14 / 384
いざデートへ。と思ったのに
今日は朝から一日中、表情筋が緩みきっている。放課後、帰り支度をしていると、八千代が優しい表情で僕を見つめていた。
「お前、今日は朝からめちゃめちゃ機嫌良いな」
「うん! 昨日、帰ってからヘットヘトだったんだけどね、推しの誕生日を満喫できたんだ」
少し嫌味な言い回しをしてしまったが、本当にその通りなわけで。SNSなんかを漁っりまくって満喫した、推しの生誕祭。昨夜は体力の限界を迎えていたが、そんな事を言っている場合ではない。年に一度しかない、尊い日なのだ。
踏ん張った甲斐あって、しっかりと心の栄養補給ができた。それで、いつになく満面の笑みで受け答えをしたわけだ。
「ふはっ。お前のその笑顔、かなりレアだな」
そう言って、八千代はスマホで1枚パシャリ。
「ちょっと、なんで撮るの!?」
「それ、送ってね」
りっくんが現れ、唐突に僕の写真の交換会が始まった。
「俺も混ぜろよな~」
と、啓吾も含め、無事全員の連絡先を交換し終えた。
「俺ら、やっと繋がった感じだな。これきっかけに、もっと仲良くやってこうぜ? 結人を好きなん同士、色々分かり合えるだろ!」
やはり啓吾はバカだけど、的確で良い事を言う。僕が言うのもなんだけど、皆で仲良くわいわいしていたい。セ、セックスとかは本意ではないけど、嫌なわけでもなくなってきた。
嗚呼、僕は快楽に負け、とうに尊厳を失っていたんだ。そう思うと泣けてきた。
「どどど、どうしたの? ゆいぴ、なんで涙目になってんの?」
「いやぁ····。僕、完全に男としての尊厳失くしたなって、改めて思ったら勝手に····」
「大丈夫だって。俺がちゃんと養ってやるから!」
啓吾の自信は、一体何処から湧いてくるのだろう。時々羨ましく思う。だが、まずは卒業を目指してほしい。
「アホか。俺が嫁にもらうんだよ」
「えー····じゃぁ、姐さんになんの?」
まさかの八千代ん家イジり。啓吾は命がおしくないのだろうか。
空気がピリッと緊張して、八千代は少しムッとしたようだったが『それもいいな』と返した。僕とりっくんは、ほっと胸を撫で下ろした。なんだか最近、八千代が凄く丸くなった気がする。
「そうだ! もうすぐ夏休みだね。八千代とりっくんは、何か予定あるの?」
つい先日、学期末試験を終えたのだが、啓吾は補習が確定していた。僕とりっくんは成績が良いからキープしておけば良いけど、啓吾は進級が危ぶまれるレベルだ。予想外に、八千代の成績が上位に近くて驚いた。
僕に絡み始めるまで、ろくに学校にも来ていなかったのに。本人は、元々の出来が違うんだとか宣っていた。
「あるな。結人とデート三昧の予定」
何も約束などしていないのだが、八千代が言い切る。
「それって、もう決定事項なの?」
「お前がデートしたいつったんだろ?」
「ゆいぴ、夏祭り行こうよ」
「いいな! 俺も結人と花火見たい」
「啓吾は補習でしょ」
「夜は空いてるもーん」
「そっか。じゃあさ、お祭りは皆で行こうよ! 僕、大勢でお祭り行ったことないや」
「「「行こう」」」
「うし、気合い入れて行くぞ。結人の着付けは俺がやる」
「はぁ!? 俺もゆいぴの着付けやりたい」
「お前、着付けできんのかよ?」
「····やる」
「却下。お前は祭りで、俺らの財布でもやりゃいいだろ」
「八千代、カツアゲみたい····」
「そうだそうだ、カツアゲだー! ゆいぴは、いっぱい美味しい物食べようね。俺が金魚も取ってあげるね」
りっくんは既に、何かを妄想して楽しんでるようだ。
「俺も何か準備とか····」
「「お前は補習だろ」」
「うぇぃ····」
「あはは。啓吾、頑張ってね」
「おう! 頑張るぜぃ!」
かくして、僕らは4人で夏祭りに行く約束をした。
夏休みに入り、1週間が経った祭り当日。
着付けなどの準備があると言って、朝から八千代が迎えに来た。それが、午前10時のこと。いくらなんでも、早すぎではないだろうか。りっくん達との待ち合わせは夕方5時だ。
八千代の家に着くなり、待ってましたと言わんばかりに僕の服を剥ぎ取り始めた。
「ななな、なんでぇ!?」
「結局この1週間、まともに会えなかっただろ。溜まってんだよ。お前も期待してたんじゃねぇの?」
いやらしい笑みを浮かべ、腰に手を回して抱き寄せ、首筋を指でなぞる。
「ひんっ······し、してないよ!」
確かに、夏休みが始まってからは予定が合わず、思うように会えなかった。それは、八千代だけではない。啓吾は補習だし、りっくんは家族旅行に連れて行かれていて、昨日帰ったきたばかりで殆ど会えていない。
学校がある間は、ほぼ毎日、それぞれと最低でも1回ずつえっちをしていた。男子高生の性欲と精力、ハンパない。
休み直前に、啓吾が『結人の穴、縦割れしてきてね? えっろ!』と言っていた。こんな筈じゃなかったのに、快楽に抗えない自分が情けなくて、ポロッと涙が零れた。
八千代に『この後、ちゃんと祭りも楽しめるように、体力は残しといてやるからな』と、随分と上からものを言われた。腹が立つのに、昂然たる口ぶりに諦念してしまった。
整った顔を不用意に近づけられると、反射的にそらしてしまう。が、顎クイで容易に固定されてしまい、強制的に見つめ合う事になる。
「なぁ結人····まだ俺のこと好きって認めねぇ?」
「うっ······認め──」
「いい加減、認めろよ」
八千代は僕の頬を少し強く摘むと、息もできないほど深いキスをした。
「俺のこと、好き?」
「んふぁっ····好きぃ。八千代、大好きぃ」
「ふはっ。やっと言ったな。····俺も好き」
八千代は、ゆっくりと僕のナカに入ってくる。初めの頃に比べると、幾分かすんなりと飲み込めるようになってしまった。苦しさよりも快感が、恥ずかしさよりも愉悦が僕を支配してゆく。
「もっとぉ、もっといっぱい突いてぇ」
「クソッ····。フゥー······加減してやるつってんだから、煽んな」
僕のナカで、さらに大きくなった八千代のモノが、心まで埋めつくしてしまった気がした。
まだ、僕自身が確信していなかった“好き”という感情を、無理矢理引き出されてしまった。けれど、それは案外どうって事なくて、むしろスッキリした。
問題は、僕が好きなのは八千代だけじゃない事だ。八千代もきっと、それをわかったうえで言わせている。悪いのは、全部僕なんだ。
「好き····。八千代、ホントに好きだよ」
「わかってる。大丈夫だから。意地悪しすぎたな。悪ぃ」
「うっ····ひっく····僕が、欲張りだから····優柔不断だから····皆を傷つけてる····」
皆からの想いへの、自分の不誠実さに耐えきれなくなって、自分勝手にも涙が止まらなくなった。
「なに泣いてんだよ。俺も莉久も、大畠もわかってるから。全部わかっててお前を選んでんだよ。悪いのは、お前を離してやれねぇ俺たちだ」
困った顔で笑い、八千代はぎゅっと抱きしめてくれた。
「お前は、俺らに溺れてりゃいいんだよ。俺らが勝手に、お前を甘やかして抱き潰してやっから」
「そんなの、許されないよ····」
「誰に許してほしいんだよ。俺らが良いって思ってんだから、知らねぇ誰かが認めなくても知ったこっちゃねぇんだよ」
「もう····ホントに八千代は自分本位なんだから。でも、それに甘えてる僕も大概だよね」
「おう。皆そんなもんなんだよ。だから、お前は黙ってイッてろ」
「ひあぁぁんっ」
僕の不安や心のしこりを、ついでに僕の内臓まで、全て押し潰してしまうかのように、激しくナカを掻き乱し突き上げられた。
僕は、ひと時の快楽に溺れることで、皆への罪悪感をひた隠した。
ともだちにシェアしよう!