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第8話

***  二度目のデートは、最初のデートから二週間空けた土曜日だった。場所は『アイリス』本部を介してのメールのやり取りで決めた近くの海浜公園で、メインアトラクションの大観覧車に乗るのが目的だ。ライトのリサーチによると、公園が空港と近いためその観覧車からは飛んでいる飛行機がよく見えるのだという。裾野には慧の気に入りそうな花畑も広がっており、二人して楽しめるだろうという話だった。    宅配便の青年がライトではないのかと疑い始めてから、打ち消そうとすればするほどその疑問は慧の中で大きくなっていった。脳裏に焼きついた後ろ姿を思い出すにつけ、やはり彼だったように思えてくるのだ。お返しの花にチョイスされたのがかすみ草だったこともひっかかっている。まるで慧の好きなタイプの花を知っているかのようではないか。  華やかなホストであるライトと、地味な作業着姿の配送業者の青年とはなかなか結びつかず、同一人物と考えるのは違和感があった。だが意外なことに落胆は全くなく、むしろ嬉しいような気持ちになるのが自分でも不思議だった。ホストという、慧とは無縁の華やかな世界の住人だったライトが、これまでよりも身近に感じられてくるせいかもしれない。  だが、慧はホストとしてのライトを買ったのだ。金で結ばれた契約上の擬似恋人なのだから、表面的な甘い言葉のやり取りで幸福感を得られればそれで満足すべきだろう。けれど、最初のデートを思い返すとき脳裏に浮かぶのは、営業用の微笑で慧をときめかせた彼よりも、飛行機について語ったり、素直な好奇心に目を輝かせ庭のあちこちを覗いて回っていた、素顔の彼の方が多いのだ。    ――もっとライトに近づきたい。    ライトが慧のことを知りたいと思ってくれたように、慧ももっと彼のことが知りたい。  そんな想いを募らせながら臨んだ、二回目のデートだった。  海浜公園の入口で待ち合わせ軽くお茶を飲んでから観覧車のゴンドラに落ち着くまでの間、ライトの態度はこれまでと何等変わらず、むしろ他人行儀な礼儀正しさを取り戻していた。客用の美しい笑顔でスマートに慧をエスコートしてくれ、たまに気障な甘い言葉で頬を火照らせたが、前回のデートのようにプライバシーについて質問してくることは一切なかった。『こないだアパートで会ったよな』などと、宅配便の件を彼の方から言い出すことももちろんなく、慧もなかなか話の糸口を掴めずにいた。  話題が豊富で話し上手なライトとの会話は楽しい。けれど、当たり障りのない世間話で時間が過ぎていってしまうことを、少しだけ寂しく感じてしまう。 「ケイさん? 大丈夫か?」  少しぼんやりとしていた慧は、目の先で片手を振られてハッと我に返った。 「えっ……あぁ、ごめんね。ボーッとしてた」 「もしかして高いとこは苦手? 無理そうだったら言ってくれよ」  心配そうに微笑み気遣ってくれるライトに、「大丈夫だよ」と微笑み窓の外を見る。ゴンドラはゆっくりと地上を離れていく。 「実は楽しみにしてたんだ。観覧車なんて何年ぶりだろう」 「俺も久しぶりだよ。デートコースとしてはベタだけど、やっぱり鉄板のよさがあるよな」  そう言ってライトは微笑む。小さなゴンドラに、今はライトと二人だけだ。周囲に人のいない今なら、もしかしたら答えてくれるかもしれない。 「あの、ライト……少し、君のことを聞いてもいいかな」  慧は思い切って口を開いた。 「ケイさんから質問って緊張するな。何?」  茶化すような調子で首をすくめる相手に、「君は、この仕事が本職なの?」とためらいながら尋ねる。聞き方に迷ったので微妙な言い回しになってしまった。 「って、どういうことだ?」  相手のまとう空気がどことなく警戒を帯び慧はわずかに萎縮するが、やはりここではっきりさせておきたかった。 「もしかして、他に何か仕事をしてたりしない?」

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