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頑張るって決めたのに
釣った魚を食べてお腹がいっぱいになったところで、日暮れ前に僕たちは別荘に戻る。夕飯まで時間があるので、別荘の周りを散策することにした。
「ゆいぴ、結構暗いから足元気をつけてね」
「りっくんこそ、サンダルで大丈夫?」
「完全にミスった。こんな険しいと思わなかったんだもん」
別荘の裏手にある雑木林の中。そこそこ険しい山道で、軽装で挑むべきではなかったと後悔している。
「そんなに険しくねぇだろ。俺なんか、ガキの頃からサンダルで走り回ってたぞ」
「これだから野生児は····。おわぁっ!!?」
りっくんが呆れて八千代を見た途端、足を踏み外して急斜面を滑り落ちた。1メートルくらい下に、葉っぱまみれのりっくんが居た。
「りっくん大丈夫!? 怪我してない?」
「してないよ。けど····はは、だっせぇ」
「莉久、上がってこれっか? 手ぇ貸す?」
「んー、靴だったら上がれんだけどな····。いいや、啓吾引っ張って〜」
啓吾が木を持って手を伸ばす。勢いよく引っ張ると、木が折れてしまった。僕の腕くらいの木だもの。そりゃ、折れるよ。
「「わぁぁぁっ!!」」
啓吾がりっくんを押し倒し、2人して葉っぱまみれになっていた。
「もう、何してんの!? 2人とも、怪我してない?」
「あははっ、大丈夫。莉久が受け止めてくれた〜」
「おまっ、受け止めなかったらキスしてただろ!?」
あわや、キス寸前だったらしい。怪我がなくて何よりだ。葉っぱまみれになった2人を、八千代と朔で引き上げて探索を続ける。
自然の中で清々しい空気を沢山体に取り込んで、凄く気持ちの良い散歩だった。別荘に戻ると、凜人さんが豪勢な食事を用意してくれていた。
「ただいま戻りました。はぁ〜、いい匂い····」
「おかえりなさいませ。丁度、お食事の支度ができたところです」
「わぁ!! すっごい美味しそう!」
「どうぞ、ゆっくり召し上がってください」
「はい! いただきます!」
僕は、手を洗って意気揚々と席に着く。どれもこれも美味しそうで、涎がじゅわっと溢れる。
食事の後片付けを終えると、凜人さんはコテージのほうへ戻ってしまった。一緒にお茶したり、もう少しお話したかったな。なんて、八千代の前では言えないけれど。
「よし、風呂行くか」
「ねぇ、僕ね、今日こそ1人でシてみたいんだけど····」
「俺らにされんの嫌?」
「違うよ、啓吾。あのね、皆にシてもらう為にね、自分で準備できるようになりたいなって思ってたんだ」
「ゆいぴ、頑張ってたもんねぇ」
「えっと··そう。りっくんに教えてもらっててね、そろそろできるかなって。だから、その····皆に待ってて欲しいなって。····ダメ?」
「ん゙ん゙っ······何時間でも待つよ。ゆいぴ、わかんない事とか、やっぱ無理ってなったらすぐ呼んでね。一瞬で行くから」
「うん。わかった。それじゃ、えっと、えーっと、待っててね」
僕は、皆を受け入れる支度をする。りっくんに教えてもらった事や、いつも皆にシてもらうのを思い出しながら、綺麗にして解してゆく。
一生懸命するけど、皆にシてもらうみたいに上手くできない。それに、やはり自分でシても気持ちいいとは思えない。
漏れる声が情けない。気持ちいからではなく、戸惑いや自分の下手さに嫌気がさして泣きそうなのだ。けれど、このままではまだ挿れてもらえない。なんとか、皆にシてもらっている程度には解さないと、僕のお尻が壊れてしまう。
しかし、皆を待たせているという焦りからか、余計な力が入って思うように解せない。ついに、涙が零れ落ちた時、浴室の扉が開いた。
「結人、大丈夫か? 遅いから心配で見に──っておい、どうしたんだ!? なんで泣いてんだ」
「朔····、違うの、えっとね、皆みたいに上手く出来なくて、気持ちくなれなくて、それで····時間かかっちゃって、皆が待ってるのに······」
「なっ、結人!? 落ち着け。大丈夫だから。後は俺がやってやるから泣くな。な? 」
「ふぇっ······でも、自分でするって言ったのに····待っててって言ったのに····」
ボロボロと泣き出してしまった僕を、朔が抱き締めてくれた。服も脱がずに、びしょびしょの僕を優しく包んでくれる。おかげで、焦りや不甲斐なさが溶けだして涙もひっこんだ。
「結人、俺らはお前に無理させたいわけじゃねぇんだ。だから、ゆっくりでいい。お前が頑張ってんのは知ってるから。それに、できないままでも俺らが喜ぶだけだから、気にしなくていいんだぞ」
「でも、でもぉ····」
「んなこったろうと思ったわ。お前が俺らなしで何もできねぇように、俺らがそう仕込んでんだからな。お前がそれを負い目に感じなくていいんだよ。悪いんは俺らだろ」
朔の後ろから、八千代が覗き込んで言った。皆の所為で僕が何もできないと言うが、それは僕が甘えきってしまっているからで、ダメなのは僕だ。
「ゆーいとっ。俺らが結人の事甘やかしてんのはねぇ、俺らが結人に捨てられない為でもあるんだぜ?」
「そうだよ、ゆいぴ。俺らなしじゃ生きていけないくらいダメにしたいの。そしたら、俺らから離れらんないでしょ?」
啓吾とりっくんも来ていたようで、それぞれ勝手な事ばかり言う。どうして、こんなにも僕に甘いんだ。
「そうだぞ。だから、悪いのは俺らだ。結人は俺らにずっと流されていてくれたら、俺らはありがたいんだけどな」
「皆、甘すぎるよ····。僕だって皆のこと大好きなのに、皆の為になんにもできないじゃない····」
「お前は一緒に居てくれるだけで充分過ぎんだよ。今日はもう朔にやってもらえ。あとで迎えに来てやっからな」
そう言って、八千代は僕の頭をくしゃっと撫でた。
八千代たちが部屋に戻ると、朔は僕の洗浄の仕上げを始めた。やっぱり、シてもらうとちゃんと気持ち良くて、解れるのもあっという間だ。
「朔、もう··んぁっ、大丈夫····イッちゃう····」
「いいぞ。イケなくて苦しかったんだろ? いいから、そのままイけ」
「ひあぁぁっ、指、激しいっ! ダメッ、あぁぁっ····イクぅ!!」
「結人、自分でできないのは辛いか?」
「辛いって言うか、悔しい··のかな。僕もね、皆を喜ばせたい」
「ははっ。お前が笑ってくれるだけで、俺らは喜んでるぞ? もっと喜ばしてくれんのか?」
僕だって、皆が笑っていたら嬉しい。それに加えて、こんなにも甘やかされているのだ。全然対等じゃない。
「僕にできることなら何でもしたいよ。けど、思うようにできなくて、凄くもどかしいの。皆に愛想尽かされないか不安だし····」
「そうか、不安だったのか····」
朔は考え込んだまま、手早く解して八千代を呼んだ。そして、部屋に戻ると朔は、僕の心中を皆に伝えた。
「そんな不安だったの? バッカだな〜。俺らが結人に愛想尽かすわけねぇじゃん」
「俺らがゆいぴをダメになるくらい甘やかしといて、本当にいつか捨てると思うの?」
「思いたくないけど、でも、逆になんでこんなに何もできない僕に愛想尽かさないの?」
「「「「可愛いから」」」」
「······可愛くなくなったら?」
「安心して。ゆいぴは一生可愛いから」
「意味わかんないよ····」
「可愛くなくても、俺は結人が好きだよ。結人の中身が好きだもん」
「俺もだ。見た目はまぁ、可愛いに越した事はないけどな。結人の性格とか、そういうのも全部ひっくるめて好きだから」
「俺らはなぁ、お前を甘やかしてグデグデにすんのが好きなんだよ。それをお前が、自分でやるだの頼りたくねぇだの、俺らのほうが拒否られてんのかと思って焦るわ」
「そ、そうなの? そんなんじゃないんだよ。僕だって皆に喜んで欲しくて──」
「結人のそういうトコが好きなの。いっつも俺らの事ばっかじゃん。もっと素直に甘えて欲しいんだけどな〜」
「もう充分甘えてるでしょ?」
「この話、多分堂々巡りになんねぇか? 結局、結人は自分ができない事に不安を感じちまうんだろ?」
「そうだねぇ。どうしたらゆいぴが安心できるかなぁ····」
「結人が俺らに世話されんのに慣れたらいいんじゃね? 我儘なお嬢様くらいにさ」
「それは結人の性格的に無理だろ。けどまぁ、慣れさせんのはいいかもな」
八千代が何かよからぬ事を考えているようだ。悪い顔をしている。きっと、この旅行の間、僕を甘やかしたおすとか言い出すのだろう。その手には乗らないんだから。
僕は、明日もリベンジするつもりだ。だって、啓吾の誕生日に、自分で準備して啓吾を迎え入れたいのだから。
啓吾はそういうの、凄く喜んでくれそうだから頑張るんだ。そう意気込んでこの旅行に臨んだのだから、ここで諦める訳にはいかない!
しかし、これでは埒が明かないと言って、啓吾が僕にちょっかいを出し始めた。それに続いて、りっくんも僕に襲いかかる。
八千代の番の時、案の定僕を甘やかしたおす宣言をされたので、丁重にお断りした。したところで、勝手に甘やかしてくるのだろうけど。それに乗じるつもりはないんだ。
そして、朝方まで抱き潰され、ボロ布の様になった僕はお昼前まで眠った。
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