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凜人さんは、大変にヤバい大人だった
学校では散々弄ばれてしまったけど、気を取り直して朔の家に向かう。シャキッと友達モードに切り替えなくてはならない。
手土産のケーキを買って学校に戻ると、指導を終えた朔と啓吾が、りっくんと共に校門の前で待っていた。
学校から電車で3駅、徒歩10分。タワーマンションの上層階。3LDKの朔の家に着いた。
八千代の部屋でも相当広いと思っていたけど、上には上がいるものだ。
「さ、あがってくれ」
「おかえりなさい、朔様」
「ああ、ただいま。友達連れてきたから、適当にお茶出してくれ。後は、休んでて構わないから」
「お夕飯は食べて行かれますか?」
「みんな、どうする? 良かったら食べてってくれ。凜人 の飯は美味いんだ」
「ちょいまち、展開早すぎんだろ」
「お、そうだったな。執事の三河 凜人だ。凜人、こっちから場野、結人、鬼頭、大畠だ」
「紹介早っ。朔らしいねぇ。ご紹介にあずかりました、大畠でっす。とりあえず、お邪魔します。あ、俺晩飯食ってく! 凜人さん、よろしくお願いします!」
「かしこまりました。腕によりをかけてお作りしますね」
「どうも、鬼頭莉久です。お邪魔します。俺も、夕飯いただいていいですか」
「勿論です。お任せください」
「えっと、武居結人です。今日は大人数でお邪魔してすみません。僕は帰らなくちゃいけないので、夕飯はまた今度頂きたいです。あっ、これケーキです。お納めください」
「これはこれは、可愛い方ですね。お気遣い、ありがとうございます。後で、紅茶と一緒にご準備しますね。夕飯は、いつでもご都合の良い時にいらしてください」
「よ、よろしくお願いします!」
「はい」
「気ぃ遣わせて悪いな、結人。そのケーキは貢もんか何かなのか?」
「はぁ? ただの手土産だろ。コイツ緊張してんだよ。あー····と、俺は結人送って帰るから、飯は要らねぇ····です」
「承知致しました。皆さん、ごゆっくりしていってくださいね。お茶の支度ができたらお呼びします」
凜人さんは、にっこりと微笑んでキッチンへと向かった。僕たちは朔の部屋に通され、その広さに驚愕した。
「すっげぇ····めちゃくちゃ広いなぁ。俺ん家のリビングくらいありそう······」
「ホントだね。そうだ、執事さん! 凄くかっこいい人だったね。大人ってカン····ジ····ん? どうしたの?」
みんなが僕を見て、怪訝な顔をしている。
「ゆいぴは、ああいうのがタイプなの?」
「タイプ? ····あっ、違うよ。そういう意味じゃなくて、もっとテレビでみるような執事さんを想像してたから、ちょっと違ったなぁって思って」
凜人さんは、色黒で彫りが深めのキリッとした端整な顔立ちだ。朔とは違った種類の造形美って感じ。眼鏡の所為か、とても理知的に見えた。身長は八千代よりも少し高くて、筋肉質なのか少しムチッとしている。
「執事さんって、燕尾服? とか着てると思ってたけど、普通の服なんだね。部屋もこんなに広いし、別世界みたいで楽しい」
「実家ではキチッとした服着てたけど、堅苦しいからこっちでは私服でいろって言ったんだ。結人が喜んでくれてるんなら良かった。けど、凜人には接近禁止令出しとくな」
「「「それがいい」」」
「えっ、なんで?」
「悪い人じゃないとは思うけどね、ゆいぴが襲われちゃいそうで心配なの。可愛いから」
「可愛いって言ってたしな、あの人」
「朔、アイツそっち系か?」
「わかんねぇ。から、用心に越したことはねぇと思って」
「ちょっと皆、朔が成長してるよ? 察せる子になってる····」
「うん。俺もビックリしてるよ。朔の口から用心って····」
「結人に関わる事だからじゃねぇか? 変なトコだけ頭回んのな」
「ねぇ皆、朔の事言いたい放題だけど、色々と凜人さんにも失礼だからね? せっかくお家にお邪魔させてもらってるのに、そんな事言っちゃダメだよ」
「あー····天使のゆいぴだ」
──コンコンッ
「失礼します。紅茶とケーキのご用意ができました。ダイニングの方へどうぞ」
僕達はダイニングに通され、お茶をご馳走になった。
「こんなに美味しい紅茶、初めてです」
「それは光栄です。おかわりはいかがですか?」
「イタダキマス」
凜人さんの微笑んだ顔が、どうにも慣れなくてドキドキしてしまう。大人の色気というやつだろうか。顔が熱くて仕方ない。
「他にも沢山種類がありますよ。色の変わるものなんかも。ご興味があれば、また飲みにいらしてください」
「わぁ! ありがとうございます」
ティータイムを終え、朔の部屋に戻る。
「なーんか凜人さん、結人にばっか喋ってたな」
「ゆいぴ、気に入られちゃったんじゃないの?」
「もう、心配しすぎだよ!」
「だといいけどな。とりあえず、俺らはお前が心配だから離れんなよ」
「····はーい」
僕は少し、むくれた返事をした。
とても優しそうなのに。何より、朔の家族みたいな人を、そういう風に見るのが納得いかなかった。朔まで警戒するんだから、過保護が過ぎるように思う。
朔の家でエッチな事をするわけにもいかず、持ち寄ったゲームをしながら、くっだらないお喋りをして過ごした。議題は主に、今後の僕の抱き方や開発方針で、僕は話に入れない。終始、聞き慣れない単語が飛び交う。抱かれる僕をそっちのけで、真剣に行われる話し合いに飽きてしまった。
「朔、トイレ借りていい?」
「ああ。ダイニングの手前の扉な。トイレって書いてある」
「わかった。ありがとう」
なんだか、いつもより我慢が効かない気がする····。沢山紅茶を飲んだからかな。と、少し反省した。
「トイレは······あ、ここだ」
「おや、お手洗いですか?」
丁度、廊下に出てきた凜人さんと鉢合わせた。
「あ、はい。ちょっとお借りします」
「待って」
「はい? あの、後でもいいですか?」
正直、我慢の限界だった。
「いえ、今でなければ····」
そう言って、トイレの隣にある凜人さんの部屋に連れ込まれた。
「結人様は、朔様の恋人····ですよね」
引き込むや否や、壁ドンで膝を股に突っ込まれた状態で詰め寄られた。
「ひぁっ····そ、それは····」
「朔様が、ある日突然変わられたんです。それまでは何事にも無関心だったのに····。毎日が楽しそうで、嬉々とした朔様を見ているだけで幸せでした」
凜人さんが、太腿を僕の股間にぐりぐりと押し付ける。
「ん····あの、そこ刺激しないで······」
「おや、すみません。私の大切な朔様を誑かしたのは、何処の雌猫かと思っていたのですが····それがこんなに可愛らしい方だったとは」
僕の顎をクイッと持ち上げ、雄々しい表情で顔を近づけてくる。このままでは、易々とキスをされてしまう。
(待って待って待って····すっごく怖いんだけど······あと、漏れちゃう······)
「ご、ごめんなさい····誑かしたつもりはないんです」
一生懸命押しても、弾力のある胸筋に押し返されてしまう。力では全く敵わない。八千代よりも背が高くて、りっくんよりも病んでいそうな人に、敵うわけがない。
「えぇ、朔様からなんですよね。知ってますとも。私は朔様の全てを知ってます。お父上から全てを任されておりますので」
(うわわわわっ·····絶っっっ対ヤバイ人だ! 八千代、助けてっ····)
「だ、ダメです。キスとか、そういうのはダメです。僕は皆のモノなのでっ!」
「そうですか。では、私ともいけないことをしましょう」
僕の両手は頭上で軽々と片手で抑えられ、もう片方の手で腰を撫でるように抱き寄せる。シャツの中に入ってきた手は、ひんやりとしていた。
首筋を舐められて、思わず声を漏らしてしまう。
「んっ····あっ····やめっ······」
抵抗など許してもらえず、されるがままお尻を揉みしだかれた。
「この柔らかいプリプリのお尻に、朔様のモノが····気持ち良かったですか? 私のモノも、挿れてよろしいでしょうか」
「んぁ····だ、だめぇ······待って、漏れちゃう······」
「ここで漏らしていただいても構いませんよ。こんなに愛らしい男の子のお漏らしなら、個人的には大歓迎です」
「へ、変態····離してっ! 僕には朔たちが居るんだから、知らない人とはえっちな事しないもん!」
「······あははっ。それを聞けて良かったです。意地悪をしてすみませんでした。貴方が、朔様を利用したり陥れようとしたりしていないか、少し試させて頂きました。とりあえず、お手洗いへどうぞ」
僕はトイレへ駆け込んだ。まだ、心臓がバクバクしている。いや、本当に危なかった。あと数秒でも遅れていたら、漏らしていたかもしれない。
トイレから出ると、凜人さんが廊下で待っていた。そして、再び部屋に招き入れられた。
「朔様の大切な方にとんだ無礼を働いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。朔様のお父上から全てを任されておりますので、少々手荒な事をしてしまいました」
「手荒すぎますよ····。本当に怖かったです」
「本当にすみません。朔様にはご内密に願います。でないと私、クビになってしまいますので」
「言えませんよ····。あの、心配されてるのはわかりました。だから、ちゃんと言っときますね。僕は、朔の家の事とか関係なくて、朔が好きだから付き合ってます。だいたい、こんなにお金持ちだったなんて知りませんでしたよ。朔は、あんまり自分の事を話してくれないから····」
(朔だけじゃないけど····)
「ええ、はい。そのようですね。あなたを見た時から、大丈夫だろうとは思っていましたが、本性というものは一見、わからないものですから」
「はぁ······。あの、皆が心配しちゃうから、もう戻りますね」
「あ、結人様。私、個人的に結人様が大変気に入りました。朔様の事、今後もよろしくお願いします」
「はい。って、お世話になってるのは僕の方だ思うんですけどね。それじゃ」
一礼して部屋を出た。廊下に出ると、朔が様子を見に来てくれていた。
「凜人と何話してたんだ? 何もされてないか?」
「だ、大丈夫だよ。えっとね、僕が朔の恋人だって知ってたんだ。それで、色々と心配してたみたい。凜人さん、良い人だね。ちょっと怖いけど····」
「やっぱり何かされたのか?」
「されてないよ! 大丈夫!」
「そうか。なら良いけど」
部屋に戻ると、みんな心配してくれていた。大丈夫だと伝えると、疑いつつも、それ以上は何も言わなかった。
その後は、ただの友達らしく沢山遊んで話をして、楽しく過ごすことが出来た。いつもの乱れた愛の語らいも好きだけど、たまにはこうして過ごすのも良いなと思った。
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