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珍事につき

 えっち三昧だった冬休みも終わり、3学期を迎えた。もうすぐ、高校生活も終わるんだ。そう思うと、寂しさが込み上げる。  僕たちはクリスマスの後、凜人さんに車を出してもらい新居予定地を見に行った。思ってた以上の広い土地に驚愕して、全くリアクションがとれなかった。確か、元々小さな商業施設があった場所だ。そりゃ広いよね。  そして、その足で朔のお母さん(沙那さん)の知り合いだという建築家の藤さんに会いに行った。オシャレでかっこいいオフィス。とても緊張したけど、気さくな人ですぐに緊張は解けた。  家のデザインや機能を聞いているうちに頭が痛くなって、途中からよく聞いていなかったのは内緒だ。とにかく、すっごいお家ができるらしい。年明けすぐに着工予定なんだそうだ。  なんだか話がスゴぎ過ぎて、どこか他人事になっている。啓吾とりっくんも同様に、『へぇ〜』って感じだった。八千代と朔が話を詰めてくれて、今更だけど全て任せていれば大丈夫なんだと確信した。  きっと今頃、僕たちの愛の巣が作られ始めているのだろう。全く実感など湧かないが、少しワクワクしている朔を見るとほっこりする。  朔と職員室へプリントを届けた帰り、ずっと笑顔を浮かべている朔を見て、僕も笑顔が止まなくなっていた。 「朔、ご機嫌だね」 「あぁ、やっと話が纏まって漸く着工したんだ。思ったより話が長引いて焦ってたから、今ホッとしてる」 「そっか。全部、朔と八千代に任せちゃってごめんね? なんか、全然話分かんなくて····」 「初日で理解するの諦めてたもんな。まぁ、俺らの要望が多かった所為でもあるし、そこは任せてもらって逆に良かったぞ」   理解できなていなかった事はバレていたらしい。 「そうなの? んへへ····なら良かっ──」  へらっとした顔を、窓側に居る朔に向けた時だった。  別棟に居る啓吾が見えた。女の子の腰を抱いて歩いている。僕と付き合う前、何度か目にした光景だ。  僕は立ち止まり、胃の辺りを渦巻くぐちゃぐちゃしたモヤモヤ(もの)を抑えようと、みぞおちを強く握った。 「どうした?」  朔が、僕の視線の先を追う。駆け出そうとした朔の袖を引いて止めた。 「違うよ····。多分、何か理由(わけ)があるんだよ····。ぼ、僕が自分で聞く··から····大丈夫」  何も大丈夫じゃない。震える僕を、朔は力一杯抱き締めてくれた。  放課後、八千代の家に着くなり僕は、啓吾の手を引き啓吾の部屋に引っ張り込んだ。りっくんと八千代には、朔が事情を説明してくれるだろう。  僕は鍵を掛け、啓吾をソファベッドに座らせる。何か話すと泣いてしまいそうで言葉を発せない。  今日一日、捨てられる原因を考えてみた。やはり、えっちが上達しない事だろうか。そりゃ、たぶん、やっぱり、女の子のほうがいいんだよね。そうであれば、とりあえず僕にできる事····。    まずはべろちゅーを頑張ってみよう。  キスをして舌をちろっと出したら、啓吾がそれを拾ってくれる。いつもシてもらうのを思い出しながら、必死に僕からも舌を絡める。状況の飲み込めない啓吾は、とりあえず僕に合わせてくれているようだ。  あまり上手くできなかったので、今度は恐る恐る、ズボンのファスナーを下ろしおちんちんを取り出す。ちゃんと固くなっている。僕のキスで気持ち良くなってくれたのだろうか。  啓吾のをしゃぶりながら自分で慣らす。洗浄はお昼休み八千代にされたから大丈夫だろう。おかげでまだ少し柔らかい。  啓吾は何も言わず、僕の気が済むまでやらせてくれるようだ。それとも、もう何もシたくないのだろうか。  複数の焦りが僕を追い詰める。たぶん解ぐれたので、多少強引にでもおちんちんを飲み込められればいいやと跨る。  すると、それを止めて僕の腰を浮かせたまま、何も言わずに啓吾がお尻を弄り始めた。キスをして、蕩けたところで僕の腰を下ろす。  互いに言葉を落とさない。何も言われない事に安心して、同時に、言い知れない不安に飲み込まれてゆく。  堪らず、僕は啓吾に聞いてみる。 「啓吾····僕のこと、飽きちゃった? 僕が、いつまれも上手に、えっちれきないから? やっぱぃ、女の子のほうがいいの?」    僕は泣くのを我慢しきれず、涙を落としながら一生懸命お尻でおちんちんを扱く。もう何度もイッて、足は限界を超えている。  けど、いつもみたいにへバって満足させられなかったら、啓吾を女の子に盗られちゃうかもしれない。そんなのは嫌だ。 「待って待って? 話見えないんだけど。え、なんで泣いてんの? これ(なん)のえっち?」  啓吾は僕のお尻を掴み、ゆっくりと突き上げながら聞く。わけも分からないまま、とりあえずえっちを続けるのが啓吾らしいや。 「ふぇ··? 僕が、(しゅ)てらぇないように····んっ、啓吾にぃ、満足(まんじょく)してもらうぅンッ··えっちらよ」   「俺に? 急にどしたの?」    僕は事情を話し、僕がいよいよ啓吾に捨てられるのだと思ったと言うと、思いっ切り突き上げられた。どちゅっと物凄い衝撃がお腹に響く。 「ゔ··ぁ゙····がはっ····待゙っ、らめ····お(に゙ゃか)変··イッ··ぐぅぅぅ····」  とんでもない衝撃だったのに、僕の身体は静かにイキ続けている。痙攣するでもなく、それでいて気を失うでもなく、けれど全く動けない。  啓吾は、奥に押し当てて小さくグリグリしているだけ。なのに、ナカで何度もさっきの快感が繰り返されている。 「俺がお前を捨てる? んな事有り得ねぇだろ。今更何言ってんの? まだわかんねぇのかよ」 「らって、(おんにゃ)の子の腰()いてぇ──」  啓吾は心外だとでも言いたげに怒っているが、僕はこの目で見たのだ。どう言い訳するのだろうか。 「あぁ····あれ、お前狙いの子だから。後で説明してやっから、とりま抱き潰すな。ちょーっとムカついてっから酷くすんぞ」 「ひあ゙ぁ゙ぁ゙ッ!! お゙ぁ゙っ、んぐぅぅぅ····奥゙っ、もぉ入んにゃいぃ! 死゙にゅっ、かはっ··けぇご、けーご! ふぁぁぁっ、()んじゃうからぁっ!! ぎゅって··ぎゅってちてぇ」 「あ? ギューしたら奥潰せねぇだろ。あと死なせねぇから。喋る余裕あんだったら息してろよ」  啓吾は“マングリ返し”と言っていた体勢にすると、全体重を掛けておちんちんを捩じ込んだ。これで、どうやって息をしろと言うのだろう。  息も絶え絶えになっている僕になど構わず、啓吾は自分がイク為のセックスを続ける。いや、これはえっちだなんて甘いものじゃない。  僕が泣きじゃくって本気で息ができなくなり、部屋の外からりっくんの怒声が聞こえると、漸く啓吾がイッて解放してもらえた。  そして、ココアを飲んで少し落ち着いてから、腰を抱いてた女の子の話を聞く。 「C組の嵩原(たかはら)陽向(ひなた)って知ってる? 結人が見たつってんの、その子ね」 「知ってるけど····。嵩原()()だよね?」 「ん? 嵩原()()だよ」 「嵩原··さん?」 「「······え?」」  僕と啓吾は、顔を見合わせ疑問符を飛ばし合う。どうやら、僕が認識を間違えていたらしい。  C組の嵩原陽向とは、学年でも有名なカッコイイ王子様系女子なんだそうだ。僕は3年間、男子だと思っていた。同じクラスになった事がないから、話したこともなければ関わりも一切ない。  何度か見掛けたけど、いつも女子に囲まれていて、よく見えなかった。だけど確か、制服はスラックスを履いていたはずだ。しかし、今日見たその子はスカート履いていた。  身長は啓吾より少し低いくらいだから、きっと僕より高い。嵩原さんのお顔はとても端正で、王子様と呼ばれるのにも納得していた。朔タイプの美形だ。そんなイケメンを、女子だと思うはずがないじゃないか。  聞くところによると、嵩原さんが僕を好きだという噂を入手した啓吾は、僕を訪ねてきた嵩原さんを追い返す為、肩を抱くように方向転換させていただけらしい。  あの直後、腕を叩き落されたのだと言う。もげるかと思ったと、話しながら腕をさする啓吾。  色々と話についていけない。どこからツッコめばいいのだろう。 「······え、王子(嵩原さん)が··僕のこと好きなの?」  やはり、まず気になるのはここだ。王子と呼ばれるようなモテる人が、どうしても僕なんかを好きになるのだろう。男女共に人気があると聞く。きっと、何かの間違いだ。 「好きなんだって。宣戦布告された」 「「「「はぁ!?」」」」  宣戦布告だなんて、されるほど好かれる理由が思い当たらない。けれど、本人から直接言われた啓吾を疑っても仕方がない。 「ねぇ、本当に嵩原さんなの? 嵩原さんって、確かいつもスラックスだったよね。僕が言ってる子はスカートだったよ?」 「結人の為にスカート履いてるらしいよ。3バカ娘がめっちゃ面白がって教えてくれた」  3バカ娘とは、一ノ瀬さん達の事だろう。情報をくれたのに、凄く失礼じゃないか。  とにかく皆は、予想外の(ライバル)の出現に戸惑っていた。それと言うのも、相手が女子だからだろう。それこそ、今更じゃないか。  普段は見せないような、か細い繊細さを発揮している場合だろうか。呆れた僕は、今思うことを皆に聞いてもらう。

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