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第22話 いつもの、いやいつもとは少しづつ違う日々。

「なあなあ真島、あのな、オレってアリ?ナシ?」 声を少しだけひそめて佐藤がこんな事を訊いてきた。 なんだ?この急角度の切りこみ。 「へ?人として?ナシナシ」 「ちっげえ~よ!真島はぁ……」というとまた声をひそめ、「オレとできんのかなあって。究極アリかナシならどっちかなあって」とすました顔で佐藤が言った。 ドびっくり! 朝っぱらから佐藤がド(シモ)ネタを放りこんできた!ってそういう事聞いてるんだよな? 「いやさ。最近桜子ちゃんに借りてBLハマっててさ。ちょっと気になっちゃってさ。テへへ?」 佐藤は舌を出してウィンクした。 カワイくない。 てさてさって、なんなのこいつ。 「オマエ、どの口が言ってんだよ」 おっめずらしく灰谷がツッコんだ。 「だよな~。でもなんか気になるじゃんそういうのって~」 オレが男とアレコレしてたし、できるって知った時の佐藤のあのウダりようを思えばそうだよな。 つうかオレの純情をフィクションなんかと一緒にすんなよ。 それにしても登校時に聞くことじゃねえよな。 「中田は気になんねえ?気になるよな?」 佐藤が中田にフッたんだけど、中田の返事はない。 オレたちの視線が前を歩く中田の背中に集まった。 「おーい中田~中田きゅーん……中田って!」 佐藤が少し大きな声を出すと中田がビクリとして、ふり向いた。 「何?」 「聞いてねえ~」 「ワリぃ。眠くってさ」と言いつつ、中田は目をこすって大あくび。 「何そんなに眠いのよ。悪いことしてたわね」と佐藤が中田の股間に手を伸ばした。 「やめろ」とつぶやき軽く手をはらうと、中田はまた大きなあくびをした。 ここまで佐藤にノッてやらない中田はめずらしかった。 しかしご機嫌の佐藤はたいして気にしていない。さすがである。 しか~し、全体にウザくだらないな。 まあこのどうでもいい会話も登校時のオレたちのお決まりなのだった。    *   *   * 二学期始まって早一ヶ月半。 うちの学校は文化祭も体育祭もすでに終わってしまった。 なんか行事をギュッとつめこむ学校なんだよね。 「んじゃあ英語の試験範囲言っとくぞ~」 担任の田中の声でハッと我に返る。 おっと。 ホームルーム中だった。 ああ、そうだよ。 今月末には中間テストだよ。 めんどくさ~。 「レッスン5からレッスン7までな。それと、少し先だが十一月に入ってからは進路の個人面談に入る。なんで、現時点での進路希望の調査をする」 『え~』なんて教室が少しザワザワする。 「今週末までに調査票提出。一枚づつ取って後ろに回せ」 まだ二年だぜ。早くね?いや、もう二年か。 中間に進路……。 はあ~。 オレは大きなため息をついた。 受け取った用紙には就職か進学か、進学ならどこの学校なのか第一希望から第三希望まで記入する欄がある。 進路かあ。 どうしたもんかな。 まるっきりのノープラン。 つうかわかんねえよな、そんなのさ。 「はい、じゃあここで恒例の~」 田中が黒板にチョークを走らせた。 始まった。田中の小話コーナー。 英語教師だから英語の事が多いんだけど、めずらしく今回は日本語だった。 『未来は僕らの手の中』 デカデカと大きくそう書かれていた。 「以上」 そう言うと田中は指に着いたチョークの粉をはたいた。 あれ出典と解釈は? いつもなら調べてこいって言うのにさ。 「単純にオレからオマエらへのメッセージだ。出典も解釈もいらない。オマエらが『ああ、田中あん時なんか言ってたな』って思い出してくれればいいな、とは思う」 何?その思わせぶり。逆に気になんじゃん。誰の言葉よ。 『熱血教師~』と誰かの声が飛ぶ。 「おう。薄給の熱血教師だよ。嫁にお小遣い一万円減らされちゃったよ」 『先生かわいそう』『鬼嫁』の声も飛ぶ。 「そう鬼嫁…って人の嫁を鬼呼ばわりするな。母になった女は強しってな……」 ♪キーンコーンカーンコーン ホームルーム終了のベルが鳴った。 「ほーい、じゃあ一限準備~挨拶省略~」と田中が手をひらひら振って出て行った。

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