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呼び出し(2)

次の日… 「けほっ、ごほっ…」 「大丈夫?」 目の前には心配そうな凛月の顔がある。 あんなことがありしかもびしょ濡れのまま寝たものだから、案の定起きたら高熱があるようで、散々学校を休もうかと思ったが、叔父と、何より凛月を心配させたくなく、シャワーだけ浴びて、予備の制服に着替え登校した。 シャワーの際に太ももを伝っていた昨日の痕跡はなるべく考えないようにしながら処理して、無心で痛む後孔からも白濁を掻き出した。 「あ〜大丈夫だよぉ〜!ちょっと昨日傘忘れてさ、それで朝起きたら熱あったみたいで!でも心配しないで、馬鹿は風邪引かないって言うでしょ!」 昨日のことは飆太の心に深い傷跡を残していたが、なるべく蓋をして極力明るく振る舞う。 「自分で言うかな笑。でもほんと無理しちゃダメだよ〜。しんどかったら保険室くらい連れて行ってあげるから。」 「え、なに?今日りっちゃんデレモード?こんなことなら毎日風邪ひいてようかな!」 「馬鹿言ってないで。授業始まるよ!」 なんとか、違和感を持たせずにやり過ごせているだろうか。熱でぼーっとする頭ではよく分からないが、大丈夫だろうと授業に集中する。 ――――― 「おーい。ねぇ、飆太ってば!?」 身体を揺すられる感覚にだんだんと意識が覚醒してくる。 「もう昼休みだよ!」 凛月の呼びかけにようやく現実に引き戻される。 疲労と熱のあまり、昼休みになるまで1回も起きることなく眠ってたというのだ。 「んぇ、、もう昼休み?どうして、、」 「ずっ〜と寝てたんだよ。先生も起こそうとはしてたけど、熱があるって事情知って、そっとしてしてくれてたんだよ。ね、やっぱり早退するか保健室に行った方がいいんじゃない?」 凛月にそう促されるが、早退したり保健室に行くより凛月といる方が気が紛れていいと思った。 「ん〜まぁ大丈夫だよ!もうちょっとで終わりだし!」 凛月は心配そうに少し眉尻を下げたがそれ以上は何も言ってこなかった。 ――― その後は眠ってしまうこともなく、終礼も終わり放課となった。 「今日はボクが日直だから日誌書いて帰らなきゃ。飆太1人で帰れる?」 「うん。大丈夫だよ?」 「送っていこうか?」 「いや、逆方向だから悪いって!ほんとに大丈夫だから!」 相変わらず心配そうにしてくれている凛月に心が暖かくなる。 「じゃあ、また明日ね!」 一刻も早く帰って休みたかったのも事実だったので、そのまま別れて教室を出て下足へ向かう。 そして階段に差し掛かった時… “プルルルル―プルルルル―” 無機質な着信音が飆太のカバンから響く。それを取り出し画面に表示された名前を見て戦慄した。―昨日散々自分を嬲り物にしたあの男、生徒会長、藍川の名前がそこにはあった。― (出たくない…何を言われるんだろう?今もうしんどいのに、、、でも、出なきゃ…もう言いなりになるって約束もしてしまったし、逆らったらりっちゃんが、、、) 色んな思いが逡巡するが、意を決して通話ボタンを押した。 「はい。」 “今から旧校舎2階、多目的室横の空き教室に来い。” 電話から聞こえてきた言葉は飆太に絶望を告げるものだった。 「ぃ、いまから…?でも、オレ今しんどくて…熱もあって…」 “あ?じゃあ変わりに『りっちゃん』をよこすか?” 「ぃ、いきます。すぐいきます…」 そう言うしかなかった。踵を返し、旧校舎の方に向かう、渡り廊下を歩く足取りが酷く重い。 (行きたくない…) 本能がそう言っている。熱で頭がくらくらし、身体は節々が痛い、昨日の鈍い痛みもまだ残っている。だが、ぼーっとした頭には凛月の顔が浮かびなんとか飆太の足を目的の場所へ向かわせた。

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