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嵩原さんは悪い王子

 ダメだ、考えが纏まらない。この状況で笑っているなんて、嵩原さんの正気を疑ってしまう。  それに、思いのほか力が強くて振り解けない。女の子に力負けするなんて、あまりにも情けなくて泣けてくる。  ほんの束の間、僕が意気消沈していると、嵩原さんがズボンのファスナーを指で摘まんだ。これは絶対にマズい。初めましてでやる気満々じゃないか! 「たたた嵩原さん!? 何してるの!?」 「武居くんってどっち? って聞くまでもないか。受けだよね?」  僕の声は聞こえていないようだ。そして、1人で話を進めてしまう嵩原さん。 「君のセキュリティ、秒で来るらしいからさっさと行動しなきゃね。ねぇ、こっちはハジメテ?」  僕のおちんちんを取り出し、手に乗せて軽く握る。 「ひぁっ····」 「わぁ··。可愛い声。やっぱり武居くんならいけそうだな」  僕の肩を持ち、クルッと半回転させると戸棚に叩きつけられた。 「ひゃぁっ」  恐怖のあまり声が上擦る。それこそ、女子みたいな声を上げてしまった。  身体が強ばって動けない。嵩原さんは、しゃがんで僕のおちんちんを再び手で包む。そして、パクッと食べてしまった。 「ひゃぁぁぁ!!? 嵩原さん! ダメッ、やだっ、待って!! んぅっ、待ってぇ····」  へっぴり腰になり、嵩原さんの頭を手で押し返すがビクともしない。嵩原さん、強すぎだよ····。 「ん、おっきくなってきたねぇ····んふっ、可愛い」  それは、僕の反応がだろうか。それとも、サイズの話だろうか。なんて聞く余裕はない。けれど、なんとかイクのは耐えた。 「武居くん、女の子に興味ないの? 抱かれる側でいいの?」 「んっ··やぁっ····」  おちんちんを扱きながら話をされても困る。答えられないじゃないか。  この後も暫く質問責めにあったが、イクのを我慢するのに精一杯でひとつも答えられなかった。 「そろそろかなぁ····」 「んぃっ、イ、イかないよ····?」 「あはっ、違うよ。そろそろセキュリティが来る頃かなぁって。それに、イカさないようにシてるからね。あぁ、イかせてほしい?」 「ほ、ほしく··ないっ··もん」  僕がそう言うと、嵩原さんはまた僕のを咥えた。それと同時に、倉庫の扉が叩かれる。猪瀬くんと啓吾だ。  けど、ダメだ。強く吸われると我慢できない。 「んあぁっ····嵩原さん(たかはりゃしゃん)っ、離してぇ!」 「ん、出して(らひへ)」 「んあぁっ····」  嵩原さんに吸い取られて、僕はその場にヘタりこんでしまった。嵩原さんは、『ご馳走様』と言って自ら倉庫を出ていく。何がしたかったんだよぅ····。  嵩原さんと入れ違いに、啓吾と猪瀬くんが入ってくる。 「今の嵩原さんだよな? なんかされたの?」  啓吾が僕に駆け寄り、振り向きながら聞く。 「しゃぶっ、しゅ····(しゅ)いとられたぁ····」 「へ····? えぇ!?」  事情を話し、僕は啓吾に泣きつく。怖かったのと情けなかったのとで、僕は暫く立ち直れなかった。  告白をされたわけでもない。ただ、食われただけだ。それから数日、嵩原さんからは何のアクションもない。あれは、夢だったのだろうか。 「ゆいぴ、またボーッとしてる」 「相当ショックだったんだろう。俺たちが行った時も、情けないって····んふっ、可愛く泣いてたしな」 「おい朔、笑ってやんなや。しっかし····ンでだろうな、全然妬けねぇの」 「んなの決まってんじゃん。結人が別ベクトルでヘコんでるからだろ」  この緊急事態に、何を皆して笑ってくれているんだ。僕はとても傷ついているんだぞ。そもそも、襲われたんだぞ。  女の子に好きなようにされ、何をかは分からないが可愛いと言われ、彼氏に女の子が怖かったと泣きついたんだ。尊厳だとか、そういう次元じゃない。 「あぁ、ヤッてても上の空だしな。それだけは困るな」 「それでもいつも通りヘロヘロにはなってるけどね。暫くそっとしといてあげたほうがいいんじゃない? 向こうも何も言ってこないし」  優しさのつもりかは知らないが、それ以前に教室でなんて話をしているのだろう。りっくんのバカ····。 「ねぇ、ボクの所為で落ち込んでるの?」 「「うわぁっ」」  りっくんと啓吾の背後から、突如として嵩原さんが現れた。僕は直視できず、ササッと朔の後ろに隠れた。 「あからさまに怯えないでよ。もういきなり食べたりしないからさ」 「テメェ、よくのこのこと敵陣に乗り込めんな。取り巻きはどうしんだよ」 「あぁ····あの子たちなら、今頃空き部屋で寝てるんじゃないかな」 「まだそういう事ヤッてたんかよ。で、男嫌いのテメェがなんで結人狙ってんだよ」  八千代がズバリ切り込む。 「あれ、言ってなかったっけ? ごめんごめん。んー··武居くんはさ、どの女の子よりも愛らしいじゃないか。君らもそう思ってるんだろ?」 「そこだけは共感してやる。けど、結人は絶対にやらねぇ。それに、二度と触らせねぇ。結人がどれだけ傷ついてると思ってるんだ」  朔が僕の腰を抱き寄せながら言う。皆して笑っていたけど、一応は怒っていたんだね。 「別に、武居くんと付き合いたいとかは思ってないんだよね。お友達でいいんだ。ただ、僕の気持ちが昂った時だけ食べさせてくれれば。彼氏くん達には、コソッと内緒でバレないようにするから安心しなよ」  おっと、とんでもない事を言い出したぞ。皆もポカンとしている。そりゃそうだ。これまでにない、斬新なお友達付き合いを求められているのだから。  あまりにもビックリしすぎて言葉が出ない。けれど、呆気に取られたまま啓吾が話し始めた。 「えーっと? 結人のこと好きなんだよな?」 「うん、好きだよ」 「宣戦布告は?」 「面白そうだったからしてみただけ。別に、付き合うとかはいいよ。浮気だなんだって、騒がれるのも面倒だし」  思っていたより最低なタイプなのか。僕は、どうしてこうも女の子を弄ぶような人にばかりモテるんだ。 「あのさ、結人に抱かれたいとか思ってたんじゃねぇの?」 「あっはは! 1ミリも思ってないよ。ボクは可愛がる方が好きだからね。まぁ、それで武居くんのもっと可愛い所が見れるなら、シてみてもいいけど」  嵩原さんは妖艶な笑みを浮かべる。啓吾が言っていた、エロい微笑みだ。確かに、これは男女問わずオチてしまいそうなのは分かる。  待って、それどころじゃない。爆弾発言をいくつも投下しているじゃないか。処理しきれていないのだが。  しかし、嵩原さんは言うだけ言って満足したのか、ひらひらと後ろ手に手を振って行ってしまった。可愛がった女の子達を迎えに行くんだそうだ。 「アイツ、思ってた以上にやべぇな。卒業まで気ぃ抜けぇじゃねぇかよ····」  八千代がゲンナリして言う。僕は仔犬のように震えて、朔にしがみついたまま返す。 「僕、絶対皆から離れない」 「めっちゃ怯えてんじゃん。可愛いな〜」 「啓吾のばぁか····ばぁかばぁぁか」 「めっちゃバカ言われる。かわよ〜」  啓吾の腰にパンチを入れて、教室に帰るよう言ってやった。めちゃくちゃ笑いながら戻っていくから、僕の苛立ちは全くおさまらないままだった。  放課後、新居について藤さんから話があると呼ばれて行った。そこには、何故か嵩原さんが居た。 「あれ? 高校生がこんな所に何か用事?」 「お前こそ、なんで居んだよ」  八千代が威圧感を放って聞く。嵩原さんは動じず、ここでも爆弾発言を落とした。 「だってここ、父の事務所だから」 「「「「「は?」」」」」  僕たちは目を点にして言葉を失った。  聞くと、嵩原さんのご両親は離婚していて、“嵩原”というのは母親の姓らしい。今日はこの後、藤さん(お父さん)と食事に行くから迎えに来たんだそうだ。  世間って狭いな。そう思わざるを得ない偶然だ。  僕たちは新居の話を終え、そそくさと帰ろうとする。が、嵩原さんが啓吾を捕まえてしまい帰れない。 「そんなに急いで帰らなくてもいいでしょ。ちょっと、お話しようよ」  啓吾の襟首を掴み、ニコッと微笑む嵩原さん。僕は少し、嵩原さん恐怖症を発症しているかもしれない。だって、腰から身震いがして止まらないんだもの。

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