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第63話

「ええ!? いいんだ!?」 「お前がオタク辞めようがオタクだろうが俺には関係ないし」 「ああ……そう、だよね、」 莉羽はもう僕のことなんて興味ない。 いや元々、好きじゃなかったのかもしれない。 莉羽は優しいからあんな目で見つめていた僕に同情していてくれたのもかもしれないのに欲張りな感情が邪魔をする。 「なに考えてんの?」 ほらそうやって僕をまた惑わすんだ。 「なにも。なにも……考えてない」 「泣きそうな顔してるくせに」 「してない!あくびが出たの!」 「へえ、どうでもいいけど」 〝どうでもいい〟昔はそんなことを言われても『いつもの莉羽だ!』なんて喜んでいたくせに今はその言葉ですら胸がズキンと痛んでしまう。 「お前、絵……絵はどうしたんだ?」 「なんでそんなこと聞くの?」 「別に聞くくらいいいだろ」 どうでもいいって言ったくせに。 「今は……結果待ち……」 「結果待ち?最終まで残ったのか?」 「うん、まあ」 「で、優勝したらどうするんだ?」 「どうするって……そりゃ絵は書くけどマネージャーも続けたいから。そもそも趣味で描いてただけだし、莉羽が――、……なにもない」 『莉羽が絵の世界に行ってほしいって言ったから続けてる』なんて口が裂けても言えなかった。 「俺がなんだよ」 「いや言葉の綾だよ!」 「は?うぜえな相変わらず」 「ハハ、僕もそう思う」 * * * * * * 「マネージャー!撮影今日からだよー!」 「うん、知ってるよ。頑張ろうね」 「俺の演技ちゃんと見ててよ?惚れるかもしれないけど」 「惚れないよ」 いよいよ莉羽と日生のダブル主演ドラマの撮影が始まる。 現場はイケメン二人が揃ったと大盛り上がり。 マネージャーの僕達は隅の方へ身を潜めて二人を見守る。 マネージャーという役割はそんなもんだ。 「さーて!始めようか!出会いのシーンまで3――」 【今日は推しの握手会。券を集めるためにCDをたくさん買った僕は――】 やっぱり僕達の話みたいで見てるこっちが恥ずかしい…… 「高月さん。顔が赤いですよ?大丈夫ですか?具合が悪いとか?」 「あ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」 どうやら葛西さんにも気付かれるほど僕の頬は赤く染っているらしい。 本当はドラマが始まる頃にまとめて見たかったんだけどマネージャーの僕がこの場を離れるわけにもいかないし、そもそもドラマの内容が僕と莉羽すぎてこの場から逃げたいって気持ちしか湧いてこない。 「本当どんな作品になるのか楽しみですね」 「ええ……まあそうですね」 ただでさえこの二人が主演だと話題になっているのにドラマが始まったら確実に莉羽と日生のファンは増える気がする。

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