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第64話

「はーい!1話のシーンおわり!少し休憩したら2話撮るよー。この二人、忙しいからどんどん進めていっちゃって〜」 日生は言わずとも俳優なだけあって役に入り込むのが上手い。 そして莉羽……本職はアイドルなのになぜ演技まで出来てしまうのだ……! 腐男子の僕にとってこの二人は眩しすぎる。 「マネージャー!俺どうだった?」 「お疲れ様。よかったよ」 「俺って天才だよねー」 「うん、僕が見込んだ子だからね」 日生の頭をポンポンと叩くと「マネージャー大好き♡」と飛びついてきた。 こういう所が憎めないんだよね、わかる。 「莉羽さんもお疲れ様です。本当アイドルとは思えないほどの演技力で……感動しちゃいました」 「日生さんには負けますよ。マネージャーさんの目は間違ってませんでしたね」 な、なぜだろう。すごく嫌味たらしく聞こえる。 「あ、ありがとうございます……?」 僕がそう言うと去り際に〝ッチ〟と舌打ちを立てられ「きっしょ」と囁かれてしまった。 「なにが……キショかったんだ……?」 莉羽の言葉に首を傾げていると2話のシーンの撮影が再開されるという合図がかかり、また隅の方へと移動をした。 「撮影再開するよ。3――」 2話のシーンは霞(莉羽)が祐希(日生)に一目惚れをするシーンらしい。 そんなこと現実にあるはずなんてないじゃないか!と心の中で思いながらも二人の演技に見入ってしまった。 「一目惚れって……まためちゃくちゃな話ですね」 「ハハハ……まあ所詮ドラマなので」 「芸能人がファンに一目惚れって現実ではそうないですよ」 「まあ長い目で見ましょうよ。二人共すごく素晴らしい演技じゃないですか」 「高月さんは優しい方なんですね。日生さんは幸せ者だと思います」 まあ悪く言えば甘すぎるんだけどね。 マネージャーを始めた当初は先輩達によく怒られていた。 『お前は甘すぎるからダメなんだ』『売れるものも売れない』とか。 そもそも日生は最初から完璧だった。日生を初めて見た瞬間から『絶対売れる』と僕の勘がそう言った。 僕の勘は大当たりだったらしく日生は初めて出たドラマで脇役だったにも関わらずネットでトレンド入りを果たし、そこからトントン拍子で若手人気俳優とのぼりつめた天才だ。 「いや……僕は楽さで選んだんだと思います。日生は才能の塊だから」 そう、だから日生より楽さを選んだクソ野郎だ。 「最初はそうだったとしてもここまで日生さんがこれたのは高月さんのおかげでもあると思います」 それを莉羽の面倒を見ているマネージャーさんに言われても少し複雑でしかない。

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