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第7話 震える
どれくらい座り込んでいたのか。
時計を見る。携帯がなる。
部下の八田だ。
「おはようございます!今どこですか?
朝一から会議ですよ。忘れてませんよね
遅刻ですか?!」
「馬鹿か! トイレだっ! 腹の調子が悪いんだよ。今行くから!資料用意しておけ!」
携帯を仕舞い、立ちあがろうとしても膝に力が入らない。
深呼吸して腹に力を入れる。
おっし! 掛け声と共に立ち上がる。
畜生……ふらつきやがる。
それにしても警備会社かぁ。三年?だって言ってたよな。何だか途轍もなく腹が立ってきた。が、まずは出社しないと。
(株)警備会社 ハートマークタワー
これかぁ20階にあるんだ。
俺は案内プレートを見つめる。
ほんとなのか……胸が痛くては苦しくてどうしようもない。いくら深呼吸してもこの痛みは収まらないんだ。怒りと懐かしさと……愛しいがぐちゃぐちゃになって襲ってくるんだよ。
部屋の前には八田が立っていた。
俺の顔色をうかがっている
「お早うございます!お腹?」
「お~お早う~大丈夫だよ」
「ほんと? 顔色すげぇ悪いすよ!」
八田真也は主任として俺の右腕だと自負しているぐらいだから、俺の事を殆ど把握していた。
「あ~そうかな。寝不足と食べ過ぎだ!」
「いや~俄には信じがたい。が、そう言うことにしときますよ」
「なんだ? その言い草は。俺にも色々あるんだよ!」
「はいはい、では~打ち合わせお願いしま~す」
八田の頭を小突くと俺たちは資料を持ち会議室へ向かった。
二本の打ち合わせを終えて、デスクに戻るとどっと疲れが出た。
「課長! 俺昼飯行きます! 午後一に出るんで」
八田に手を振り昼休憩に行かせた。
春木薫……春木薫。同じビルにいながら調べようがない。畜生どうすればいい?
会社に電話をかけるか? このビルに入っている会社一覧表はどこだ……あった! ハートマークタワー警備会社。これだ。代表番号にかけるしかない。
やめておくか……心臓痛い。どうする? でもこのままでは駄目だ。どんな形に為ても蹴りはつけたいんだ。
この先俺の人生を進めるために。
受話器を取り番号を押す。
「こちらはマルボツ商事の営業部
第二営業課長 川……申します。
はい お世話になっております。
春木薫様お願い致します」
「はい! マルボツ商事様ビル担当の春木薫でございますね。ただ今お電話おまわし致しますので、少々お待ちくださいませ」
「大変お待たせ致しました。春木薫でございます。マルボツ商事様の…川と様?でご…」
「いえ。川辺誠です」
「えっ!………あっ……川……辺誠……様」
「薫か?」
「は…い……」
「今から昼休憩か?」
「はっい……」
「じゃぁ……屋上テラスにきてくれ」
「……はい 了解いたしました。すぐに伺います。失礼致しました……」
薫だ! 薫の声だっ! 逢える!
二十年ぶりだぞ。震えが止まらない。
「昼休憩行くから。何かあったら携帯鳴らせ」
残ってる部下に言付けると、俺は小走りに部屋を出た。どくとく心臓が煩い。
薫はまだ来てないようだ。
俺はエレベーターからよく見えるベンチに座って待った。
俺は目を見張った。エレベーターから降りてきた男に。美しい……美しすぎるんだ。
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