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第16話 男妾
薫は一気に話したせいで疲れたと笑うと、珈琲を淹れにキッチンに入って行った。
俺も流石に疲れた。知らない世界で生きていた薫。まさかの映画や小説になりそうな薫の二十年。何か言いたい……言葉を探しても見付かるわけない。
でも、俺は一緒にいたい。ただそれだけなんだ。離さないよ薫……お前がなんと言おうとな。
暫くするといい香りがしてきた。
あぁ美味そうだ。ほっと一息させてくれる香り。
「はい! 誠はミルクとお砂糖。どうぞ」
あっ! 懐かしいマグカップだ! ふたりが大好きだったアニメキャラクター
孫……空 べ……タが描かれている。
「これって」
「そう。あの日ふたりで買って、そのまま僕が持って帰っちったやつ。覚えていてくれたんだね。これだけは大事に持ってた……」
「ありがとう。でもさ、ジャンケンでどっちにするか決めようって、言ったまんまだよな。なのに薫が悟……空使ってるじゃん。ジャンケンするぞ」
「え~大事に持ってたのは僕だよ~
誠のケチ! ジャンケンしますよ~だ」
勝った! 俺の勝ち!どんなもんだい。
「俺、ベ……タ」
キョトンとしている薫。
「えっ? だって」
「良いの! ちゃんと約束を果たしたかったの。大切にしていてくれて嬉しかった」
「当たり前だよ。ふたりの大切な思いでだもの」
「コーヒー美味いな」
「本当? お替わりする?」
「ううん、今はいらない。でも後で欲しいな」
薫は嬉しそうに頷かながらカップを片づけた。
戻ってきた薫は続きを話し始めた。
「その人にはとても大切にして貰ったよ。大学も二部だけど、受験勉強させて貰えて入れたし。まぁ妾だからセックスはしたけどね。でも嫌じゃなかったよ。
この人と、このまま一生生きて良ければ幸せだって思えたから。
その人は僕の身の上に起きた事を、
一緒に悲しんでくれて……癒してくれようと愛してくれた。でもね……僕の中で、誠への想いがまだ消えないんだって話したら、それから僕を抱かないって宣言したんだよ。薫は誠くんのものだからって。純粋なんだよねその人、有難い言葉だったけど。実際は、誠と逢えるなんて考えられないでしょ。たとえ逢えたとしても……僕はもう昔の僕では無くなっていて。ぐちゃぐちゃに汚れて……ウ…ッ……とても誠に触れて貰える体じゃない……」
俺は抱き締めずにはいられなかった。
「薫……もう…良いよ なっ」
薫の嗚咽が止まらない。
背中を擦りながら俺も泣かずにはいられなかった。
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