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第8話 再会
その美しい男は俺の前に静かに立った。
「誠……」
「薫……」
俺は立ちあがると黙ったまま歩き出した。人目のつかない場所を探し、そこへ吸いこまれるように、隠れるように座り込んだ。
「元気そうだね」
なんだそれ! 二十年ぶりにあった恋人に向かって、突然消えた奴がかける言葉かよ。文句を言いたい。ぶん殴りたい! なのに駄目だ。泣けて泣けて。
畜生! 涙が止まらないんだ。
いい年のオヤジが……理性も何もあったもんじゃねえ。
「誠……誠」
名前を呼ばれるたびに苦しくて、今すぐにでも抱き締めたくて。
でも、怖くて怖くて。夢なのか? それとも幻なのか? 現実味がない。
そっと薫の腕に触れてみた。ここにいる。俺の隣にいる。薫がいる。
薫も目が真っ赤だ。多分あの電話のあと、泣いていたにちがいない。
「まこちゃん……ごめんなさい」
「お前なっ!……馬鹿! 許さない!」
「判ってる。 許る為て貰えるわけないって判ってるけど……謝らせて」
「畜生、畜生……お前なっ!ふざけるなよ」
「誠……話しだけでも為たいんだ」
「嫌だ! 話しなんて嫌だ!」
「そっか。そうだよな。でも誠……僕はずっと好きだったよ。そしてこれからもずっと好きでいるよ」
もう切れた! 頭に来た! 馬鹿野郎! 薫のばか。なんだ? その言い草。俺だって俺だって今でも好きなんだ……お前が……。
「お前なっ! お前なっ! 俺は! 俺は! お前の恋人だぞ! 馬鹿野郎のばかのくそったれ!」
薫は思わず吹きすと、
「誠は変わらないね。それが嬉しい」
はあ……なにをそんなに落ち着いていられるんだよ。もう金輪際離すものか。
「薫! これで終わると思うな。話しは今夜聞いてやる。仕事終わったらロビーで待っとけよ!」
「じゃぁ話し聞いてくれるの? 判りました。定時に上がってロビーで待ってます」
そう言って立ちあがろうとした薫の腕を力いっぱ引っ張り抱き締めた。
「誠……誠……ごめんなさい」
「煩い! 静かにしろ」
その美しい唇を思いっきり塞いでやった。
薫の柔らかい唇。俺の薫だ。
デスクに戻ると八田真也が
「すげぇ花粉症ですね。酷いなぁその顔。目なんかパンパンに腫れてますよ~ハハハそれになんかもうぐちゃぐちゃだよ」
こいつ! 煩いんだよ。馬鹿八田! ほっとけ。
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