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第21話 楽しいアルバイト
「キッチンカー?」
「そ。藤漸が出店するからバイトやらないかって」
「マジ?やるやるやりたい」
何とか学校にも通い始め、新生活も順調!…とはならなかった。
俺と真城は自分を買い上げる必要があるから、早い話仕事を探さなくちゃならない。そこで挙げられたのがキッチンカーのお手伝い。である。
「でもそういうのって平日にやるもんじゃないの」
「まぁ俺たちが入れるのは主に放課後だな。あとは長期休みとか、学校が何らかの記念日で休みとか」
「そんなんで大丈夫なの」
「大丈夫だから声かかったんだろ」
真城と連れ立ってお屋敷の食堂へ入る。藤漸さんは皆の食事が終わったからかくつろぎムードで椅子に座っていた。
「藤漸さんキッチンカーの話聞きました。何を出すんですか?」
「主にお弁当などを。オフィス街で出店予定になってます」
「俺たち学生だしあんま戦力にならないんじゃないかってタケと話してたんスけど」
「ああまあ店番は一人二人居れば良いんですがね、主に開店準備を手伝ってもらおうかと思いまして」
なるほど?仕込みや料理の提供は日々の暮らしで慣れているけど、キッチンカー周りの準備でちょうど人手が欲しいらしい。
「キッチンカーの手配自体は業者に任せるとして、例えばメニュー表の作成に写真なんか欲しいんですが、どうも暗くて見栄えが悪いんですよ」
「真城適任じゃん」
「いや俺食べ物撮ったことないけど」
「それでも俺よりは良いのが出来ると思うんですがね」
「あ、俺どうしたら」
「坊ちゃんにはぜひ備品の運搬をお願いしたく」
キッチンカーには看板やらのぼりやら容器やらでとにかく荷物がいっぱいで大変らしい。運べないことはないが時間がかかりすぎるので手伝いが欲しいんだとか。
「でもタケだけじゃ運べないやつ多くないっスか」
「大丈夫です。坊ちゃんが運んでたらきっと…ほら」
むん、と気合を入れて一番でっかいのぼりをえいさほいさと運んでいたらスイっと横から梅漸が現れて「危ないから端を持て」とか言って二人で運ぶことになった。おお、楽らく。
あとどこから聞きつけたのかおじさんとかおじいさんたちがふらーっとやって来て色々持って一緒に運んでくれた。
「坊ちゃん一人分の人件費にも関わらず他が無料で使い放題です」
「悪いこと考えるっすね」
「先ほどからその中途半端な敬語は一体」
「一応雇い主相手なんで」
「ううーん」
何時間もかかるの覚悟で始めたのにあっさりと終わった。というか俺の仕事なのに皆手伝ってくれて何も言わずに去って行った。良いのかな、バイト料俺だけもらっちゃっても。
「キッチンカーのバイトっていうからてっきり販売の方のお手伝いかと思った」
「平日休みの日があればそちらも手伝っていただけると」
「やりますやります!」
幸い学園ではバイト禁止のルールもないし堂々と手伝える。
「学園といえば坊ちゃん、転入試験なんかはなかったんですか」
「あ、言われてみれば試験も面接も無かったような」
「いや、私立だし寄付金で色々やってるところだから書類以外必要としないらしい」
「えっそうなの。てか詳しいなまだ初日だぞ」
「俺が黙ってても情報が勝手に入って来るから…」
「おぉ…」
真城は嫌そうに目を細めながら大体の話をしてくれた。
まず、あの学園は所謂「お金持ち」が集まるようだ。
主に各業界の御曹司だの社長の息子だのが集い、寄付金によって施設・設備が充実。その恩恵にあやかるのがスポーツ推薦枠で、今後のスポーツ界を牽引するようなスター選手の育成に努めてる、とかなんとか。
寄付金集めのためか学力は問わないが書類選考の時点で落ちることもあり、基準は不明、と。
なんでそんなところに入れられたんだ?
「内部のセキュリティが充実してるから、誘拐だのなんだのを警戒してる家は大体ここに入れるんだよとか言ってたな。あと、顔ぶれが時々変わることがあるらしい」
特定の層にしてみれば学園へ通うのが一種のステータスになっていて、寄付金が払えるぐらいのグレードになった時点で転入させることもあれば反対に倒産などで居なくなることもある。
それで「この学園じゃあんまり珍しいことじゃない」って高遠君が言ってたんだ。意味が分かった途端怖い話になったな。
「梵漸の親父が気にするとしたら、大賀の家か」
今は良くてもいずれ連れ戻そうとするって予測を立てて俺を学園に入れたのかな。だとするとかなり調べたんだろうな、あの家のこと。
「まぁあの学園なら送迎用の駐車場が何か所も設置されてるし、申請済みの車両しか出入り出来ないから早々問題は起きないだろ」
「本当に厳重なんだな」
「電車通学の方が珍しいってよ。俺はどこの会社の縁戚かって探りも入れられた」
「俺の方は全然。…まさか俺たち、どっかの成金だと思われてんのかな」
「時期的にな」
成金どころか借金持ち(というかカタ)だって知られたら厄介そうだ。胸を張って言うことではないし、情報も洩れないだろうから関係ないとは思うけど。
「そういえば今度学校の創立記念日だとか」
「え。全然知らない」
「俺も」
「アンジュさんが年間行事全て把握されてますんで」
「「ええー」」
「その日早速販売の手伝いしてもらっても良いですかね。仕込みや調理は大丈夫なんで、会計の方を」
「やります!喜んで!」
その後俺たちはメニューの試食と、実際に使う容器と箸、フォークやスプーンの使い心地の感想や意見を求められ、ガッツリ働いて中々のバイト料を受け取ったのだった。
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