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第17話 怒りが収まらない!
「誠、まだ話さなきゃならない事があるんだ」
「どうしても?」
「うん。どうしても聞いて欲しい」
薫は体を起こして俺から離れると、
また話し始めた。
「その人はね、僕に内緒で誠の事を捜してくれたんだよ。そしてマルボツ商事に勤めている事が判ってね。独身でいることや、海外赴任から戻ったばかりで本社にいること等が判って。ごめんね。勝手に調べたりして。
その人は僕をマルボツ商事に入れてあげられるって言ってくれたけど。流石にそれは出来ないよ。それにもし入ってしまったら、近いようで遠くに行ってしまう
……そう思って。僕は誠の傍で働ければそれで良かったから。あの警備会社に入れて貰ったんだよ。それが三年前……。
警備会社も、その人の関係で中途採用為て貰ったんだ。だから……僕は誠があのビルで働いていること知っていた。
数回だけど顔も見ていたんだ。本当にごめんなさい」
えっ! 薫は俺を知っていた……。
俺を見ていた?……何故声をかけてくれなかった? 今回だって、俺がアクションを起こさなければ逢えなかったって事だよな。
おい! ふざけるな! 許さないぞ!
そんなこと! 頭がおかしくなりそうだ。
「馬鹿野郎! ふざけるな! お前は俺と逢うつもりも、話すつもり無かったのか!」
「判らない……でも……誠の前に晒せる自分じゃない。ただ、誠を見かけたりすると本当嬉しくて、その人に話しを聞いて貰ったりしたんだ。その人には絶対に
逢うべきだって言われていたけど。
でも、でも、僕は怖かったんだよ。
誠に今更何だよ、なんて言われたら
あそこにもいられなくなる。
そしたら、もう誠の顔も見られなくなる。そんなことになるくらいなら。遠くから見ているだけで良いって。自分に言い聞かせていたんだ」
俺は悔しかった。そんなの酷すぎるだろう! こんなに思い続けていたのに、
畜生! 俺は、俺はそんな……ああ苦しい。
「薫には、俺ってそんな薄情な男としか写ってなかったの? ねぇそうなの?
そうだとしてら、悔しいくて情け無いよ……それにお前勝手だよ……」
「違うんだよ! 違う!」
「何が違うんだよ! じゃぁ俺の納得する説明しろよ!」
これが冷静でいられるか! 涙が溢れてくる。
「僕は自分に自信が無いんだよ。人間扱いされてこなかった自分に。僕は家畜以下だとずっと言われていたから。
どうしたって、あの頃の事を忘れられる訳ないんだ。今も魘される、なのに体に染みついた感覚は消えてはくれない。
思い出すと吐いてしまうのに、なのに欲しくなるんだよ。疼くんだよ。男が欲しくて堪らなくてるんだ。そんな欲情まみれの男なんだよ。そんな姿を……誠に見られたくない。
知られたくなかった。
……ただの失踪なら、隠れていただけなら、土下座してでも誠に許して貰う為になんだってする。
でもね……でもそれができないんだよ。
誠には……高校の頃の僕だけ覚えていてほしくて。誠が可愛いって言ってくれた薫のままを」
「……お前がそれを勝手決めていいのか? なぁ、俺の気持ちは? どうしてくれんだよ……俺の人生は……薫だけだった。
ずっと薫だけだった。
長い時の中で、俺にだって恋人はいたよ。でもふたりとも去って行ったよ。
理由は……理由なぁ、何度もお前を呼ぶだって、それが耐えられないって言われた。当たり前だよ。愛し合っている最中に、違う名前呼ぶって。よっぽどだよな。なぁ、なあ、薫どう思う? 俺って狂ってるの?」
どうにも止められない怒りで、薫を追い詰めている。薫をこれ以上苦しめたくないのに……悲しくて寂しくて……涙と鼻水は垂れ流しのまま、泣きじゃくる俺。
おっさんみっともねぇぞ。
判ってんだよ! 煩いんだよ! 俺。
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