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第62話

「僕の家でも来る?」 「え?あーうん」 僕はなぜ誘ってしまったんだろう。 気まずい空気から逃げたかったのか咄嗟に出てきた言葉が『家に来る?』とは……とんだキモオタだ。 男同士だといっても僕達、元恋人だし家に入れるのはマズイかな……? 「お邪魔しまーす」 家に呼んだところで何するんだよ。 僕のバカ!バカ!バーカ! 「――っ」 ドスッ 「え?痛っ……」 「さっきから呼んでんだけど」 「あ、ごめん」 莉羽と家で二人きりなんて緊張しすぎてそれどころじゃない。 「で?」 「で……?」 「は?だからいちごミルクねえの?」 ああ、いちごミルクね。 「あるよ」 「へえ、なんであんの?」 はっ……!しまった!まるで僕が未練タラタラみたいじゃないか。 「ええと、な、なんとなくかな」 「へえ。なんとなくね。でもこれ賞味期限三年前じゃん」 「最近のもあるから大丈――」 「揺瀬っていちごミルク好きだったけ?」 そう言ってニヤニヤと僕に近づいてくる。 流されちゃダメだ……ダメ。絶対だめー!!! 「最近ハマっちゃって」 「……嘘つき」 「り、り、莉羽……ち、近い」 …… …… 「する?」 「え、な、なにを……」 「聞かなくてもわかるだろ」 嘘だ……嘘だ……嘘だああああ! だって莉羽には彼女がいるんじゃ…… 「彼女いるよね……?」 「今そんなこと関係ある?」 さすがに彼女が可哀想でしょ。 このまま流れに流されてやろうかとも思った。 思ったけど……その気持ちを押し殺して莉羽から少し距離をとった。 「未だに俺のことキラキラした目で見てるくせに」 ああ、見てるよ。今で再確認した。 僕はずっと莉羽が好きだと。 「……莉羽はどうなの?」 「……言わない」 「ハハ、そっか。僕の心は結局いつになっても莉羽に夢中で仕方ないんだってさ」 「は、なにその臭いセリフ」 本当は触れたいのに触れられない。 僕なんかが莉羽の幸せを壊すことは許されない。 せっかく彼女できたんだ。壊しちゃダメ。 「また……昔みたいに連絡だけ取っていいかな?」 「連絡だけじゃなくて会えばいいじゃん」 「それは悪いから。莉羽が必要な時に呼んでくれたらいつでも行くから」 「俺にお前をそんな扱いしろって言ってんの?」 「……やっぱり莉羽は尊い存在だから」 そう、莉羽は尊い存在。 そりゃ同じ世界で生きている人間といた方が幸せになれるに決まってる。 莉羽の今の彼女みたいな…… だから、 「お前……ほんと何も変わらないな。ただのキモオタ」 「やっぱり僕は莉羽以外に夢中になれるものがないから……まだキモオタでいてもいいかな……?」 莉羽を思うだけにするからそれだけは許してほしい。 「いいよ」

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