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第8話

磯城は対屋で活けられた花を眺めていた。今朝母である大后から届けられた物だ。  母の心遣いがありがたい。可憐な花を眺めていると心が安らぐ。仄かな香りも良いものだ。  あの晩から五日が過ぎたが、この対屋に葛城が来ることはなかった。朝議の場では「叔父上」と敬った態度を崩さない。あの晩のことは、間違いだったと思われたのか? 磯城はあの晩のことを忘れたかった。体は漸く回復した。心も戻したかった。  しかしそれは、葛城の本質を知らない甘い考えだったと、磯城は後に知ることになる。 「叔父上よろしいでしょうか」  磯城は途端暗鬱な気持ちになった。返事も聞かずに葛城は入ってきた。 「何をされていましたか? ああ、きれいな花ですね。しかし、叔父上の方がもっときれいですよ」  その時磯城は、幼い頃の葛城を思い出した。花よりもにさまの方がきれいだと言ったあの頃……可愛かった……なのに今は、何故このような……。  そう思うと、急激な悲しみにとらわれた。涙が溢れそうになるのを必死にこらえた。葛城の前だけでは泣きたくない。  磯城の美しい目に涙を浮かぶの見止めた葛城は、慌てて磯城の側による。 「どうかされました……何か憂い事でも……」  肩を抱こうとした葛城を、振り払い拒絶した。全く白々しい、我が憂い事は全てその方のせいではないか。磯城は立ち上がろうとして葛城に抱きとめられた。全身で抗うものの、やはり力では敵わない。  葛城は抱きしめた磯城の白い項に見ほれた。そこは妖しい色気で満ちていた。吸い付いて貪りつくしたくなる。もともと己より華奢な体だったが、更に細くなったような……。己が守らねばという庇護欲と、全てを牛耳りたい支配欲に強くとらわれる。 「叔父上、いやここでは磯城と呼びましょう。磯城、今日は私を受け入れてもらいますよ。ここも回復なさったでしょう」  そう言って磯城の尻を撫でる。磯城は葛城の腕から逃れようと必死に動いた。葛城はそんな磯城を抑えながら、淡水を呼び入れた。  静かに近づいた淡水に磯城は理解ができない。なぜ、淡水が入ってくる。そんな磯城をよそに、葛城は淡水に視線で命ずる。  淡水が磯城の腕を取り、後ろ手にして縛り始めた。磯城は驚愕し全身で抗う。 「何をするのだ、無礼であろう。東宮、やめさせないかっ」 「私の命令ですよ。本当はこのようなことはしたくないが、仕方ない。磯城が吾が妃との自覚を持ち、私を受け入れるように躾させていただきます。素直に受け入れれば、解いて差し上げますよ」  葛城は、そう言って磯城の額に口付けた。  葛城は、あの晩のことを反省したのではなかったのだ。ただ次の、この機会まで日を置いていただけだったのか……磯城は己の甘さに愕然とした。  声も出ず、ただ自分を見つめる磯城の頬に手を当てて葛城は言う。 「そのように怯えなくても……大切な吾が妃に酷いことをするわけありませんよ。むしろ気持ちよくして差し上げる。磯城が心から私の者になると思えるように……」  そして淡水に手渡された水薬を口に含むと口移しで飲ませた。磯城は抗うものの抑え込まれ半分以上飲まされた。 「ああ、半分ほどこぼれたな、もう一杯飲ませるか?」 「それも見越して多めにありましたからようございます」 「さすが淡水じゃな、ふふっ最初の時もお飲みになった、覚えておられますか? 暫くすると身が熱くなりますよ」  やはり、あの夕餉の折に何ぞ飲まされたのか……酒に混ぜて? 最後に飲んだ水か? しかし、そんなことよりこの事態をどうする? 逃れるすべはあるのか? 磯城は、思いを巡らせながらも、軽い絶望感を抱く。  葛城が磯城の着物を寛げると、磯城の白い体が露わになる。双丘の淡い色づいたそこはまだ尖っていない。そこが慎ましやかで、濃く色づきのを待っているかのようだと葛城は思った。  葛城は、磯城の肩から下へ撫でおろしていく。羞恥のためか、磯城の体が僅かに震える。  葛城は、磯城の下帯を取ると、尻を愛おし気に撫でると、淡水に手渡された丁子油を、磯城の秘奥に塗り込める。  磯城は体をよじって抗うが、全く抵抗にもなっていないことは自分でもわかる。 「ふふっ、こないだは若気の至りで己の欲望を放つことを優先してしまったが、今日は磯城が落ちるまで負けませんよ。覚悟してください。うーんっ……それより早く落ちた方があなたも楽だ。飲んだ薬に、今塗った丁子油も催淫効果がある。抗える人はいないと言いますからね」  葛城の言葉は悪魔のそれに聞こえる。どこまで抗えるか……徐々に体が熱くなるのを自覚していた。そして丁子油を塗られた秘所に疼きも感じはじめていた。

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