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いざデートへ。と思ったのに

 今日は朝から一日中、表情筋が緩みきっている。放課後、帰り支度をしていると、八千代が優しい表情で僕を見つめていた。 「お前、今日は朝からめちゃめちゃ機嫌良いな」 「うん! 昨日、帰ってからヘットヘトだったんだけどね、推しの誕生日を満喫できたんだ」  少し嫌味な言い回しをしてしまったが、本当にその通りなわけで。SNSなんかを漁っりまくって満喫した、推しの生誕祭。昨夜は体力の限界を迎えていたが、そんな事を言っている場合ではない。年に一度しかない、尊い日なのだ。  踏ん張った甲斐あって、しっかりと心の栄養補給ができた。それで、いつになく満面の笑みで受け答えをしたわけだ。 「ふはっ。お前のその笑顔、かなりレアだな」  そう言って、八千代はスマホで1枚パシャリ。 「ちょっと、なんで撮るの!?」 「それ、送ってね」  りっくんが現れ、唐突に僕の写真の交換会が始まった。 「俺も混ぜろよな~」  と、啓吾も含め、無事全員の連絡先を交換し終えた。 「俺ら、やっと繋がった感じだな。これきっかけに、もっと仲良くやってこうぜ? 結人を好きなん同士、色々分かり合えるだろ!」  やはり啓吾はバカだけど、的確で良い事を言う。僕が言うのもなんだけど、皆で仲良くわいわいしていたい。セ、セックスとかは本意ではないけど、嫌なわけでもなくなってきた。  嗚呼、僕は快楽に負け、とうに尊厳を失っていたんだ。そう思うと泣けてきた。 「どどど、どうしたの? ゆいぴ、なんで涙目になってんの?」 「いやぁ····。僕、完全に男としての尊厳失くしたなって、改めて思ったら勝手に····」 「大丈夫だって。俺がちゃんと養ってやるから!」  啓吾の自信は、一体何処から湧いてくるのだろう。時々羨ましく思う。だが、まずは卒業を目指してほしい。 「アホか。俺が嫁にもらうんだよ」 「えー····じゃぁ、姐さんになんの?」  まさかの八千代ん家イジり。啓吾は命がおしくないのだろうか。  空気がピリッと緊張して、八千代は少しムッとしたようだったが『それもいいな』と返した。僕とりっくんは、ほっと胸を撫で下ろした。なんだか最近、八千代が凄く丸くなった気がする。 「そうだ! もうすぐ夏休みだね。八千代とりっくんは、何か予定あるの?」  つい先日、学期末試験を終えたのだが、啓吾は補習が確定していた。僕とりっくんは成績が良いからキープしておけば良いけど、啓吾は進級が危ぶまれるレベルだ。予想外に、八千代の成績が上位に近くて驚いた。  僕に絡み始めるまで、ろくに学校にも来ていなかったのに。本人は、元々の出来が違うんだとか宣っていた。 「あるな。結人とデート三昧の予定」  何も約束などしていないのだが、八千代が言い切る。 「それって、もう決定事項なの?」 「お前がデートしたいつったんだろ?」 「ゆいぴ、夏祭り行こうよ」 「いいな! 俺も結人と花火見たい」 「啓吾は補習でしょ」 「夜は空いてるもーん」 「そっか。じゃあさ、お祭りは皆で行こうよ! 僕、大勢でお祭り行ったことないや」 「「「行こう」」」 「うし、気合い入れて行くぞ。結人の着付けは俺がやる」 「はぁ!? 俺もゆいぴの着付けやりたい」 「お前、着付けできんのかよ?」 「····やる」 「却下。お前は祭りで、俺らの財布でもやりゃいいだろ」 「八千代、カツアゲみたい····」 「そうだそうだ、カツアゲだー! ゆいぴは、いっぱい美味しい物食べようね。俺が金魚も取ってあげるね」  りっくんは既に、何かを妄想して楽しんでるようだ。 「俺も何か準備とか····」 「「お前は補習だろ」」 「うぇぃ····」 「あはは。啓吾、頑張ってね」 「おう! 頑張るぜぃ!」  かくして、僕らは4人で夏祭りに行く約束をした。  夏休みに入り、1週間が経った祭り当日。  着付けなどの準備があると言って、朝から八千代が迎えに来た。それが、午前10時のこと。いくらなんでも、早すぎではないだろうか。りっくん達との待ち合わせは夕方5時だ。  八千代の家に着くなり、待ってましたと言わんばかりに僕の服を剥ぎ取り始めた。 「ななな、なんでぇ!?」 「結局この1週間、まともに会えなかっただろ。溜まってんだよ。お前も期待してたんじゃねぇの?」  いやらしい笑みを浮かべ、腰に手を回して抱き寄せ、首筋を指でなぞる。 「ひんっ······し、してないよ!」  確かに、夏休みが始まってからは予定が合わず、思うように会えなかった。それは、八千代だけではない。啓吾は補習だし、りっくんは家族旅行に連れて行かれていて、昨日帰ったきたばかりで殆ど会えていない。  学校がある間は、ほぼ毎日、それぞれと最低でも1回ずつえっちをしていた。男子高生の性欲と精力、ハンパない。  休み直前に、啓吾が『結人の穴、縦割れしてきてね? えっろ!』と言っていた。こんな筈じゃなかったのに、快楽に抗えない自分が情けなくて、ポロッと涙が零れた。  八千代に『この後、ちゃんと祭りも楽しめるように、体力は残しといてやるからな』と、随分と上からものを言われた。腹が立つのに、昂然たる口ぶりに諦念してしまった。  整った顔を不用意に近づけられると、反射的にそらしてしまう。が、顎クイで容易に固定されてしまい、強制的に見つめ合う事になる。 「なぁ結人····まだ俺のこと好きって認めねぇ?」 「うっ······認め──」 「いい加減、認めろよ」  八千代は僕の頬を少し強く摘むと、息もできないほど深いキスをした。 「俺のこと、好き?」 「んふぁっ····好きぃ。八千代、大好きぃ」 「ふはっ。やっと言ったな。····俺も好き」  八千代は、ゆっくりと僕のナカに入ってくる。初めの頃に比べると、幾分かすんなりと飲み込めるようになってしまった。苦しさよりも快感が、恥ずかしさよりも愉悦が僕を支配してゆく。 「もっとぉ、もっといっぱい突いてぇ」 「クソッ····。フゥー······加減してやるつってんだから、煽んな」  僕のナカで、さらに大きくなった八千代のモノが、心まで埋めつくしてしまった気がした。  まだ、僕自身が確信していなかった“好き”という感情を、無理矢理引き出されてしまった。けれど、それは案外どうって事なくて、むしろスッキリした。  問題は、僕が好きなのは八千代だけじゃない事だ。八千代もきっと、それをわかったうえで言わせている。悪いのは、全部僕なんだ。 「好き····。八千代、ホントに好きだよ」 「わかってる。大丈夫だから。意地悪しすぎたな。悪ぃ」 「うっ····ひっく····僕が、欲張りだから····優柔不断だから····皆を傷つけてる····」  皆からの想いへの、自分の不誠実さに耐えきれなくなって、自分勝手にも涙が止まらなくなった。 「なに泣いてんだよ。俺も莉久も、大畠もわかってるから。全部わかっててお前を選んでんだよ。悪いのは、お前を離してやれねぇ俺たちだ」  困った顔で笑い、八千代はぎゅっと抱きしめてくれた。 「お前は、俺らに溺れてりゃいいんだよ。俺らが勝手に、お前を甘やかして抱き潰してやっから」 「そんなの、許されないよ····」 「誰に許してほしいんだよ。俺らが良いって思ってんだから、知らねぇ誰かが認めなくても知ったこっちゃねぇんだよ」 「もう····ホントに八千代は自分本位なんだから。でも、それに甘えてる僕も大概だよね」 「おう。皆そんなもんなんだよ。だから、お前は黙ってイッてろ」 「ひあぁぁんっ」  僕の不安や心のしこりを、ついでに僕の内臓まで、全て押し潰してしまうかのように、激しくナカを掻き乱し突き上げられた。  僕は、ひと時の快楽に溺れることで、皆への罪悪感をひた隠した。

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