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第12話 レシートだけください

「初めての着物はどうだ」 「歩幅が狭いから最初はちょっと動きづらかったけど、慣れたかな」 「部屋着に甚平でも買いますか」 「普段は何着てるんだ」 「ジャージ。夏は体操服」 「まさかそれだけってことは」  俺が何も答えないでいるとそれだけで察した二人が次の行き先を決める。 結論から言えば、一件だけでは終わらなかった。 「部屋着用に甚平、それから寝間着用に一応普通のパジャマと普段着用にあれやこれやと、ああ、靴下と下着と」 「帽子も買っておくか。夏なんかは日差しが強いからな」 「良いですね。雨用の傘も要りますか」 「今使ってるのが客間用だから武彦用の布団が必要だな」 「枕は特注しましょう。ああ、それから鞄は一応学校指定のものがありますので制服と一緒に手配しておきました」 「エッアッアッ」 「武彦用の食器も買いに行くか。箸とコップと、予備の歯ブラシだな」 「湯呑みがあっても良いかもしれませんね」 「それから箸置きだな。歯磨き粉は昨日貸したので良いか?」 「エッ良いけど」 「学生なので勉強机も要りますね。スタンドライトと椅子と」 「本棚もだな。教科書でも入れておけ」 「エッエッ」  服は俺の好みも聞き取りしつつ梅漸もアンジュも俺が一度も着たことないようなブランド物を何着も、何店舗もはしごして試着させては購入を繰り返した。マジでいくらしたのか考えるのが怖い。 アクセサリー類は学生時代は悪目立ちするのと、自分が興味を持ててからで良いからとやんわり断ったものの財布とか色々渡された。逃げ切れなかった。  衣類が大量になり過ぎてどこかへ連絡していたし、呼び出したであろう人が何度も紙袋を回収して別の車に消えていく。いつの間にか俺たちの乗ってる車と、買った物を運ぶ車で分かれたみたいだ。  この爆買いというか散財というか、俺は毎年細々と必要なものをギリギリまで使い潰してからやっと百均とかに行く人間だからもう途中から別世界過ぎた。手加減をしろ。 「日も暮れて来たし最後に買い食いの作法を教えて締めにするか」 「買い食いの作法?」  なんかまたとんでもないところに連れて行かれたらどうしようとびくびくしていたら、意外にも商店街にたどり着いた。 今はシャッター商店街なんて言って全然活気がないところが多いなんて聞くけど、ここは人が多いような気がする。確かに数件シャッターは閉まっているけど、気になる程閑散としているわけではない。 「商店街なら武彦も気軽に買い食い出来るだろ」 「それは確かに」 「ほら、あそこだ」 「!コロッケって書いてある」 「ちなみにメンチカツも美味い」 「うわぁー!」  出来立てのコロッケとメンチカツがちょうど揚がっていた。なんでもこの時間は帰りの学生が多くて、その人たちがよく買って行くみたいだ。 「じゃあ二人はこちらで楽しんでいてください。私は一つ買い忘れがあったので戻ります」 「え、別に良いんじゃ」 「いえ、絶対必要です」  強く言い切るとアンジュが足早に去って行った。結構色々買ってたし今更必要なものなんて思いつかないけどな。 「コロッケとメンチカツ一つずつ買って来た」 「買い食いの作法って何?」 「ま、所謂半分こってやつだな」 「半分こ」 「そっちコロッケだ。半分に割っとけ」  そんなことを言いながら梅漸がメンチカツを半分に割った。割れると中の具がぎっしりなのが見えて、思わずわぁと声が上がる。 「出来立てだとさすがに熱いな」 「ちょっと歩きながら冷まそう。あち、あち、美味っ」 「冷ますんじゃなかったのか」  笑いながら梅漸もあちあちのメンチカツを一口食べる。昨日見た感じ一口がものすごくデカいのに、熱いのがわかってるから控えめだ。 「ほら、お前の分」 「早」 「食べ終わるまで持っててやるか。お、あっちで飲み物売ってるぞ」 「買おう!」  果物屋が出してるジュースを買って、少し熱くなった掌がひんやりと冷たくなる。 「っはぁー、美味っ」 「なんかビール飲んでるサラリーマンみたいだな」 「これ本当に美味しいんだって」 「俺のも飲んでみるか?」 「え、良いの!?」  少し冷ましたコロッケを半分食べきって、残りを梅漸に渡す。メンチカツも美味しくて、俺は大満足だった。 「でもなんでこれが買い食いの作法なんだ?」 「半分にして分け合ったら二種類食べても一個分だろ?これくらいなら間食として問題ない量だから晩御飯も残さず食べられる、怒られないっていう作法だ」  晩御飯を作る、または一緒に食べる相手に対する作法らしい。生まれて初めての買い食いだから、確かにそう言われなかったら晩御飯のことも考えずに食べまくってたかも。 「今回は俺と武彦で半分にして分け合ったが、これは相手を選ぶ。こういうのがそもそも嫌だっていう人間も居るからな」 「なるほど」 「そもそもコロッケとメンチカツで商品の代金が違うって揉めたりとかな」 「ごち」 「そのつもりだったけどな。っは、急にふてぶてしい奴」  笑いながら頭をくしゃくしゃにされたが悪い気はしない。というか俺の財布、渡された後中身を移したらすぐに回収されたから手持ちが何もないのだ。 俺も腹を括って今回は奢られようと決めた。いつか二人に倍にして返そう。まず総額を聞き出すところからだけど。

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