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第7話

女を相手に筆おろしは済ませたが、男の経験はない。淡水から聞いたいわば耳学問だ。  磯城の体は魅力に溢れ、想像以上に興奮した。これほどまでに欲望を駆り立てるとは……。葛城は、磯城の両足を抱え上げた。  磯城は全てをさらけ出されてしまった己の姿に抗おうとしたが、力で抑えられる。磯城の抗いは、かえって硬質な白磁の双丘を淫らに揺すり、葛城の劣情を誘った。  葛城は自らの下肢をくつろげ、いきり立った若き牡を取り出すと、磯城の秘奥を貫いた。  とっさに磯城は、声を立てずに歯をくいしばった。余りの屈辱に声を出すのも厭わしい。  若い力のまま激しく突き入れてくる葛城に、磯城は耐えるしかできない。葛城は激しい抽挿のあと精を放った。その時磯城は放心状態のままだった。  行為を終えると葛城は対屋を出た。淡水が控えていた。 「叔父上は怒っておられる……」 「それは致し方ありませんなあ……」 「ここを出て橘の宮に戻られるやもしれん、そうなれば、一時的なら良いが二度と戻ってこられんように思うのじゃ」 「私もそう思います。何としても、お引き止めになりませんと」 「どうすると良いか」 「大王様のお力をお借りするのがよろしいかと」  葛城は父の力で磯城を引き止めることにする。必要な時は、それが大王でも助力を乞う。それが葛城だった。  磯城は重い体を起こした。体もだが心の方がより重かった。もう一刻もここに留まりたくなかった。  橘の宮へ帰ろうする磯城に、大王のお召という知らせが入る。大王の顔を見るのも辛かったが無視するわけにはいかない。重い心身を引きずるように参上した。 「おお、すまぬな。どうじゃそなたのための対屋は」 「それですが、やはり私には過ぎたものですので橘の宮に戻りたいと」 「そのようなこと言うではない。東宮も心配しておる。何か不満があるのか? 余に聞かせてはくれぬかの」  磯城は東宮が大王を動かしたことを悟った。大王の力を借りるなど、姑息で卑怯なと怒りを覚える。 「不満などとんでもございません。ただ余りに過分なだけで……」 「ふふっ、そなたは奥ゆかしいの……まあそれがそなたの良いところじゃが」  今日の磯城は心身の重さからくる気怠い雰囲気、常にない影を帯びた表情をしていた。それは隠しようにない色気として放たれていた。  大王は磯城の匂い立つ色気へ吸い込まれるように側により磯城の手を取る。  磯城はびっくとして体を竦ませる。昨晩の行為を思い出し体が震える。そんな磯城に大王は劣情を覚え、磯城の肩を抱き寄せた。  体を固くする磯城が、大王には生娘のようで庇護欲と共に、欲望を刺激する。  昨晩の再現を思い、磯城は危機感を感じるが恐怖で体が動かない。そこへ葛城の声がした。 「父上、叔父上もこちらでしたか」  葛城の声に大王は手を離した。磯城はほっとしたが、登場したのは葛城である。 「今な、八宮を説得しておったところじゃ。そなたからも頼むと良かろう」  少々言い訳がましく大王は言った。 「はい、叔父上には是非このままこちらの宮に留まっていただきたです。大后様からも叔父上が心置きなく過ごせますようにと、何やら品が届いております」  母上にも手を回したのか? 外堀を埋められている感がする。 「おお、大后様の心づくしありがたいではないか。のう、八宮暫く留まってはくれぬか。何ぞあれば余が力になる」  そう言う大王を葛城は一瞥した。この人は吾の者というように。その眼光に大王は我が子といえど怯むものを感じる。同時に葛城の磯城への特別な執着を感じたが、今は磯城に留まってもらうのが得策だと冷徹に判断する。 「どうじゃ、八宮」  再度の問いかけに磯城は応じるよりほかなかった。それが磯城の優しであり、弱さでもあった。また葛城に付け込まれる所以でもあった。

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