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第11話 そしてスマホを手に入れた
「梵の頭!灰蛮の野郎がどうやったんだか屋敷の中に!」
「今目の前に居る」
「…何してるんですか奴は」
「さぁな」
こんな変態と同じ空間には居させられない、一刻も早く脱出をと息巻く真城にまずは事情を説明することにした。
「助けに来てくれたんだよな?」
「それはもちろん」
「ありがとうな、でも大丈夫だ」
「大丈夫って何だよ、現に無理矢理この屋敷に引き込まれたんだろ?」
「俺、養子縁組したんだ」
「ヨウシエングミ」
「そう。養子縁組。この人は義父になる」
「ちちになる」
「だから俺今日から、いや昨日から?ここに住むんだ」
「ココニスム」
なんかずっとオウム返しなんだけど大丈夫だよな。梵漸の親父の膝から降りて目の前に正座した俺に併せて真城も正座したが、目がどんどん虚ろになって来た。
「ついでに転校も決まった」
「テンコウ、キマッタ?」
「そ。今まで仲良くしてくれてありがとな」
「テンコウキマッタ!?????!??」
「だからそう言ってるだろ」
全身から力が抜けたようになって真城が横に倒れた。すごい勢いだったぞ今。びたーんってなってた。
「洗脳、洗脳かこれ」「なんだこの…寝取り?」とか目を見開いたまま遠くを見てブツブツ喋り続けていて若干引く。
「えーとまぁそういうわけだから、心配しなくても何の問題もない」
「問題しかないだろ!?お前俺のっていうか俺の家の借金のカタにされてるってこと忘れてね?!」
「あ、うん確かにそうだった」
「ほらな!全く俺が居ないとダメなんだから」
「お前が居たからダメになったんだろカタという意味では」
良い感じに丸め込もうとするな。額にチョップ入れてやったら嬉しそうにぐへへへって笑い出した。こいつちょいちょい変な笑い方するんだよな。おかげで金欠の奴の他、残念イケメン、勿体ないイケメンと呼ばれている。
「よしわかった」
「良かった俺の話理解出来たんだな?」
「俺もここに住む。一緒に学校にも通う」
「なんて??」
すいん、と回復した真城はキリッとした表情を浮かべたかと思うと次の瞬間には机の前に居た。時々アイツが怖い。話全然通じない時ある。
日本語喋ってるのにちゃんと日本語喋れってなる。当然梵漸の親父も報告のために走って来ただろうスーツの人もすっごい微妙な顔だ。
「居候の代金はこれです」
「なんぞこれは」
「武彦の学校での写真です。現像してるのは今これだけですが通年通して今なら大特価俺を居候させれば全部乗せ!」
「買った」
「毎度アリィ!!」
ヒェ、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど俺の写真ってなんだ。
慌てて机に寄れば制服着てご飯食べてる俺が写っていた。いやなんでこれ撮ったし。なんで現像までしてるんだこいつ。「これでずっと一緒だな」ではなくてですね。
「あー、武彦。コイツの家の借金だが、そこかしこに借りてたんを一本化してここが持っとる。それで、だ。お前が三つの頃まで孫のように可愛がってた爺連中がどうしてもっつって聞かなんだ」
「嫌な予感がする」
「お前の成長記録として写真が欲しいっちゅうんじゃ。仕方なしにな、その売り上げを借金の返済として計上しちょる」
「もう既に売られてるんだけど」
「いやぁ、新作はありがてぇな。爺共もしばらくは静かになる」
「商売されてるんだけど!俺の肖像権は?!」
「屋敷からの持ち出しはデータであっても不可能じゃ。冥途の土産くらい許したったらええ」「勝手に殺さないであげて欲しい」
肖像権はぐらかされたけどまぁ…借金が減るなら良い…良いのか…?
「ちなみにおめぇにかかる費用は養育費っちゅー区分じゃ。借金として上乗せはせんから安心せぇ」
「良かった~!」
「生活費諸々、学費も俺が出す。未成年の内はバイトせんでもええ。そのつもりでな」
「ダメ人間になりそう」
「そうなっても墓場まで面倒見たらぁ。そろそろ出かけねぇと日が暮れるぞ」
「あ、そうだ携帯買いに行くんだった」
「マジ!?良かったじゃんタケ。ずっと欲しがってたもんなスマホ」
買い出しについて来る気満々だった真城だったが、居候することになったので荷物の移動をしろとか転校の手続きが先だとか梵漸の親父に正論で抑えつけられていた。
うーん、俺はほぼ身一つでも動けるけど真城はそうじゃないからもっと時間かかるんだろうな。
「じゃあまた後でな」
「タケ~!」
「…灰蛮の野郎何してるんだ」
「あ、おかえり梅漸。真城今日からここに居候するんだってさ」
「は?」
困惑してる梅漸に連れられ、アンジュとも合流して街に出ることにした。なんか屋敷を出て庭っぽいところに来たのに、その先にまた屋敷がある。
「うぇ、なんか今ぐにゃんてなった」
「まぁ最初はそうでしょうがそのうち慣れますよ」
「え、何、なんで?」
意味深に微笑まれたけどもしかして説明するの面倒なだけだったりする?わけもわからないまま屋敷を通って、それから車に乗った。
「本当なら今日は武彦の転校予定先を見学してぜひ了承を取り付けようって話だったんですが、あっさり決めたみたいですね。良かったんですか?」
「うん。別に自分が決めた場所じゃないから特に愛着とかなくて」
「そうですか。ではまず携帯契約しに行きましょうね、連絡が取れないと不便ですから」
車の運転は最初運転手呼ぶって話だったんだけど、俺がリラックス出来た方が良いよねってなって梅漸がやってる。
助手席にはアンジュが座って、俺は後部座席を広々一人占めだ。
「機種はここの最新ので良いだろ」
「保護フィルム入れておきますね」
「イヤホンもいるだろ」
「モバイルバッテリーもいりますね」
「カバーはどうする?」
「あぇ、その、梅漸と同じ手帳みたいなやつ。あればだけど」
「これか。なかったら取り寄せる」
ショップに着くや否やどこかから持ってきたカゴに商品をぽいぽい入れ出して、番号が呼ばれたら俺も一応席には着いたけど全然わからなかったから隣に座ってたアンジュにプランとか丸投げした。梅漸はスマホ用のカバー確認したりとか他にもなんか色々買ってた。
来たついでになんか買ったのかなー程度に思ってたら、全部俺のやつらしい。
総額いくらかかったのか俺が戦々恐々としながら聞いたけどどっちもレシート見せてくれなくて全然わからなかった。
その後も市役所だか区役所だかに手続きがどうしたとか色々やって、俺はもう必要なときに学生証出したりしまったりを繰り返す装置と化していた。
急遽予定が変更した割に段取りがしっかりと整っていて無駄がない。これが社会人ってやつか。
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