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第10話 俺ってビビリなのか?
定時になった。やっと長い一日が終わる。俺が黙々と帰り支度を始めると
八田が突如声をかけてきた。
「課長~今日は早いですね。俺の知る限り定時退社なんて初めてですよ……
ねぇ残業しましょう~ねっ!」
「さっきも言ったよな。俺は用があるんだよ。だいたいお前なぁ。女の子がデート誘ってんじゃぁ無いんだから。 きもいんだよ阿呆が。んじゃお疲れ!週末ちゃんと休めよ。お前たちも早く帰るんだぞ」
八田真也はヘラヘラ笑いながら手を振ってる。
ったく、なんだよその意味深な笑いは。まあ、八田はあれで俺の事を心配してくれている。お互いゲイだって事を共有為ている唯一の同志だからな。大学から付き合っている恋人と、そろそろ結婚しょうと考えているんだそうだ。意外に一途なんだ……惚れてりゃ当たり前か。然し羨ましい限りだ。
本当大切にしろよ。
俺は走った。待たせたくないんだ。
そもそも来てなかったら……いやそんな訳ない。薫! 薫! あっ!いた。
落ち着つけ。呼吸を整えろ。
「お疲れさまです。川辺課長」
「お、お疲れさま 春木……」
「一応課長です」
「おっお、そっか。ではよろしくお願いします。春木課長」
俺たちは無言で会社を出た。
時折肩が、手の甲が触れる。
その度に鼓動が跳ね上がる。
薫が沈黙を破る。
「そう言えば誠の家は何処?」
「俺は中野だ。薫は?」
「へぇ近いな。僕は高円寺だよ。
ところで今日は何処で話す?」
何処って。いやそんなに見るなよ。
美しいその顔で覗き込まれると、
頭が真っ白になるだろが。
「その前に飯はどうする? どこかで食って行くか?」
「いや……炒飯ぐらいなら作れるから、
嫌じゃなかったら家来てよ」
嫌なわけないだろ。
黙って頷くと、昔そのままのキラキラとした笑顔が俺を捉える。
「部屋綺麗じゃないからね、覚悟してよ」
「お宅拝見じゃ無いんだよ。話せればいいの!」
移動中はお互い、当たり障りない仕事の話に終始していた。中間管理職の悩みなぞを愚痴ったりして。業種は違えど抱えてるものは変わらないねなぁ。
中央線高円寺駅から五分程歩くと、こじんまりしたマンションが見えてきた。薫が止まった。
「ここだよ。古いけど駅近で便利なんだ」
「駅近は必ちゅだろ」
クソ、嚼んだ。
「うふふ嚼んだ」
煩い! ヤバイ緊張してきた。
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