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case.朔

 僕を1人にしないのを原則として、待ち合わせ制度が禁止されてしまった。なので、朔が家まで迎えに来てくれた。まさか、彼氏が迎えに来てるとは思わず、母さんが『イケメン過ぎるお友達』とキャッキャしていた。気持ちは分かるが、なんだか恥ずかしかったので、そそくさと家を出た。 「朔、ごめんね。母さん、朔がカッコイイからって、変にはしゃいじゃって」 「ん。気にしてないぞ。可愛いお母さんだな。元気そうで良かった」  最近は、とても調子が良いと言っていた。父さんの転職も本決まりになり、近々家に帰れると連絡があったそうだ。勿論これはただの引き抜きで、朔たちの力が及んでいることなど、父さんたちは知る由もない。 「本当にありがとう。朔と、たぶん八千代もだよね。おかげで、父さんが帰ってくるからだと思う。気持ちが安定してるみたいなんだ」 「俺は特に何もしてねぇぞ。それに、結人と一緒に住みてぇってのは、俺の我儘でもあるしな。自分の我儘通す為に動いてんだ。結人が気にする事はねぇよ」 「ふふっ。朔は本当に、かっこいいなぁ」  思わず、笑みが零れた。こんなキザな事を、素で言ってしまう朔が好きだ。僕なんかには勿体ないくらい、カッコイイんだから。  話しながら歩いていると、あっという間に目的地に着いた。  連れてこられたのは近所の商店街。デートスポットってわけでもないと思うのだけれど、朔の意図が読めない。 「なんで商店街?」 「莉久に聞いたんだ。商店街に行くと面白いって。良いもんが見れるって言ってたぞ。あと、結人の好きなパン屋があるって言ってた。そこのクリームデニッシュが好きなんだろ?」 「うん。好きだけど、なんでりっくん知ってるんだろ。言った覚えないんだけどな····」   「そうなのか?」 「まぁ、りっくんだしいいや。それにしても、特に面白い物って思い当たらないんだけどな····。とりあえず、他にも僕のお勧めのパン教えてあげるから、行ってみよっか」 「頼む。俺もパン好きなんだ」 「そうなんだ。意外····なんか、お米好きそうなイメージだったよ」   「米も好きだけどな、どちらかと言うと洋食派だ」 「僕と一緒だ」  僕たちは、甘々のカップルみたいに微笑み合いながら歩いた。  商店街に入ってすぐの精肉屋さんの前を通ると、いつも通り声を掛けられた。  「結人くん、おはよう! 今日はお母さんと一緒じゃないの? かっこいいお友達だねぇ。これ、コロッケ持って行きな。熱いから気をつけてねぇ」 「わぁ! 高田のおばちゃん、ありがとう! いただきます。朔、このコロッケね、すっごく美味しいんだよ」 「そうなのか。あ、俺の分もあるのか。ありがとうございます」  商店街の中腹にある神社の前を通ると、今度は神社の中から声を掛けられた。   「あらぁ、結人くん、おはよう。今日も可愛いねぇ。はい、これ。飴ちゃんね。お友達の分もどうぞね」 「······ありがとうございます」   「佐々本のおばあちゃん、ありがとう。腰大丈夫? 荷物、バス停まで持って行こうか?」 「大丈夫だよ。そこの喫茶店で飯野さんとお茶するから。ありがとうね」 「そうなんだ。飯野のおばあちゃんにもよろしくね。気をつけてね」  こんな調子で、会う人に色々食べ物をもらい、パン屋さんに着く頃には両手一杯になっていた。   「すげぇな。いつもこんな感じなのか?」 「小さい頃から、母さんと一緒によく来てたからかな。みんな良い人達でね、いつも色々くれるんだよ」 「それはお前····結人が良い子だからだろう。ふはっ····可愛いしな」 「えー、何それ。あっ! パン屋さん、ここだよ」  僕のお勧めのパンを数個ずつ買って、近くの公園で食べることにした。 「商店街、何か面白い所あった?」 「あぁ、莉久が言ってた通りだった。すげぇ良いもん見れた」   「ホントに? 何が面白かったの?」 「結人」  朔は僕を見て、にっこりと微笑んだ。それは、とても温かく優しい笑みだった。 「へ? 僕?」 「結人が愛されてんのがわかった。お前を喜ばせる為のデートなのに、俺が幸せになっちまってんな」  朔の言っていることはイマイチ分からないけど、朔が幸せだって言ってくれたら僕は嬉しいのに。 「朔が幸せだったら僕も嬉しいよ?」 「お前は····本当に天使か」 「朔って、たまに壊れた事言うよねぇ」 「いや、事実だろ。にしても、このパンすげぇ美味いな」  朔はクリームデニッシュを頬張り、口元に付いたクリームを指で拭う。普段は物静かで仕草なんかは上品なのだが、食べ方はガツガツと男らしい。 「でしょ!? 今度ね、夕方限定のソーセージパン食べさせてあげるね。皆で食べよ」 「ああ、楽しみにしてる」  パンを食べ終え、次の目的地に向かう。次は水族館へ行く予定らしい。僕の好きそうな場所を調べてくれているんだなぁと思うと、なんだかこそばゆい気持ちが湧き上がった。  駅に着くと、時計は間もなく正午を示そうとしている。さっきパンを食べたのに、案外お腹は空くものだ。   「そろそろお昼だね。ご飯どうする?」 「飯な····。本当は、凜人のオムライスって思ってたんだ。けど、俺ん家に連れて行けなくなっちまって····」 「どうしたの? 何かあったの?」  朔が、とても落ち込んだ顔をしている。何か、深刻な問題でも起きたのだろうか。   「場野に『俺が居ない時に絶対家に連れて行くな』って言われた」 「そ、そうだったね····。まぁ、当然だよね。八千代、凜人さんにすっごく怒ってたもんね」 「あぁ。だから、わりぃけどオムライスはまた今度な」  この約束が実現されるだろうかと、些か不安に思う。八千代を連れて行ったら、凜人さんと揉めるんだろうな。想像しただけで厄介そうだ。 「あはは。気にしないで。それに関しては僕も悪いんだし。えっと、それじゃぁ何食べよっか····」 「寿司だ」 「す、寿司? ····お寿司だったら、新幹線で届けてくれるトコがいいな」 (黙ってついてったら、絶対高い所行きそうだもんな······) 「····!? 何だそれ。何処で握って持ってくるんだ?」 「え、厨房でしょ?」 「店内に厨房無いのか?」   「······あるでしょ」 「だったら、なんでわざわざ新幹線で運ぶんだ?」 「····? あ、あ~! あっはははは! 違うよ朔、本物の新幹線じゃないよ」  僕は、注文した品物を新幹線の模型に乗っけて運んでくれる、回転寿司屋さんがある事を説明した。  朔は、回転寿司に行ったことがないらしい。どうりで、話が噛み合わないはずだ。 「結人は、回ってんのと回ってねぇの、どっちの寿司屋がいい?」 「朔の反応見たいから、回転寿司がいい」  と言うのも本音だが、放っておいたら本当に際限なくお金を使いそうなので、リーズナブルな方にしておこうと思った。だって、まだお昼ご飯なんだもの。    案の定、店内でお寿司がぐるぐる移動している様子や、新幹線で運ばれてくる品物を見ては、子供のようにはしゃいでいた。相当物珍しかったのだろう。  朔は初めて見るもの全てに、新鮮に喜んでくれるのが可愛い。朔には、初めての体験というのを沢山してもらいたくなる。  たらふくお寿司を食べて、ふと気づいた。  八千代とりっくんは、自発的にえっちをしないと決めていたが、朔はどうなんだろう。朔も同じなのだろうと勝手に思い込んで、後の事など考えずに食べてしまった。  けれど、朔が何も言わないのだから、あまり考えないようにして水族館へ向かう。水族館が好きな事も、りっくんに聞いたのかな? 「結人、あれ知ってるか?」 「ウミガメ?」 「スープにできるらしいぞ」 「えっ、ウミガメを? なんか可哀想だな····」 「けど、ウミガメのスープって有名らしいぞ。相当美味いんじゃないのか」   「ん~····? それってアレじゃない? 水平思考クイズってやつ」 「水兵····なんだ?」  朔は頭が良いのだけど、少し抜けているというか、天然なのだろうか。ちょっとズレているところがあるなと、薄々思っていた。 「クイズだよ。出題された問題に質問して、Yes・No・関係ないで答えるの。それで、問題の真相を暴くって感じのヤツ」 「面白そうだな。今度みんなでやってみたい」 「うん。楽しそうだね」 「お、見てみろ。イワシ····か? 美味そうだな」 「水族館で美味しそうはダメだと思うよ。飼育員さんが大切に育ててるんだから」 「そうか。そうだな。んー····元気に泳いでるな」 「あっははは。元気に泳いでるね。けど、僕も美味しそうだと思うよ」 「お前、結構イジワルだよな。晩飯、イワシの天ぷらとかどうだ?」 「美味しそうだね。あっ····んふふ。なんか今の会話、夫婦みたいだね」  何気なく放ってしまったこの一言が、朔のよく分からないスイッチを押してしまったらしい。 「どっかに一妻多夫制の国ねぇかな。正式に結人と結婚してぇな」  周囲に居たカップルが、こちらをチラッと見た。当然の反応だろう。   「なっ、ちょ、朔さん!? 外でそんな話しちゃダメでしょ!?」 「だって····そしたら結人と堂々と外で手ぇ繋げるんだぞ?」 「待ってね。僕、男だって忘れてない?」 「ん? 忘れてねぇぞ。可愛いちんこ付いてるだろ」 「あーあーあー! 朔、いい加減してよっ! て言うか可愛いって言わないでよ! 皆のが規格外なだけでしょ!?」  ああ、もう。僕は公衆の面前で何を言っているんだか。キョトンとしている朔に、段々腹が立ってきた。けれど「何言ってんだ?」みたいな顔が可愛い。 「はぁ······。サメ、見に行こっか。朔、サメ好きそうだよねぇ」 「すげぇ話の逸らし方するな。····サメは好きだけどな」 「なんか、朔ってサメっぽい。いや、サメが朔っぽいのかな? ね、僕は何っぽい?」 「そうだな····クリオネ」 「あー、可愛く見えて捕食する姿が凶悪っぽいヤツね。初めて言われたよ」 「お前、意外と毒舌だし、思った事はっきり言うもんな。そういうトコも好きだ。モジモジしてるより良いと思う」 「そ、そんなはっきり好きって言われると照れるな····」  恥ずかしくて俯いていると、朔が手を繋いできた。 「ちょっと····、なんで普通に手繋ぐの? 僕、外ではダメって前に言ったのに····」 「どうせ、場野と莉久も繋いでたんだろ? アイツら、人に言う割にやりたい放題だからな」  そういう朔だって、充分やりたい放題だと思う。それに、良い意味で図々しさが増したというか、変な遠慮が無くなってきた。  けれど、外で手を繋ぐのは、やはりマズイのではないだろうか。  とは思いつつも振り払うことなどできず、水族館を出るまでずっと手を繋いでいた。なんなら、途中肩を抱かれたり腰に手を回されたり、完全にカップルしていた。ストッパーが居ないと、なんだかんだ朔が1番やりたい放題だ。    夕飯はステーキだった。イワシは何処へいったんだか。  大好きなステーキが美味し過ぎてテンションが上がり、朔の服の裾を摘まんで『美味しかったね』と言った。自分でも、だらしない笑顔だったと思う。   「····やっぱ帰したくねぇ」  満腹で駅へ向かう途中、突然肩を抱き寄せて言われた。それは、どこかへ連れ込まれるという事だろうか。すっかり失念して、また満腹になるまで食べてしまった。後悔すれども、時すでに遅し。 「け、けど、あんまり遅くなるのは····」 「少しだけ時間くれ。9時には家に帰すから」  朔の昂った瞳に何も言えず、黙ってホテルに連れ込まれた。  時間を気にしてくれているのか、いつもよりも手際良く、たったか洗浄を済ませた。それでも、やっぱり優しいし丁寧だし、どれだけ焦っていようと一切手は抜かない。もう本当に、愛情以外の何物でもない。僕は、恵まれすぎていると思う。 「朔、朔ぅ。朔のおちんちん、先に食べていーい? ローションつけたら、食べさせてくれないでしょ?」  朔に抱きついて、頑張ってお強請りをしてみた。こんな感じでいいのかは分からないけど、指を咥えて見ているだけじゃダメなんだ。そんな狡い事はしたくない。  それにしても、甘えたり強請ったりを上手にって何なんだろう。りっくんは時々、漠然として難しい要求をしてくる。 「ん、いいぞ。無理はしなくていいからな」 「うん。朔、優しいね。大好き」 「俺も好きだ。······本当は今日、抱く気はなかったんだ。お前に楽しんでもらうだけのつもりだったのに····。ダメだな。結人が可愛すぎて自制がきかねぇ」 「えへへ。僕、抱いてもらうのも嬉しいよ? なんで皆、えっちが僕の負担になってると思ってるんだろ」 「しんどくないのか? 4人も相手にしてんだろ。自分で言うのもアレだけど、それぞれ激しいだろ。毎回グデグデになってるし、最悪失神だろ?」 「ん~····しんどいなって思った事ないよ。いっつもすっごく気持ちぃから」 「そうなのか? 俺らはてっきり、結人に負担かけてるとばっかり····」  朔は、とても驚いた顔で言った。皆が、そんなに気を揉んでいたなんて知らなかった。 「良すぎてふわってしちゃうけど、皆遠慮してくれてるのはわかるから····」 「当たり前だろ。俺らは、お前を大事にしてぇからな」 「けど、僕ばっかりデロデロにされちゃって、申し訳ないって言うか····。もっと好きにしてくれていいのになぁって。皆にももっと気持ち良くなってほしいんだけどなぁ」 「お前、んな事言ったらぶっ壊されんぞ。特に場野と莉久に。気ぃつけろよ」 「ん、朔は? 壊さない?」 「······さぁ?」  朔は妖艶な笑みを浮かべ、僕のナカを蹂躙(じゅうりん)する。鷲掴みにされたお尻が少し痛い。 「あっ、朔、お尻····潰れちゃう」 「結人のケツ、小さくて可愛いもんな。本当に潰しちまいそうだ」 「やぁっ、潰さないでぇ····」  奥にねじ込む度、お尻の肉が波打つ。僕の嬌声と朔の吐息に混じり、肌を打ちつける音が響く。吐かない程度に加減してくれているようだが、奥の扉をこつかれると、やはり少し込み上げる。  奥の部屋までは挿れないように、入口の方を執拗にぬぽぬぽしてくる。朔はワザと、ちゅぽちゅぽと水音を立てて、僕の羞恥心を掻き立てる。 「んっ、音やだぁ」 「恥ずかしいのか? すっげぇ締まるな」 「恥ずかしい····音がえっちだよぉ」 「でも好きだろ? 恥ずかしい事されんの」 「んやぁっ、好きっ、意地悪されるの、好きぃ」 「ははっ。変態だな」 「はぅんっ···耳元で、そんな事言わないでぇ」 「結人、そろそろイクぞ」 「あっ、朔っ、朔ぅ····僕もイク····朔、イッちゃうよぉ」 「ふぅ、んあぁっ」  僕が名前を呼ぶと、朔は耐えきれなくなったのか声を漏らした。その声がとてもえっちで、僕はまた耳でイッてしまった。  奥には挿れこそしなかったが、扉を少し押し開けて、そこに注ぎ込まれた。その快感がなかなか引かず、僕は浅い眠りに落ちた。  気がつくと、僕は綺麗にされていて、朔は帰り支度も整っていた。 「よし、服着せてやるからこっち来い」 「服くらい自分で着れるもん」 「俺が着せてぇ」 「パ、パンツくらい自分で履かせてよぉ」 「ダメだ。俺がやる」  朔からの圧が凄くて、おずおずと下着を差し出した。珍しくルンルンとした朔は、片脚を通し、もう反対も通す。そして、お尻を入れると、おちんちんをそっとしまった。ポジションまでバッチリなのが変な感じだ。  朔は予告通りの時間に、きっちりと家に送り届けてくれた。八千代やりっくん同様、バイバイのキスしてくれたのだが、朔は一切周囲を確認しなくて肝を冷やした。 「もう、朔! 誰かに見られたらどうするの!?」  小声で咎めたが、朔は意に介さずニコッと微笑んで言った。 「俺のですって言うしかないな」  そういう事ではないのだが、王子スマイルに負けて何も言い返せなかった。ご満悦の朔は、見えなくなるまで何度も振り返り、小さく手を振っていた。その可愛さたるや、180cmの大男とは思えない。こんなに胸を締め付けられるなんて、不覚だ。  明日は啓吾とのデート。正直、1番気が楽そうだ。

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