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体育祭
9月も後半、まだまだ暑さが残る中。我が校では体育祭が開催されている。運動が苦手な僕としては、最も避けたい行事である。
しかし、僕の彼氏たちは違った。いつになく本気モードなのだ。と言うのも、啓吾がまたくだらない勝負を吹っかけたのが原因だった。
体育祭の出場種目を決める頃、八千代の家でまったりと過ごしている時の事。
「なぁ、体育祭で1番活躍した奴が、結人と2人でデートする権利を得る。ってのどう?」
「「「乗った」」」
「毎回思うけどね、先ず僕の意見を聞いてほしい」
「嫌か?」
啓吾が首を傾げて、ズルい聞き方をする。
「うー····嫌じゃないですぅ」
「じゃ、決まりな。判定は結人だかんな。しっかり見とけよ!」
「はーい」
なんて事があったのだ。
徒競走や騎馬戦、リレー。皆、とにかく僕に良い所を見せようと、出場しまくっている。実行委員のりっくんと啓吾は、そっちでも張り切っている。
(皆かっこいいから、1番って言われても難しいんだけどな····)
と、木陰で甘ったるい悩みを抱え唸っていた。
「お前の彼氏、かっこいいなぁ。でさ、場野以外って誰なの?」
「お、教えない」
「おーおー、警戒されてんな~」
初めの準備体操以外サボりっぱなしだった、要注意人物の香上くんが声を掛けてきた。警戒してしまうのは、八千代たちに口酸っぱく気をつけろと言われているのだから致し方ない。
「香上くん、八千代には気をつけた方がいいよ。本当にキレたら加減できないから····」
「あれぇ? 俺のこと心配してくれてんの?」
「そういうわけじゃないけど····」
「ふ〜ん。そういやさ、武居って保健係だったよな?」
「うん。どっか怪我でもしたの? ずっとサボってるみたいだけど」
「俺じゃねぇよ。更衣室に気分悪いって言ってる奴いてさぁ」
「なんで先に言わないの!? どっち?」
「第2更衣室の方」
こうして言葉巧みに、まんまと誰も居ない更衣室に連れ込まれてしまった。香上くんは鍵を締め、僕の背中を押して壁に叩きつけた。そして、あっという間に後ろで両手を組まれてしまった。力も敵わず抵抗できない。
「手荒な事してごめんねぇ····。武居さぁ、さっきの障害物競走ん時、コケてたでしょ。そん時さぁ、服めくれたじゃん? ほっそい腰見えちゃって、抱きてぇなーって思ったのよ」
息を荒らげた香上くんは、薄い体操着の中に手を滑り込ませてくる。乳首を弄られ、勝手に声が漏れてしまう。
「ふぁっ····んっ、やだっ····香上くん、やめて」
「ちょっとだけ。場野たちには内緒で頼むな。お前も嫌われたくねぇんだろ? わりぃけど····お前見てたら止まんねぇんだわ」
「ホントに、ダメだって····」
撫でる手が腰からから下腹部に来た時、八千代のアレを思い出してしまった。ぐっと力を込められると、奥がきゅんとしてしまう。啓吾が言っていた、軽イキしそうな感じだ。
「んあっ、やっ····」
「お前、それワザとやってんの? もしかして感じてる? マジで犯していいの?」
「良いわけないでしょ····」
怖くて涙が溢れる。
「あー····泣くなよ。堪んねぇな」
パンツに手を突っ込まれ、恐怖で縮こまっている僕のモノに触れられた。
「かーわい。お、おっきくなってきたじゃん。気持ちぃーの?」
それは生理現象だ。刺激を与えられれば、反応するのは当然だろう。
「気持ち、くないっ」
絶対にイクものか。僕は、押しつけられる快楽に抗った。
「アレだろ? お前、どうせ下だろ? 俺も食ってみてぇな~」
香上くんは自分の指を濡らすと、無遠慮にお尻の方を弄り始めた。
「いたっ······やっ、あっ、コリコリしないでぇ」
「ここイイの? あーあー、もう出ちゃう? ナカぴくぴくしてるけど」
「で、出ない。····イかないも、んんっ」
「じゃぁ、ちょっと激しくするよ~」
「ああぁぁぁっ····ダメッ、やだっ、イキたくないっ、のにぃ······助けてぇ····」
ガダァァンッ──
多分、扉が飛んだ。応援団の太鼓の音や声援、外の音が流れ込む。
僕達が振り向くよりも早く、朔が香上くんにチョークスリーパーを掛け拘束した。同時に、ずり落ちてしまう僕を、倒れるすんでの所で八千代が受け止めてくれた。おかげで、顔面から落ちるのは免れた。
それにしても、なんて駿足なんだろう。世界記録だって破れるんじゃないかな。
「場野、コイツこのまま殺していいか?」
朔の目が座っている。恐らく、本気で言っている。止めないとマズい。本当に殺りかねない表情 をしている。
「おう、殺れ。いや、待て。俺が殺る。お前、手ぇ汚したらマズイだろ」
青筋の立った八千代が、自らの手を汚す宣言をした。誰が殺ってもマズイ事には変わりないのだが。
「待って、殺しちゃダメだよぉ····まだ、未遂だから。ほら、僕、イかなかったよ。ね?」
「違うぞ、結人。コイツは場野の警告を無視して結人に手ぇ出したんだ。未遂じゃねぇ」
「ははっ····他って瀬古かよ····やっべぇ奴ばっか······」
「結人がそう言うなら殺さねぇけど、二度と立てねぇようにしてやる。朔、そいつ貸せ」
「あっ、朔! 香上くん落ちた。ホントに死んじゃうよ。離してあげて」
「······ん」
朔は、ただ手を離した。勿論、香上くんは床に落ちた。見事に顔面から落ちて、鼻血が出てしまった。
「わーっ、鼻っ、鼻血出てるよ! どうしよう····」
「放っとけ。ソイツに触んな」
八千代が、とても落ち着いた声で言う。声を荒げられるよりも怖い。
「ちんこは切っとくか。前に言ったんだろ? じゃ、自業自得だよな」
「待って待って! ダメだよ。2人とも、ちょっと落ち着いて? 犯罪だめ。一緒に居れなくなるでしょ!」
「「おお····」」
2人が止まってくれて良かった。本当に良かった。
香上くんはすぐに目を覚まし、ひたすら謝り続けた。本当に、純粋に、僕を見て欲情してしまったらしい。ただの性欲なのか、僕に惚れたのかは、本人も分からないと言っていた。
そして、僕がえっちなのが悪いとも言われてしまった。勿論、言った瞬間に八千代の綺麗な右フックが飛んだ。その所為で、今度は完全に気を失ってしまった。
八千代と朔には、香上くんは二度と僕に触れないという事で、今回は決着をつけてもらった。2人とも僕の話すら聞いてくれなくて、本当にこのまま、香上くんがこの世から消えてしまうんじゃないかと焦った。
「場野! 朔! 間に合った!?」
りっくんが走ってきた。僕を探してた八千代達が、香上くんに連れられて更衣室に入ったという情報を得て、全速力で駆けつけてくれたらしい。
「わりぃ。ちょっと手ぇ出されてた」
「どこまで?」
「指で、お尻弄られちゃった····けど、僕イッてないの····って言い訳にならないよね····ごめんなさい」
「なんでゆいぴが謝んの? あぁ、可哀想に。泣かされたんだね」
「香上なら中で転がってんぞ」
「ん。ゆいぴ、綺麗にしてもらってきな? 俺ら、次の種目まで時間あるから」
「うん。りっくんは?」
「俺は後片付けしてから行くね」
「····? わかった」
りっくんは、香上くんが居る更衣室へ入っていった。後片付けって、一体何をするんだろう。
「結人、行くぞ。歩けるか?」
「うん。あっ、ごめっ」
歩き始めると、足が縺れて転びそうになった。反射的に八千代にしがみついてしまった。今になって、脚が震えてきたのだ。
「無理すんな」
八千代は僕を抱えて、理科準備室へ向かった。
朔が濡れタオルで拭いてくれている間、八千代から取り調べを受けた。
「何された? された事全部言え」
僕は、洗いざらい話した。途中で、恐怖心が蘇って涙声になってしまう。
「わかった。もういい。つーか、俺が仕込んだんも悪かったんだな。わりぃ」
「ううん。八千代は悪くないよ。僕の身体が、え、えっちなのが悪いんだよ」
「······ここか?」
朔がお臍の下をぐっと押した。
「んぁっ····やぁっ」
「場野ぉ····これは良くない。誰でもハメたくなるわ」
「んぁ、啓吾······はめ?」
いつの間にか、啓吾とりっくんが居た。
「りっくん、その手····怪我してるよ!?」
「あぁ、ぶつけただけだから大丈夫だよ」
「わぁぁっ! 啓吾も!? 2人ともどうしたの!? 啓吾もぶつけたの? 血、血が出てるよ!」
「俺はねぇ······うん、ぶつけた」
「どんだけぶつけたらそんな怪我するの····」
りっくんも啓吾も、右手の拳が真っ赤だ。少し切れている。
「血、血! えっと、消毒····あっ、とりあえず洗わないと」
2人の怪我を手当して、少し落ち着いたのでグラウンドへ戻る。
体育祭も佳境を迎え、クラス対抗400mリレー。僕が頑張ってと言った所為か、みんな複雑ながらも躍起になっている。本気モードの鋭い眼光は、もはや獲物を狙う獣のそれだ。観客席が固唾を呑む。
シンとしたグラウンドに、スタートのピストルの音が響く。1走には朔が居る。綺麗な走り出しで、ぐんぐん後ろを引き離す。朔はフォームが凄く綺麗だ。僕の前を通る時に目が合い、少し微笑んだように見えた。
2走にはりっくん。バトンを受け取ると、猛スピードで追い上げる。りっくん、足速かったんだ····。僕にウインクを飛ばしつつ、前との距離をかなり詰めてバトンを回した。
3走で啓吾の出番がきた。全力で走る啓吾は可愛い。走るのはそんなに得意じゃないはずなのに、僕の為に頑張っているのかと思うと、愛おしくて堪らない。そんな中で僕に手を振ってくれたけど、堂々と振り替えせないのが悔しい。
アンカーは八千代。啓吾からバトンを受け取り、涼しい顔で走り抜ける。そして、僕の前を通る時にウインクをした。りっくんの時とは比べ物にならないほど、後ろで女子の悲鳴があがった。普段は絶対にそういう事をしない八千代の、レアすぎるウインクの破壊力は抜群で、僕は卒倒しそうだった。だって、色気がとんでもないんだもの。
(みんな、あんなことしたら余計モテるんじゃないの? なんかヤだな······)
走り終えて汗だくのまま、みんなが僕の元に集まった。
「あれ? 結人、なんで膨れてんの?」
啓吾が汗を拭き取りながら、キョトンとした顔で聞いてきた。自覚がない事に、さらに腹が立ってしまう。
「別に。皆がカッコよかっただけだよ」
「何それ。なんでそれでムクれてんの?」
「あ、俺らがカッコ良すぎてモテると思ってんじゃない? ゆいぴ、ヤキモチ妬きだから」
「そうなのか? だったら安心していいぞ。俺は結人以外に興味ないからな」
「それはわかってるけど······。皆、僕に良い所見せたいのは分かるけど、サービスしすぎなんだもん。特に八千代のは酷かった」
「え、みんなも何かやってたのかよ。場野ん時はビビるくらい悲鳴あがってたから、何かやったんだとは思ってたけど····」
「八千代がウインクした」
「「「えぇっ!?」」」
「場野、ウインクとかすんだ····。意外だわ~。ちょっと見たかったかも」
「俺もゆいぴにウインクしたよ? あんな悲鳴あがんなかったじゃん」
「場野と莉久じゃレア度が違ぇだろ。俺は特に何もしてねぇしな」
「え、朔は僕にニコッてしてくれたんじゃなかったの?」
「ん? 別に····。あぁ、それ結人を見つけた瞬間かもしれねぇな」
「わー、なにそれー。結人見つけて微笑むとか、甘いんですけど~」
「俺ら、ゆいぴ見た瞬間に顔緩みすぎてるとは思ってたけど、朔と場野はさぁ····ねぇ?」
「俺らは遊び人みたいなイメージあるからなんとも思われねぇけど、君ら2人は結人限定だからね。気ぃつけないとダメよ?」
「そうか。気をつける」
「それより、結人。結果は? 誰が1番だったんだよ。まぁ、俺だよな?」
八千代が髪をかきあげ、強烈な壁ドンを繰り出した。
「ひぇっ····」
「場野、それ脅迫だって。ちゃんと結人にジャッジしてもらわねぇと、な?」
「ゔ~~っ······決められないよぉ。皆カッコ良かったんだもん····」
「んあぁ~~~っ····俺、生きてて良かったぁ」
りっくんが涙目で天を仰いだ。
「やっぱなぁ~。じゃ、それぞれとしよっか、デート」
「······啓吾、初めからそのつもりだったでしょ!?」
「あ、バレた~?」
「途中で気づいた。僕が選べないのわかってるなって」
「さっすが結人! 順番はジャンケンでもしとくわ」
「せっかくゆいぴと2人きりでデートできるんだったら、ちゃんとエスコートしたいな。あっ、全員とデートし終わるまで、感想とか行ったトコとか言わないこと! じゃないと後になるほど有利になるからね。まぁ、絶対俺が1番満足させるけどね」
「は~ん、面白ぇ。誰が1番だって? 俺に決まってんだろ」
「はいはい。そういうのは結人が決める事だからね~。じゃ、そういうことだから、結人は楽しみにしててね」
「うん!」
「なぁ、貸切とかって有りか?」
「やめて? 僕、貸切なんて落ち着かないよ」
「そうか。わかった」
「これだから金持ちは····。普通の! 高校生らしいデートね! 大前提として、結人が困んないようにね。特に朔。やっていいかわかんない事あったら、動く前に俺らに聞いてね」
「おう。助かる」
朔がまるで、おつかいの注意事項を伝えられる子供のようだ。
とんだ事件が起きてしまった体育祭だったが、みんなの雄姿も見られて、結果オーライな1日だった。
因みに、縦割りのクラス毎でブロック分けされ優勝を争うのだが、優勝は我らがCブロックだった。僅差で敗北してしまったBブロックのりっくんは、朔と八千代が居るブロックに勝てるわけがないと愚痴っていた。
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