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case.りっくん-2

「はい、アイスティーだよ」  ベンチで座って待っていた僕に、ちょうど飲みたいと思ったいた物を的確に与えてくれる。それは、りっくんに限った事ではない。僕の恋人たちは、一様に僕の思考を読み取ってしまうのだ。 「なんで毎回、みんな僕が欲しい物わかるの? 超能力あるの?」 「あー····っとね、言っていいのかな····。ゆいぴ自覚してないと思うけど、欲しい物ジッと見る癖あるんだよね」 「え!? ホントに!?」 「うん。めっちゃ可愛く見つめんの。ほんの数秒程度だけどね。たぶん皆、朔ですら気づいてるよ」 「そうなの!? えー····気をつけなくちゃ······。うわぁー······なんか、すごい恥ずかしいや······」  エスパーなわけがなかった。単純に、僕自身が無意識でやらかしていただけだった。 「やだ。見てよ。ゆいぴの欲しい物わかりやすくて、こっちは助かってるんだから」 「やだよぉ。凄いお強請りしてるみたいじゃない」 「だったら、いっその事お強請りしてよ。ね、今何が欲しい? そろそろ、おやつ食べたいんじゃない?」  りっくんは僕の腰に手を回し、耳元に擦り寄って聞く。 「やぁっ、何? そんなえっちな聞き方しないでよ····」 「普通だよ?」 「普通じゃないよ! ····ちょっと待って。僕以外にもそんな風に話すの?」 「ゆいぴ以外にこんな密着しないよ。これまでの彼女にだって、こんな接し方しなかったよ」  りっくんは意地悪く、耳元で話し続ける。どんどん顔が紅潮していくのがわかる。 「ひぁ····りっくんも声えっちなんだから、耳元で喋んないでぇ」  耳から顔まで熱くなってしまった。なんでこう、僕の彼氏たちは声まで良いのだろう。僕って、声フェチだったのかな?  僕はあまり声変わりしなかったから、そんなに低くならなかった。だから、男らしい声が少し羨ましい。皆のは特に、耳に心地良い低音なんだもん。   「ハァ····。ゆいぴ、それ飲んだら行きたいとこあるんだけど」 「んぇ? 飲みながらでいいよ?」 「そう。じゃ、行こうか」  この時、りっくんの顔を見て気づくべきだった。僕がまた、無意識に煽ってしまっていたことに。  りっくんに手を引かれ、すぐ近くの爬虫類ハウスに入った。ここはさっき一度見たのだが、もう一度見たいのがあるのかな。 「ねぇ、行きたい所って? もう1回見たいのあるの?」 「うーん。見たいのは動物じゃなくて、ね、ゆいぴのいやらしい顔かな」 「え、何それ──っ」 ──ダンッ    「んぁっ」  人気(ひとけ)のない通路で壁ドンされ、激しく深いキスをされた。  この間、八千代に注意してた口で僕の口を犯してくる。これだから、りっくんの理性を飛ばすなと言われるんだ。 「ぁ····ふぅっ····はぁ······んぅっ」  あまりにガッツいてくるから、思うように息ができない。脳が酸欠になっていくのがわかる。ふわふわして気持ち良い。 「んっ······んはぁ····。ごめん、もうちょっと····」  余裕の無いりっくんは、とんでもなくえっちだ。僕の顔を両手で包み、本当に食べてしまうかのように貪ってくる。 「人、来たらどうするのぉ」 「んー? 見せつけてやる」  珍しく(いか)つい目をしたりっくんが、舌なめずりをして再び口を犯しにくる。さっきよりも激しく舌を絡め、僕の唾液を啜ってしまいそうなほど吸われる。こんなにされると、腰が抜けてしまうじゃないか。 「待って(んぁっへ)りっくん(いっぅん)」 「ん?」  反応はしてくれるけど、1秒も待ってはくれない。 「だめ(あぇ)腰が(ほひぁ)····」  伝わったのか、腰をグッと抱き寄せられた。けれど、そういう事じゃない。腰が抜けたら、この後どうするつもりなんだろう。 「んはっ····。ゆいぴ顔やば。えっろ」  りっくんは口の周りを指で拭った。その仕草といい、僕を見るやらしい目つきといい、僕の理性を飛ばすのに充分事足りた。 「腰、抜けちゃったでしょぉ····も、ばかぁ」  りっくんは僕を抱き上げると、ハウスの出口付近にある休憩所のベンチに座らせてくれた。 「ホントごめんね。ずっと我慢してたんだけど、ゆいぴのエッチな声聞いたらぶっ飛んじゃった」  口調は普段通りなのに、顔が全然戻っていない。目が座ったままだ。紅潮した頬から、昂揚具合が窺える。 「ねぇ、ちょっとだけえっちしたい。りっくんのこれ、欲しい····」  僕は、りっくんの硬くなったものをズボン越しに撫でた。お強請りって、こんな感じで合っているのだろうか。 「上手にお強請りできんじゃん。狡いなぁ····。わかった。じゃ──」 「ん。我慢できない····」  りっくんの服の裾を摘み、上目遣いを駆使して欲しがってみた。これには、流石のりっくんも呆れた顔をした。少し、露骨すぎただろうか。 「はぁー······こっち来て」  りっくんは、トイレの個室に僕を連れ込むと、鞄から洗浄セットを取り出した。 「りっくん、いつもこんなの持ち歩いてるの? そんなに僕とえっちしたいの?」 「したいに決まってるでしょ。ゆいぴが死んじゃわないなら、一日中犯してたいよ。ずっと結人のナカに居たい。····だから、あんま煽んないでって言ってるでしょ」  りっくんは興奮のあまり、息も絶え絶えに言葉を漏らす。単純な僕は、その色気にアテられてしまう。 「りっくんの理性ぶっとんだ時ね、結人って呼ぶのドキドキするから好き」  りっくんが洗浄セットを手放し、勢い良く僕の顔を包んで扉に押し付けた。ハァ、ハァと、息を漏らしながら、僕の耳に声を流し込む。 「そう。だったら時々呼んであげるね。すっごくエッチに“結人”って」  耳が溶けてしまうかと思った。ゾクゾクが全身を駆け巡る。 「んやぁっ」 「あれ? もしかして、耳でイッた? っはは。おもしろ。今日は挿れないで、こっちでいっぱいイかせちゃおっかな」 「なっ、やだよぉ」 「挿れなくてもイけるでしょ? 俺の声だけで」  吐息混じりに耳に流れ込んでくる、脳が痺れるような低く甘ったるい声。腰と腹の底をズクンッとさせる。 「ふぁ····ん、その声やだぁ····ホントにイッちゃう」  全神経が耳に集中する。首筋から顎をそっと持ち上げ、耳を()みながら囁く。  りっくんは、僕のおちんちんを出して、先を手で軽く包んだ。自分の手に出させるつもりらしい。本気で、耳だけでイかせるつもりなんだ。 「ホントに声だけで、耳でイけそうだね。あはっ、イかせてあげる。あ〜····結人のえっちな声聴いてたら、俺までイッちゃいそう。ねぇ、イッていいよ?」 「あぁ、んんっ、えっちすぎるよぉ····」  喘ぎ声の様ないやらしい声を出すから、本当にえっちしてるみたいだ。ゾワゾワが止まらない。 「あぁ····可愛いなぁ····んっ、ほら結人、イけよ」  普段は絶対に命令口調でなんて言わないのに、こんなの狡い。耳だけでイカせると言ったのに、時々おちんちんの先っぽを小指で弄る。先走りでヌメっている所為で、にゅるにゅるして気持ち良い。  そして、1番驚いたのは、言葉に身体が従うよう躾られていた事だ。 「んっ····んあぁっ」 「ははっ。ホントにイッちゃったんだ。ゆいぴの身体、俺らにどんどん変えられちゃってるね。すっごいえっちに····」  耳に絡みついてくるように、ねっとりとした話し方。まるで、耳に射精されているようだ。不思議と、耳だけでなくお腹の底まで熱い。 「あれ? また軽イキした? 出てないけど····ナカでイッたの? 可愛いなぁ······あー····ダメだ。止まんなくなる。ゆいぴ、1回落ち着こう──って、ちょっ!?」 「りっくんにも気持ちくなってほしぃ····」  僕は、りっくんのズボンのファスナー手をかける。 「う、嬉しいけどダーメッ」 「なんでぇ? りっくんの、食べちゃダメなの?」 「ン゙ーッ······今日はダメ。俺が連れ込んだのにごめんね。でも、今日はそういうの無しって決めてるから」 「もう、したよね?」 「まだシてない。ゆいぴのナカに入ってないからセーフ」 「むぅー······わかった」   「むくれないでよぉ。可愛いだけなんだからぁ」  いつものりっくんに戻ってしまった。少し残念だ。りっくんの、ナカに欲しかったな。  ペースを取り戻したりっくんは、この後の予定に従い、本屋さんに連れて行ってくれた。僕が欲しかった本が取り揃っている、大きな本屋さんだ。見ているだけでも楽しい。 「りっくんは、いつもどんな本読むの?」 「んー、俺は小説だったらミステリーが多いかな。漫画は友達に借りて読んだりしてたけど、最近は自己啓発本読んでみたり······いや、ゆいぴの見たい本は?」 「あー······大丈夫」  なんて言うのは嘘だ。見たい本は山のようにある。しかし、ほとんどが本棚の上部あるから届かない。人が多いから、脚立に乗ってモタモタするのも恥ずかしい。こんな時は、だいたい諦めるのが定石だ。 「そうなの? アレは? こないだ気になるって言ってたヤツじゃない?」 「うっ····べ、別にぃ······」 「ん? あぁ〜······」  りっくんは、何かを察したように、その本を取ってくれた。背伸びもせずに届くなんて、なんて羨ましい身長なんだ! なんて羨ましい手の長さなんだ! 悔しすぎて、文句の一つも言えずに受け取った。 「見たいのあったら言ってね。俺は居ないと思ってゆっくり見てくれていいからね。違うのが良かったら、遠慮しないで言ってね」 「申し訳なさすぎるんだけど······」  と言いつつもそうしてもらい、りっくんも一緒に読めそうな物を数冊買った。今度貸してあげよう。  夕飯は、りっくんお勧めのパスタを食べた。ムール貝が乗った、お洒落なやつだ。どうしてこうも、りっくんが絡むと全部がお洒落に見えるのだろう。  食べ終わると、宣言通り真っ直ぐ帰路についた。家まで送ってもらい『また明日、学校でね』と言うと、キョロキョロと周囲を見回し、優しくバイバイのキスをしてくれた。  今日は、もっと大人っぽいデートコースかと思って気張っていたけど、全然そんな事はなくて。僕が変に気負わず、目一杯楽しめるコースにしてくれたんだと思う。注意点は2つとも守れなかったけど。  噂で聞いていた感じだと、りっくんのデートコースは大人っぽいと女子が騒いでいた。動物園なんて、絶対に行かなかっただろう。本当に、僕の事しか考えていないんだから····。  だけど、また今度こんな機会があったら、大人っぽいデートコースでお願いしてみようと思う。自分の嫉妬深さには、ほとほとウンザリだ。

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