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第15話

磯城は、対屋で葛城を迎えた。渡ってくる葛城も、迎える磯城も当たり前のようになっている。そう、ここでは磯城は東宮の後見ではなく、妃なのだ。  常は中にまでは入らない淡水が、中に入り控えているのに、磯城は葛城の最後の言葉を思い出す。償いを淡水に助力させるのか……嫌な予感がする。 「今宵は、先ずはあなたに償いをしてもらう」 「あ、あのそれは本当に申し訳なかったと思っております。どうかお許しくだされ」 「言葉だけではいけません。父上の時は私も見逃したが、それが仇になったやもしれん。吾が妃としての身の程をしっかりとわきまえていただく。淡水」  恐れに身を固くする磯城に、淡水は近づき瞬く間に腕を後ろに縛りあげる。そして、足を広げようとするのにさすがに磯城は抵抗する。 「何をする! 無礼ではないか! よさないか、嫌じゃ、東宮様やめさせてくれ、嫌じゃ」  余りの事に、磯城は必死に縋るように言う。 「私の命令ですよ。抵抗しても無駄じゃ、静かにいたせ。おとなしく躾けられれば、早う許される」  抗う磯城をものともせず、淡水は磯城の足を開いたまま固定する。磯城の体は、全く無防備なまま葛城に晒された状態になる。磯城はあまりの羞恥に打ち震え、身を捩った。そんな磯城を、葛城は冷めた目で見下ろす。葛城は冷静だった。 「あなたは吾が妃、つまりこの体は吾のもの。それをしっかりとこの体に覚えさせる」 「そうでございます、私の体は東宮様あなたのもの。それはわかっています。今日のようなことは二度となきようにいたします。だから、もう許してください」  磯城は、この浅ましい姿から解放されたい一心で必死に言い募る。 「体だけではなく、心も私のものか?」 「そうです……私の身も心も東宮様のもの」  心ごと差し出しても構わない、それほどこの恥ずかしい姿から解放されたかった。 「ふふっ、心はまだ吾に落ちてはおらぬだろう。まあよい、それは追々で……淡水続けろ」  命じられた淡水は、磯城の後ろの蕾に刷毛で薬を塗った。  これまでも媚薬を飲まされ、催淫効果のある丁子油は毎回塗られた。しかしそれは磯城に痛みを与えず、行為をスムーズに行うことが目的だった。  だが今日のこれは、磯城の仕置きのための物。磯城は、すぐに媚薬の効能を知る。秘部にひんやりとした風が吹いたように感じたあと、燃えるような熱さを感じた。そして、内から虫が蠢くような疼きに身もだえた。  磯城の秘奥は、何万匹もの虫に我が物顔で犯されているようで、狂いそうになる。 「ああ、嫌だ、ああーっ……いや……許して……」  磯城は内からの疼きに、熱くなった体を仰け反らせ、頭を振り乱して必死に許しを請う。理性は瞬く間に消え、もうどこにも残っていない。  葛城は磯城の嬌態を、満足げに見つめる。媚薬の効果は想像以上だ。磯城がここまでの嬌態を見せるとは……。  しかしまだ許しを与えるつもりはない。昂る兆しの見える磯城の中心を、淡水に顎で示す。  淡水は、磯城の昂りかけたものの、根元を縛り上げる。磯城は朦朧としながらも、狼狽した声を上げる。 「そんな~いや! やめろっ……ああーっ」  もう何を言っているのかわからない、意味のない言葉を口走り、取り乱す。  今までにない強力な媚薬で、体の内から凌辱され、更には放出も許されずに責められる。これは甘い責め苦を超えた拷問だった。磯城には、甘い地獄か……。  磯城の体の疼きは、甘い痺れとなり脳にまで達する。磯城の頭の中は虚ろになり、息を喘がせ、自由にならない下肢を悶えさせた。  磯城の美しい顔は、桜色に色づき、いつの間にか流された涙で濡れていた。相変わらず意味のない言葉で、泣きながら哀願する。  葛城は涙に泣きぬれた磯城の顔を美しいと思った。この人は、理性を失くした痴態すら美しい。  葛城は、身悶える磯城の嬌態に見惚れる。磯城の動きが少し弱々しいものになる。  さすがに、そろそろ許してやるか、限界はとうに超えていることだろう。 「磯城、妃としての身の程はわきまえたか? 吾が妃として身を慎むのだ。男は勿論のこと、女にもだ。そなたに触れてよいのは吾だけだ」  磯城は、葛城に縋りつき頷いた。許されるなら、何でも言うことを聞く……それくらい必死だった。  今の磯城には、この責め苦から解放されることしか頭にない。 「わかった……ゆ……ゆ、ゆるして……っもう、たすけて……」  泣きぬれた顔で哀願する磯城は、哀れで美しい。そして、葛城の劣情を強烈に刺激する。葛城は更に畳みかけて問う。 「今日のようなことは二度とないように、よいな。万が一にもあればこれくらいの仕置きでは許さぬぞ、どうじゃ?」  深くうなずいた磯城を、葛城は漸く許した。  磯城の拘束は解かれ、せき止められた放出を許された。漸く訪れたその瞬間、磯城は官能の絶頂を味わい恍惚となる。  そして、二度目の官能は葛城の昂ぶりの侵入によって満たされる。媚薬に疼いた磯城の蕾の内部は、葛城の滾った牡によって激しく突き上げられ、磯城を二度目の絶頂に導いた。  磯城は官能の高みに上り詰めた瞬間、喘ぎと言うよりも悲鳴のような声を上げ自失した。葛城も同時に磯城の中に若い牡の精を放出した。 意識を取り戻した磯城は、自分を見下ろす葛城と目が合う。慌てて身を起そうとして止められた。 「よい……そのままで」  優しく言った葛城に幾分安堵するものの、今の状況を探る。寝着も着ているし、体もきれいなようだが、淡水が始末したのかと思うと嫌悪感がわく。  磯城は淡水が疎ましい。命ぜられてのこととはいえ、淡水にされたこととして、磯城の体は覚えている。  あの躾と称した様々な行為が、磯城の脳裏に蘇る。自分の痴態も全てではないにせよ覚えているのが忌々しかった。  磯城は、記憶を消したいと思った。それは無理であろうが、せめて葛城から身を隠したいと、気怠さの残る体を動かし横を向いた。そんな磯城の背中を、葛城は優しく撫でる。 「体が辛いであろう、今はそのままゆっくり休まれよ」  そう言う葛城の声は優しい。自分を躾けると言った声音とは別人のようだと磯城は思った。  どちらが本当の葛城なのか……いや、どちらもこの人の本質なのかもしれない。  この葛城の側で、自分は生きていけるのだろうか? 自問するものの、わからない。  限界を超えるまで責められた体は、脳も疲れ切っているのか考えることを拒否した。磯城は再び眠りに落ちた。

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