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第4話 こんなの聞いてない※
「ほら、ここだ」
引き戸の扉で身構えたが、中は馴染みある洋式トイレだった。さっきまで居た部屋、というかこのお屋敷自体がどう見ても和風建築だからトイレも和式だったらどうしようって若干ビビってたんだよね。
ちゃんと流すレバーついてるから水洗式だ。良かったー、和式もボットンも聞いたことあるけど見たことはほとんどないんだよな。
「よし案内してくれてありがとう、外で待ってて…いやいやいやいやなんで一緒に入ってんの?」
梅漸の腕から降りようとしたけどそのままトイレに入られた。傾斜があるのか扉がスイーって勝手に閉まって、それを見届けた梅漸が鍵をかける。引き戸の扉の鍵ってそうなってるんだ。
じゃなくて。
「え、え、なんで?」
トイレの壁には小窓すらなくて、脱出はまず不可能だ。監視キツくない?俺もしかして便器から流されてそのまま出ていくと思われてる??
「お、俺逃げないから出てって」
「お前もう自力で立てるのか?」
「え?」
梅漸がゆっくり下ろしてくれたんだが、足に全く力が入らない。支えてくれてなかったら今頃床に倒れこんでたはずだ。てか広くね?このトイレ。
「膝に力が全く入らん」
「ガックガクだな」
「立てない」
「あとさっき座れなかったろ、自力で」
「終わりだ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「勝手に終わるな、後ろから支えててやっからさっさとしろ」
「ヒェッ」
一切の躊躇なく腹を出された、ああ、うん、俺の取り出すのにシャツ邪魔だよなわかる。じゃなくて、じんわりと俺の目に涙が溜まる。
訴えかけるように梅漸を見上げる。くそ、身長高いから首の角度エゲツないぞ今。
「腹薄くねぇか?ちゃんと食ってんのか」
「育ち盛りの俺にそんなこと言っちゃう?」
「いや腰が細ぇ」
「そんなことより他、他になんか手ないの」
「誰か連れて来いってことか?」
「バッカ違う!一人でしたいの!!」
「動けるようになるまでまだ時間かかるだろ。諦めろ」
俺を支えながら器用にチャックを下ろしていく。いや待って俺今手も使えないんだけどまさか、まさかだよな。
「ひっ」
下着をかき分けて指が、指が!!
ひやりと冷たいのが触ったのがわかる。布が擦れる音が妙に大きく聞こえて、俺の心臓が激しく鳴り出した。
すぅ、と外の空気に晒されて完全にお出しされたのがわかる。
「わ、わ、わ」
「わかったわかった。少し静かにしてろ」
「だ、俺、俺っ」
「触られるのは初めてか?」
「ウェッ、えっいや?そそそそそんなことないですし!?」
「初めてなんだな?」
妙に確信した風に言って、耳に何かが触れた。ちゅって言った。
密着してるせいで梅漸の吐息もよく聞こえるっていうか今すごい耳元に居なかった?え?何?今何起きてる?
「限界だろ?」
囁かれて肩が跳ねそうになった。実際俺の体は何故か今動かないから硬直しただけで終わったけど。
で、顔に熱が集中する。恥ずかしいなんてもんじゃない。
だって俺見栄張ったけど人にこんなとこ触られるの初めてで、初めてなのに。
(全部真城のせいだぁぁぁぁあぁあぁぁ)
エロいこと考えればちょっとはもつって誰かが言ってたけど、ふるふる震えるだけでもうすぐにでも出そうだ。
我慢してるのを察して、梅漸がまた低い声で囁く。
「出せ」
ゾクゾクと何かが背中を走った。目から涙がぽろぽろ零れて、その瞬間梅漸の手が俺の下腹部を強く押す。反対の手に優しく擦り上げられたらもう限界だった。
「良い子だな、武彦」
俺が放心してる間に下着は直されてズボンもシャツも元通り。梅漸も俺を支えたまま手を洗うなんていう芸当を見せた。ていうか俺の脇の下から腕出してただけなんだけど。
「またしたくなったら言えよ」
と目元を撫でるように涙を拭いてまた抱っこされた。
それでその、結局俺はどのくらいかわからないけど長いこと体に力が入らないままで。
何度も俺を世話しなくちゃいけない梅漸にちょっと同情した。だってほら、な、アレ触んないといけないし。俺だったら初めて会った奴の握るのなんて無理だし。
は?握ってるけど?握れますけど?
梅漸の手が俺よりだいぶデカいけど握れる大きさですけど?は??小さいから摘ままれてるとかじゃないですけど??は???
「俺の片手で隠せるな」じゃねぇよ!!バーカ!バーーーカ!!
「なんで見るんだよ!」
「へぇ、見て良いのか?」
「言ってねぇーーーーーそんなことするな!」
「安心しろ、全体を撫でて把握しただけで見ちゃいない」
「なんで全体を撫でる必要があったのか」
「先がどの辺りかわかんねぇと出させるときに思わぬ方向に行くだろ」
「いやまぁそう…そうか」
「一々赤くなんな。変なことしてる気分になんだろ」
「変なことにはなってんの!!もうこの状況自体が!」
「怒るな怒るな」
それとも便座に座らせて俺が前から体を支えるか?なんて聞かれたがんなもん却下だ。尻まで出るだろうが。
「じゃあまあ俺がしてるときは目瞑っててくれてるんだな。良かった」
「……」
「目瞑っててくれてるんだよな?!」
「お前の顔を見てる」
「ど う し て」
ぐでんぐでんの全身を揺らして抗議したら今度はちゃんと違うところ見るか目瞑ってくれるってことで決着した。
でもこの時点ではまだちょっと付き合わせて悪いなーみたいな罪悪感があったりもして。
基本的に支えてもらわないといけないことに若干居た堪れなさを感じていたんだが。
それも風呂に入れられるまでの話だった。
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