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第3話 多分自己紹介よりも前にやることがある

(つうかデカすぎじゃね?何なんだ?ここ)  抵抗のために打ち上げられた魚よろしく暴れまわってたが、一周回って冷静になってきた。 この屋敷、長い廊下曲がったかと思ったらまた長い廊下が広がってんだよ。途中チラッと階段なんかも見えたけど本当に一瞬過ぎて上がどうなってのんかまではわからなかった。  中庭っぽいところから見えた空は真っ暗だ。え、これ夜か? 「こら、あんま首伸ばすと落ちるぞ」 「ここどこなんだ?俺の知る限り学校の近所とかにこんなデッカい屋敷なんて…」 「位置把握して逃げようってか。狙いは良いが、連れて来た相手に聞くようじゃ賢いとは言えねぇな」 「いやもう純粋に疑問なんだけど」 「……ま、泣き叫ばれるよかマシか」  泣き叫ばなっきゃいけないような立地なのかここ。怖くなってきてまたちょっと暴れたら肩に担ぎ直された。ぐぇ。腹が圧迫される。さっきの抱っこのがマシだった! 「ほら、シャキッとしろ。そろそろ着くぞ」 「え、何これどこに向かってんの?それに俺まだ全身に力が入らな、おい!やめろ尻叩くな!」 「へぇ、感触は残ってるのか」 「撫でるな!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「じゃあ揉んどくか」 「せ、セクハラで訴えるぞ!」 「おや、どうしたんですか梅漸そんなところで」 「ヒェッ」  屋敷中歩き回ってたのに誰からも声かけられなかったから、完全に油断してた。 尻を指で突かれてるの見られた…!!! 顔にぶわっと血が集まるのを感じる。見られる位置じゃなくて良かった。 あ、良くねぇ真正面から俺の尻見られてるってことじゃん! 「そちらの柔らかそうなお尻は一体どちら様で?」  笑いを含んだ声に素性を聞かれてしまった。わけもなく顔を隠そうとして、腕が上がらない現実に打ちひしがれる。さっきはちょっと動いたのに。 「ちょうど良い。お前にコイツの世話を頼もうと思っていたとこだ」 「私も一応客人という扱いのはずなのですがね」 「俺が外すときだけで良い」 「では貸し一つ、ということで」 「好きにしろ」 「いやいやいやいや好きにされたら困るんだけど。世話って?世話って何?」 「部屋はここだ。自由に使え」 「聞いてる??」  和室だ。なんて思ってたら座椅子に腰かけた釘バットの膝に下ろされた。 「なんで膝」 「お前一人で座らせたらひっくり返るだろ」 「それは確かに」 「やっとお顔が見れましたね。…未成年では?」 「あ、高校生です」 「誘拐とは。全く感心しませんね」 「え、なんでわかるの」 「本当に攫ってきたんですか?」  冗談だったんだ。 スッと目を細めた和服のお兄さんが俺の後ろを軽蔑の目で見ている。そうだそうだ。家に帰せって言ってやれ。 「ま、こちらとは関係のないことですから、ひとまず自己紹介といきましょうか」 「違う。犯罪を諫めた方が良いと思う。家に帰すべきって」 「傳庵鷲(でんあんじゅ)、と申します。どうぞ気軽にアンジュとお呼びください」 「よろしくお願いしますアンジュさん、時々聴力なくなるのはどうしてなんですか」 「敢えて、ですかね」 「俺の名前はもう覚えたよな?ほら呼んでみろ。梅漸。梅漸だぞ」 「釘バッ」 「うん?」 「うぁいえん」  釘バットって言おうとしたらほっぺ片手でぎゅむってされた。怖いからもう梅漸って呼ぶしかなくなった。退路絶たれた。こんなんもう知り合いじゃん。 「お名前何度も聞きそびれておりますので、そろそろお聞かせいただいても?」  アンジュは、さっき集まっていた人たちや梅漸に比べると纏う雰囲気は穏やかで、風貌は爽やかだ。整った顔立ちで仕草は優雅。なのになんでかこんな場面で浮かぶ笑顔には威圧感がある。 敬語のおかげで柔らかな印象になっているが、声は力強いし口調は何となく有無を言わせないものがある。梅漸とは違った怖さがあった。 「神崎、神崎武彦、って言う。ます」 「神崎…?」  目をわずかに瞠ってアンジュが梅漸を見た。そして小さく「なるほど」と零す。 何も納得ポイントがわからない。 でもまっすぐ目を見つめられて、思わず視線を外した。冷汗がジットリと滲んでくるのがわかる。 「灰蛮曰く、コイツは親友らしい」 「それで私、ですか」 「あの野郎が連れ戻そうとしたら全力で守れ」 「いいでしょう」 「貸しは無しだな」 「そうですね。むしろこちらからは感謝を申し上げるべきでしょうか」  あれもしかして俺真城の借金のカタになったから見張り役としてこの二人がついたのか?方々に借金をしたせいで?関われたことを感謝されるほどの??? 固まる俺を見て笑うアンジュにちょっと背筋がゾッとした。相当恨みを買っているのでは? 「では私は夕餉の用意をさせてきますので」  アンジュが部屋を出て安堵に息を零す。突然俺から金をむしり取る姿勢とかになられなくて良かった。 「具合はどうだ」 「指がちょっと動くようになってきた。俺、どうしちゃったんだ?」 「強い疲労状態ってとこだな。心配なら常駐してる医師がいるが、診てもらうか?」 「屋敷に常駐する医師って何」 「これの為せる業だな」 「結局金か~!世の中~~~!!」  目の前で人差し指と親指で作られた輪っかが揺れる。桁違いのお金持ちが真城に一体いくら貸したんだか、聞くのが怖い。 「てかこれどうすんだよトイレとか風呂とか」 「連れって行ってやるが」 「え、ついてくんの」 「尿瓶が良いってんなら用意させるぞ」 「いやそこまでは」 「今行くか?」 「正直ものすごく我慢してる」 「馬鹿、早く言え」  いやありがたいんだけどひょいって持ち上げるのやめてもらっああ!!お前!これお姫様抱っこじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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