄せた。 「もうちょっと強めに押した方がいいってことですか?」 強めにツルン!と背中をなぞられ、いい具合にコリに当たる……けど。 「ぁ…ちょっっ……確かにそっちの方が気持ちいいけど、ツルンツルンとなぞられるとやっぱゾクゾクするって。もうちょっとしっかり、こう、グリグリ押すとかさ」 「……こう……ですか?」 肩に置いていた手を外し、背中をクリクリと押してくれる。 「ん…ああ、うん、さっきよりいい。それでさ、肩甲骨のあたりとか……うん、いいそうそう」 「…ここ?イイ……ですか?……はぁ……ぁつっ……」 背後から雲仙の熱い息が俺の耳にかかる。 そういえばさっきも風呂でのぼせそうになってたし、コイツ熱いの苦手なんじゃないか? 「ミズホくん、気持ち良かったからもういいよ」 「ん…はぁ…もうちょっと……」 その声はもうフラフラだ。 真上を向くようにして雲仙を振り返ると、真っ赤になった顔面に滝のような汗が流れていた。 「無理するなって、一回出よう。水風呂入ってクールダウンな?」 「……ぁい……」 いつもシャキッとしている雲仙がフラフラと俺の肩に顎を乗せた。 流れる汗が入った目を、まるで泣いているようにしばしばさせている、その無防備さが可愛らしい。 しかしそんなフラフラになっていてもサウナから出てすぐの水風呂まで行くのにきっちり腰にタオルを巻く几帳面さは雲仙らしいかもしれない。 さっきは膝下までしか水風呂に浸かれなかった雲仙だが、今度はソロソロと少しづつ沈んでいき、肩まで浸かることができた。 「あ…くぅ………これは…縮みあがりますね」 「そうか?俺は慣れてるからな。でもこの毛穴がキューっと閉まる感じがいいんだよ」 「ああ、確かに。熱が引いていく感じがいいですね。これだったら何度でもチャレンジできそうな気がします」 ようやく雲仙に爽やかな笑顔が戻ってきた。 水風呂から上がって再びサウナに向かう俺に、しっかりした足取りでついてくる。 「あんまサウナに慣れてないんだろ?俺に合わせて無理することないからな。それに俺も酒飲んでるから、そんな長く入るつもりないし」 「そうですね。無理しないよう気をつけます」 先ほどと同じ場所に座ると雲仙も横に座り、今度はタオルを敷いた太ももに俺の手を置いて、またマッサージを始めた。 雲仙の綺麗な手が、俺の二の腕をしごくようにゆっくりと動いて揉み、手のひらをぎゅっと握って刺激してくれる。 並べて見比べればそんなに違わないのに、雲仙の手の方が白く見えるのは、やっぱり肌の透明感の差だろうか。 腕の太さもそこまで差はないのに、締まっているから雲仙の方が細く見える。 弾むような玉が胸や肩に浮いたかと思えばさらりと流れ、雲仙は伝う汗すら若々しく爽やかだ。 肘を伝う汗が俺の手にポタリと落ちれば、すっかり淀んだ俺の体がちょっと浄化されるんじゃないかとすら思える。 それに、ひとまわり上の俺にこんな風に嫌がらずにふれてくれること自体が、雲仙が親しみを持ってくれているという証拠のようで嬉しかった。

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