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第14話 薫の傷

 男娼……俺だって買おうと思った事は なくはない。金で済ませられるのなら 後腐れなくて良いと思った。でも結局行動を起こすことはなかった。求めているものが違う。捌け口をさがしている訳でない。愛されたいんだ。俺を心から求めている欲しいから。 でも……金を払っていると思うと、我が儘をそこそこ通せると思い上がる。きっと俺だって同じ穴のムジナだったろ。  そう考えると、この先の話しを平常心で聞いていられるのだろうか。  俺の反応が、敢えて淡々と語ろうとしている薫の心を、深く剔ってしまっているとしたら。自分の気持ちを懸命に、コントロールしているのが痛いほど判る どんな辛い経験をしてきたのか。 俺が判るなんて言えるレベルの話しではない。俺に何も出来ることは無いのだ。 俺は辛うじて、 「薫無理するな」 と言ってはみたものの、変に軽薄な空気を漂わせてしまった。 薫は少しだけ笑みを浮かべると、 「僕は大丈夫だけど、誠が嫌だったら、いつでもやめるから」 何だよ! 俺に気を遣いやがって 「俺は全く平気だからな」 薫はそれを聞くとにっこり笑い、話しを続けた 「僕は広島市内の男娼の店で働かされていたんだ。先輩の苛めや嫌がらせは毎日あったね。東京出身が気に入らない。 僕の顔が気に入らない。お得意を取られたとかさ。理由はいくらでもあるんだ。 だって、何処の馬の骨か知らない小僧が入って来て荒らしているんだから。 そりゃやられるよ。でもね、それよりもお客の無理難題が辛かった。 それこそ昨日まで何にも知らない子供が、一日何人も男とセックスさせられるんだ。そして、初めて耳にする蔑みの言葉とか、人間扱いされない事が辛くて、悲しかった。狂いそうになったけど、 その内何も考えない人形に徹することにしたんだ。それが気に入るお客様もいてね。長期に買う人も出て来て。破格値を払うから、まあ店側もある程度は見て見ぬ振りするんだよ。お客様はなんてもありで要求してくる。お金払ってるから……骨にひびが入るほど蹴られたり、アザが出来ることは殴られたり。 あるときは、物凄いお金積まれて買われたんだ。1週間鎖に繋がれてやりたい放題為れたときは、流石に死ぬなって思った。体中好き勝手にするんだよ。  玩具だよ。生きた玩具。最後はほぼ意識は飛んでいたと思う。 本当どう言う訳か、僕のお客様は殴る蹴が好きな人が多くてね。 僕か痛がって泣く姿に欲情するんだって。アザの後が、今も結構黒く残ってる場所があるんだよ。だから人前では裸になれないんだ。 借金がなければ……お客様の種類が違ったって、後から仲の良かった先輩が教えてくれたけど。どうしようも無い。 借金は厳然としてあるんだもんね」

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