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第22話 血気盛んな奴を無効化するのに有効な手立て

 快適、って言葉がこれほど相応しいことがあるだろうか。  屋敷に強制連行からのお引越しで半ば強引に住むことが決まったわけだが、今となってはそれをチャラに出来るくらい良い生活をしている。 お腹いっぱい食べられるおかわり自由のご飯。俺は自分の分だけ洗濯すれば良くて、掃除だって自分の部屋をやればそこで終わり。家事の負担は激減した。  宿題に取れる時間が大幅に増えたので提出物を落としたことはないし、予習復習の時間が持てるから不安だった勉強もなんとか食らいついている。なんて素晴らしい毎日なんだろうか。 「おはよう神崎君。なんだかご機嫌だね」 「高遠君!おはよう」 「そうだ、今日水泳だけど水着大丈夫?学校指定のやつだけど」 「いつの間にか届いてたからちゃんと持ってきた」  前の学校じゃ水泳の授業なんてなかったけど、こっちではあるようだ。それを知ったときは我を忘れて大はしゃぎしたものだ。結構泳ぐの好きなんだよな~。  ちなみに真城は「合同で授業とかないのか?」って膝から崩れ落ちてた。この世の終わりみたいな顔をしてたんだが、時々何考えてるのかさっぱりわからない。 「ふふん。俺の華麗なバタフライを披露してやろうかな!」 「え、何なにタケちゃん泳げるの?意外~」 「この前何もないとこで盛大にこけてたからスポーツ全般ダメなのかと思ってた」 「それな」  椅子をぐいぐい引きずってやって来たのは同じクラスの大橋と三上だ。なんと!俺にもクラスの友達が複数出来たのだ!前の学校では大賀がなんかしてたみたいで全然誰にも話しかけられなかったけど、今はそれが全くない。 「時期的にはちょっと早いけどやっぱプールとか海入んなきゃ夏って感じしないよなー」 「そう?プールはオールシーズンじゃない?」 「え」 「え?」 「さすがに冬は入んないけど、まさかタケちゃんとこって温水じゃないプール?」  温水のプールが家に完備されてるだと?? 反応を見る限り大橋の家にも三上の家にも高遠君の家にもプールがあるらしい。 「いやまあ池ならあるけどプールはなぁ」 「へぇ池かぁ、風流だねぇ」 「カケル、風流とかわかるの」 「全然」  ちなみに大橋は下の名前が(さとる)で、三上の方は(かける)。皆にはさとちゃんとカケルって呼ばれているが俺はまだそこまで親し気に呼ぶ勇気がない。 余談だが、高遠君は皆からも「高遠君」呼びだった。 「お、何。タケちゃん水着間に合ったん?」 「ゆーじ、おはよう。今日は遅刻しなかったんだ」 「ゆーじゅんが迎えに来た」 「このペースだと出席日数がギリギリになりそうだからさぁ」 「あ、ゆーじゅんもおはよ」 「おはよ~」  ゆーじって呼ばれたこの…一般的にチャラ男と呼ばれる部類の派手なのが寺島勇純(ゆうじゅん)で、あだ名はゆーじ。 ゆーじゅんって呼ばれた背の小さくて可愛い顔な方が有明有純(ありあけゆうじゅん)って名前で、あだ名はゆーじゅん。  なんか漢字は違うけど名前が同じだから、誕生日早かった方がゆーじゅんで遅い方が次男としてゆーじになったんだって。次男って何。  とまぁ、主に高遠君をはじめ大橋、三上、ゆーじゅん、ゆーじの五人と普段は一緒に行動している。 特に俺とゆーじは二人で皆に勉強を見てもらっているのだ。  急いで帰る理由がなくなったから、放課後勉強会という憧れのシチュエーションが叶ったのだ。もう本当に心の底から毎日が楽しい。 「はい出席確認。いねー奴いるー?」  クラス委員長である高遠君に対して担任は結構適当というか、高遠君がしっかりしているからこそ気を抜いているのか、担任がああだから高遠君に責任感が芽生えたのか、微妙なところだ。 「六限目の水泳授業、遅れたらプールにけり落とすからなー」 「今の時代炎上すると思います」 「授業中にスマホ取り出す方もどうかしてるよなー、ハイ問題なし解散」  体育教師兼担任はダラーっと出て行った。よくあれで教師として採用されたものだ。 「てか今日タケちゃんの彼氏どうしたの?珍しく見かけなかったけど」 「は?彼氏?ゆーじゅん何言ってんの?」 「え?タケちゃん隣のクラスの王子と付き合ってるんじゃないの?」 「…はぁ?!」 「あれ、違うんだ。噂になってたよ」  転校して来てから二週間。まだまだ真城の注目度は高い。やっぱ朝は時間差で登校しようって無理矢理決めて良かった。ここで一緒に登校しようもんなら噂ではなく事実として吹聴されていただろう。 「ところで水泳の授業どこのプールでやるんだろ」 「第三プールだって。高遠君が申請通してた」 「屋内じゃん。日焼け止め要らないね」 「あ、ヤベ俺水着忘れたわ」  大橋が手で口元をパチンと覆う。会話からわかるだろうが、施設設備にお金をジャブジャブ注いでるこの学校ではプールが何個もある。ちなみに校庭ですら第一から第四まである始末。  そしてすごいのはこれだけじゃない。水着や体操服などを忘れても、購買で授業に必要な道具一式販売されているのでそこで揃えることも出来る。手持ちの現金が足りなければ学生証を提示して月末に清算出来るシステムも完備。 まあ普通にカードだのスマホだの電子決済だので現金持ってる奴の方が少ないんだが。  一生懸命黒板と教科書を睨みつけていればあっという間に放課後だ。水泳の時間はもう他に授業もないし思いっきり泳いで楽しんだ。屋内だから厳しい日差しもないし、担当教師も緩いから延々泳がされるとかもなく適度に運動、適度にぷかぷか出来て大満足な一日である。 「でもま、日焼けが全くないってのもそれはそれでガッカリだな」 「うあぁ?!」  時に、お屋敷の自室。 俺は部屋着の一つとして与えられた浴衣に着替えて梅漸とアンジュ、真城を迎えていた。  それがどうだろう。  突然浴衣を盛大にめくられた。それも後ろから。 「わ、わ、ちょ、」  胸元をガバーっと広げられた勢いで一気に浴衣がはだけた。下着が見えてるかはわからないが、太ももはガッツリ出ている。 「白すぎるな、ちゃんと外で遊んでるか?青少年」 「わ、馬鹿ッ帯外すな!」 「おい、武彦から離れろ」 「うっは怖い怖い。わかったわかったよ」  俺を脱がせようとしていた手がパッと離れたので、咄嗟に前を合わせながら飛び退いた。振り返った先に居たのはまさかの担任。 「え、え?なんで」 「梵漸の頭に呼ばれてな?定期報告ってやつ」 「定期報告、って、まさか」 「俺に与えられた名は蒔燕鷲(じえんじゅ)。エンジュで良いよ、“彦”の坊ちゃん。鈍いからわからなかっただろうけど、初日からずーっと俺が坊ちゃんを警護してあげてたんだよね。最も俺の場合たまたま勤め先があの学園だったから抜擢された、ってだけだけど」  にっこりと笑った担任ことエンジュが指をパチンと鳴らすと、足に何かが絡みついた。 「うわ、なんだこれ!?」 「大丈夫大丈夫、ちょこーっと気持ち悪いだろうけどアンジュ本人と違ってねちっこくはないから」 「エンジュ、また種を勝手にくすねましたね」 「怒るなよアンジュ。綺麗な顔が台無しだぞ」  植物のツタがうねうねと動いてあっという間に拘束された。これなんか漫画とかで見たことある。ファンタジーのやつ。吸血されて干からびて死ぬやつ!! 「梅漸、アンジュ」  真城はなんか鼻を抑えて床に蹲ってるから戦力外として、この担任に対抗出来るのは二人しか居ない。忌々しくも弱々しく震えた声を聞いて二人はハッとした顔でこっちを見た。 「エンジュ、武彦はまだ自分の能力を把握していません。おふざけが過ぎますよ」 「アンジュは堅いんだっつーの。男は頭よりナニが硬くてなん「アナタは本当に頭が緩いですね」  ゼーハー肩を上下させる俺を見てから、梅漸が全くこっちを見ない。全然目が合わない。おい!助けて! 「悪いけど本人がいたらこいつらも気まずいだろうから、ちょびっとここで待っててね」  エンジュがパチン、ともう一回指を鳴らすと大量の植物がなだれ込んで来て、床に蹲っていた真城ごと梅漸やアンジュを攫って行った。

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