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第6話 捕まえた※

 浴室の中、か細く上ずったような声だけが響く。息が上がりやや掠れたその声は、しかし苦しそうには聞こえない。 「ふ、はっ…ぅ…」  吐息交じりに漏れるそれに知らず口元が緩む。最初の、形だけの抵抗はどこへやら目がとろりと垂れもっと先をねだる様に腰をくねらせる。 まだ全身が己の支配下に戻って来たこと自体、気が付いていないようだった。足先の指は丸まり時折跳ねるように動いている。  男の相手をするのは初めてだ。けれどどうすれば気持ちが良いかはよく知っている。 がくがくと体を震わせ次から次へと極まった証を溢れさせる姿は言い知れぬ優越感を与えた。滴るそれを武彦に悟られることなく掬い取り、舐め取る。 (苦い)  しかし悪くない。 足の間をつたって床に流れてしまうのがもったいないくらいだ。  つい弄びすぎて武彦の全身から力が抜け、胸にもたれ掛かって来た。先程までの荒さは鳴りを潜め、一転穏やかな寝息にそういえば手加減してやるのを忘れていたとやや反省する。  顔を真っ赤にして、訴えかけるように見上げて来た顔も。欲に濡れた顔も。恥じらいが耳どころか首まで染める様も何もかもが深く刻まれた。 「可愛いな、お前は」  死ぬ物狂いで地位を上げ続けた甲斐があった。この権利は誰にも渡さない。誰にも譲らない。…大恩のある親父にすらも。 「可愛いな、武彦」  そう言えている内は、まだ良いのだ。  ざっと全身を洗い流してやりタオルで拭っていく。流す前に苦いままの太ももに嚙みついてやったが、さて気が付くかどうか。 そのまま小ぶりな中心に吸い付き、赤い痕も残してやった。武彦にも見えない裏の部分。名残惜しく口付けた後ひと舐めしてやれば気持ちよさそうに震えていたが、これ以上は風邪を引くだろうと先端を軽く指で突くだけに留めた。  下着を履かせ、寝間着を着せてやる。隠れていく肌が惜しいような気もしたが、どうせ毎日ここへ来るのだ。首に口付けてから浴室へ戻る。  さすがに足の間を膨らせたまま武彦を運んでいるのが見咎められればあっという間に取り上げられるだろう。隠されて、二度と会わせてはもらえないかもしれない。 我ながらよくぞ耐えたものだと撫ぜる。桶の中に出させたものを指に纏わせ自分を慰めた。  入りたいと訴える本能を力でねじ伏せる。あの腹に、あの腰に、あの柔らかい間を押し開いて奥まで届けば、一体どんな風にこちらを見るだろう。 「っは」  思わず笑い飛ばし、足りないと震える腰を叱咤し立ち上がる。まだ収まりはつかないがアレを取り上げられると思えば我慢も出来る。 匂いが残らぬよう全身を流した後、脱衣所に眠る武彦の元へいち早く戻った。  無防備に横たわる姿を目にした瞬間、知らず唇を舐めていた。まだ武彦の味が残っている。 全く、常にある表情の幼さを感じさせないたまらない色気だった。 肌の感触など、瞬く間に掌に戻ってくる。  大切に、これ以上なく大切に武彦を腕の中に囲う。 抱き上げたこの高揚を何としよう。もっと順序を上手く踏めば形を覚えさせることも出来るだろうが、今すぐにでも押し倒したい気持ちをどう制御したものか。  首に吐息がかかるように頭を肩に乗せ、形の良い後頭部を撫でる。添い寝くらいなら許されるだろう。 いそいそと廊下を進む俺を見て何人かの部下が青ざめ悲鳴を上げていた。 「戻ったぞ」  武彦を起こさないように襖を足で開けると案の定アンジュが座っていた。食器は全て下げられ、布団が敷かれている。 サッと武彦を横たわらせ、掛け布団を肩まで上げてやった。 「遅かったですね」 「何せ二人分の時間がかかったからな」 「それを考慮しても、です」 「悪かったな。次はもっと簡単に、いや、やめておこう」 「それより、武彦のことを怖がらせることに何の意味が?そうしていれば威圧感もないでしょうに」 「あれだけ脅せば普通の人間は関わってこないだろう」 「そう上手く行きますかねぇ」  どこぞのチンピラかというような喋りも表情もなくなり、先ほどまでの演技をすっぱりと辞める。多少怯えるかと思ったが、武彦は慣れたのかあまり遊び甲斐のない反応になってしまった。 「ところで、こんなものがあるんですが」  アンジュの手元には写真が数枚。その全てに武彦が写っていた。 「この部屋に限ってですが、隠し撮りの許可が下りましてね。梵漸の頭が監修なのでマズいものは混じらないですが、おひとついかがです?」 「大丈夫なのかあの人は。そんなことをしたら武彦に嫌われ」 「おっとこんなところに良い具合に撮れたアナタと武彦の写真が」 「廊下ぐらいまでなら範囲を広げても良いんじゃないか」 「後ほど梵漸の頭に掛け合いましょう」  奪うように写真を受け取る。むくれた顔の武彦をからかっているときのものだ。 睨んでいるつもりらしい顔ですらこの愛嬌。よくぞ今まで無事に暮らしてきた。 「家宝」 「ちなみに有料です」 「いくらだ」 「数とサイズに寄りますかね。たくさん刷ったんですよ。引き延ばしに、ああ、今後は季節ごとにポスターなんかも扱う予定です」 「天才か?」 「よく言われます。売上げは借金返済に充てられるので武彦から感謝されることもあるでしょう、ええ」 「神」 「よく言われます」  なおデータは悪用が考えられるため取り扱い厳禁だと説明を受けた。持っていて良いのは親父…梵漸のみ。 「写真集が出せるくらいを目指しましょう。毎日それとなく良いものを着せて」 「予約」 「アナタ時々馬鹿になりますね。何ですかその手は」 「五冊で足りるだろうか」 「知りませんよ」

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