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第11話 知りたい
ドアを開けると、ふわっと懐かしい香りが俺を包んだ。これってあのシャンプーだ。
「散らかってるけど、上がって」
そう言って薫はスリッパを出した。
「おっ 邪魔するな」
シンプルと言うよりは、必要最低限のものしか置いていない。インテリアもほぼ無い。部屋は2DK。ひっそり暮らしているそんな印象を受けた。
この部屋には、あの頃の可愛い薫はいない。まただ、胸が苦しくなる。
「誠? 早くこっちに……ハンガーに上着かけて」
ハンガーと引き換えに鞄を渡す。
「こっちがバスとトイレなんだ。
俺ひとりだからこれで充分」
そっかひとりか……良かった。
「手洗って、うがいして」
タオルを渡され……母親か?
気が付くと薫は部屋着に着替え
キッチンに立ってた。
「よければ、スゥェット出してあるから着替えて」
「うん……じゃぁとりあえず着替え借りるわ」
「うん! 着替えたらその辺に座ってて」
着替えた俺は、ぼ手持ち無沙汰でぼっとっキッチンの近くで立っていた。
それに気付いた薫が、麦茶のペットボトルを二本とコップを渡してきた。
「にんにく平気?」
「好き」
上手そうな匂い。あっという間に炒飯が出来上がった。
「本当これしか無いから。とりあえず食べよう」
「頂きます!」
「頂きます! 美味い! すげぇ美味い!」
「本当? 誠に褒められて嬉しい!」
沈黙……
「なぁ。薫は俺の前から消えて寂しくなかったの?」
「……そんな……寂しくて悲しくて、毎日泣いていたよ」
「じゃぁ何で連絡くれなかった? 俺だって死ぬほと寂しくて。逢いたくて
逢いたくて……」
拙い…涙が……いい年したおっさんが
号泣かよ。でもどうしようも無いんだよ。畜生! 炒飯が喉に詰まる!
落ち着け俺、麦茶を飲み深呼吸。
「今から消えた理由って話して貰えるのか?」
薫は下をむいたまま黙っている
「駄目なんだ」
「ううん。話せる!……けど」
「けど……なんだよ! 言えよ」
「うっ…クッ…クッ…はぁはぁ…」
「どうした? 苦しいのか? 胸か?薫!」
思わず抱き締めた俺の腕に薫は縋り付いてきた。
「誠……あぁ誠~誠」
あぁこの匂い。愛しい愛しい薫の匂い
髪にそっと顔埋める。
「大丈夫だよ。嫌なら言わなくて良いから。薫? 相変わらずいい匂いだ」
「誠は、いつもそう言ってくれてたよね
これシャンプーの匂い。だからずっと変えないでいたんだ。覚えていてくれて嬉しい」
馬鹿野郎。忘れるわけ無いだろが。
クソ! ふざけるな! お前の匂いだっうの。
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