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第15話 害はないって何基準で?

 朝食をサクッと済ませて車に乗ると、今日は最初から荷物運搬用の大きめな車が後ろにぴったり付いて来た。うん、もう何も言うまい。 「そういえば俺たちがコロッケ食べてる間アンジュ何買ってたの?絶対必要ってやつ」 「武彦には伝え損ねましたね。ミニ冷蔵庫を購入したんです」 「ミニ冷蔵庫?厨房におっきいの二個くらいあったけど」 「あそこに入れておくと誰が食べた飲んだと揉めるからな。各々自分用の冷蔵庫を部屋に置いておくのが暗黙の了解だ」 「本来貴方が気付くべきだったんですがね」 「当たり前過ぎて頭から抜けていた」  他の家具を配置した後部屋に持って来てくれるらしい。ただ、ミニ冷蔵庫の名の通り冷蔵室のみで冷凍室はないから注意して欲しい、とのこと。 「特に拘らないよ。風呂上がりにキンキンに冷えたジュース飲む、とかならちょっと興味あるけど」 「ジュース」 「かわ」 「え、何」  大きめの冷蔵庫を買うか真顔で相談しだした二人を制してなんとかなだめる。コイツらお金使い過ぎじゃないか?金銭感覚の差が相変わらず怖い。  家具は何年も使うものだから、と二人は服以上に妥協がなかった。当たり前の顔で何店舗もはしごしたし、机の高さとか椅子の高さとか座り心地とかを見るために立ったり座ったりを何度も繰り返してもうほぼ屈伸運動をするマシーンと化した俺。この二人と居るともう何においてもなすがままだ。 「店員さん多くない」 「気のせいでは?」 「これの黒あるか」 「持って参ります」  太客だと思われてるぞ絶対。さっきから値段も見ないで色々買ってるもんな。予定してなかったものまで買ってるもんな。総額いくらなんだ?俺は毎日こればっかりを気にしてるぞ。もう少し小市民に合わせた買い物をして欲しい。  なんか担当者みたいな人が二人もついてるし。こういうご案内って普通一人なのでは?  結局クッションとか今必要か?ってものもご購入決定で全商品宅配を手配。あれ、荷物運搬用の車の出番は?と思ったけどほぼほぼ弾丸スクワット状態だった俺はぐったりと展示用のソファに身を任せることしか出来なかった。 「よく考えたら俺インテリアコーディネートなんて出来ない。あの洒落た空間に似合う家具なんて俺のセンスでは無理だ全部任せる」 「さすがに疲れましたか?」 「張り切り過ぎたな」 「張り切ってんのはそっちな!」  ドデカ空間だからソファとかも買うってさ。もー好きにしてくれー。 ぐでんぐでんになってる俺のポケットの中ではさっきからずっとスマホがバイブしていて、店員さんも音に気が付いてチラチラこっちを見ている。  違うんだよこれずっと真城が鳴らしてるんだよ。俺連絡先交換した記憶ないんだけど? 表示されたのが登録してない電話番号だったのについうっかり反射で出たら真城だったし、その事実が怖かったからすぐに切ってずっと無視してる。俺悪くない。 「ほらシャキッとしろ、帰りにアイス食べような」 「あれな、バニラとチョコのやつな」  ジェラートって言われるとビビるけどアイスクリームなら秒で飛びつくお年頃な俺。まぁ今日食べるのはソフトクリームだけど。 「箱アイス買って冷凍室入れてもらいましょうか」 「えっ食べられちゃうんじゃないの」 「武彦って大きく名前書いてみろ。手出せるのは梵の親父くらいだ」 「守り切れてなくない?」 「梵漸のお頭用に別のアイスを買ってお名前を書いてみては?」 「それだっ!」  プレゼントを用意すれば俺の方まで食べられない!逆転の発想! 「そこまで梵の親父も食い意地張っちゃいないが…まぁ、聞いてないよな」 「なんか和風な感じにしよう!わらびもちとか!」 「良いですね、あずきなんかもお好きかもしれませんよ」 「おおー!抹茶味は意見分かれるからなぁ…梵漸の親父が苦手だったら困るから避けよう」 「何種類買う気だ」 「溶けないうちに早く帰ろう!」  運搬用の車は大活躍だった、とだけ言っておく。 「…そうだ、ずっと聞こうと思って忘れてたんだけどさ、二人とも仕事は?」 「有給消化中です」 「同じく」 「あ、あのさ、梵漸の親父はこう、なんていうか、反…社会的な感じではないんだよな?」 「なんだ、そんなこと気にしてたのか」 「いや気にするだろ一番大事だわ」 「心配しなくても俺たちは普通の会社員だ。もちろん梵の親父も含め全員身分の保証が出来る」 「じゃあなんであんなにその…厳つい感じに仕上がったの」 「その方が得だからですよ。勝手に相手方が納得して、無用な詮索をされずに済みますからね」  異能関連で隠したいことがたくさんあるから、相手が勘違いしても特に否定せず乗っかるらしい。 更に言うと正式な手続きを踏んだり或いは強行して押し入ろうとしても表向き用の屋敷にしか入れず、異界に属する巨大な屋敷にはたどり着けない。  そういえば外に出るとき庭っぽいところを抜けてからもう一つの屋敷を経由してたな。ぐにゃんとしたのも異界と現世の境界を越えたからで、異能持ちじゃないと行き来出来ないんだとか。 だからつまりなんというか、俺にも“異能”と呼ばれる力があることが既に証明されていて、俺にその実感はなくても“彦”だということに疑う余地はないんだそうだ。 「えーと前に聞いた話と合わせると、屋敷自体に何らかの自我を持った存在が居て、自動でセキュリティもこなしてくれてるってこと?」 「そういう認識で構いません」 「灰蛮が中に入れた時点で『害はない』と屋敷が判断した、ということだ。“漸”は静観するしかない」 「だから不法侵入なのに普通に受け入れられてたんだ…」 「そもそも行き来する道は各家の当主同士しか知らないはずなんだがな」 「全く問題がないわけでもないんだ」 「そういった事情なので武彦が監視したら何かわかるかもしれませんよ」 「確かにアイツ教えてもいないのに俺の電話番号知ってたもんな」 「……今も鳴っていませんか?」 「着信拒否しろ」  その後、真城は親友ではなくストーカーと認識を改めるべき、とアンジュから真剣に諭されたが、若干そうかもと思いつつある俺がいる。

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